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備えの章
第17話
しおりを挟むこれは愛がフウタローに出会う数日前の物語、実に馬鹿げた公園での出来事を記した物語。
そう!、これは愛猫"アレキサン……げふん!、ゲフン!……愛猫の"虎次郎"を探していた愛の身に起こった奇妙な出来事を記した物語である。
ふぉっ、ふぉふぉふぉ……ワシの名は膝カックン爺さん、周りからは膝ジイと呼ばれておるわい。
かれこれ膝カックンを繰り返して早69年、今年で76歳の未だ現役の膝カックンマスターじゃわい
ここ15年は近所の公園の小僧らに散歩がてら膝カックンを食らわす日々じゃな
そして、今日も朝早くに目が覚めて早朝の4時に膝カックン修行を行うために家を飛び出したのじゃよ
膝カックンの秘訣は何と言っても膝じゃ!、膝周りを鍛えん事には何も出来んからのぅ
だから毎朝、こうして公園でのジョギング1時間・階段を活用したウサギ飛び千段・擬似膝カックン1000発を欠かさず行なっておるのじゃよ
そうして手にした膝カックンマスターの称号に恥じぬように毎日通りすがりの通行人に膝カックンを繰り出すことで世の中を良い方向へと傾けておるのじゃよ
たまにポリスメンなる面妖な者達に追われる事もあるが、日々の膝カックン修行を欠かさぬワシに追いつける小童などおらんよ
世間ではワシを"通り魔"と恐れる者がおる、しかし違うのだ……ワシをそのような邪な者達と一緒にしてはいかんよ
そう、言うならばワシは昼夜を問わず膝カックンで世間をお助けする正義の味方"通り膝カックンマスター"なのじゃ!
さて、膝カックン修行を終えて日も傾いてきた事じゃし、今宵も家出を繰り返す阿呆どもに喝を入れ……いや!、膝カックンを食らわすとしようかの!
むっ……あやつは…?
「どうしよう、ここにも居ない……」
何じゃ……あの……どこか儚げな美少女は…?
家出というには装いがしっかりしておるが……、膝カックンの前では関係のない事じゃよ!
「そこのお嬢ちゃん、もしや迷子かの…?」
「えっ…!、い…いえ、違います!」
ふぉふぉふぉ……油断しておるわい、まさか爺さんに膝カックンをされるなぞとは思うまい
「すみません、私……その、急いでいるので…!」
少女がワシの真横を通り過ぎる瞬間、とうに膝カックンを繰り出す準備は出来ておるわい
___シュバ…!
長年の修行と実践で培った勘と技術による完全に相手の意表を突いた膝カックンが今まさに炸裂し___ッ!!
___メキリ…!
ぐふっ……な、なんじゃ……!?
少女と目が合ったと同時に腹部に広がった痛み、最初は腹を刺されたとばかり錯覚していたが、下半身から込み上げる不意の痛みに理解した。
「がっ……こ、こな…!」
膝を折って崩れ落ちる、少女はその姿を静かに見下ろしていた。
こ…こやつ!、ワシが膝カックンを繰り返す瞬間に振り向いたばかりか!、膝を打ち出すより速く股間を蹴り上げおったじゃと…!?
「何のマネか知りませんが、不愉快です」
そ、その目でワシを見るな……!
「ご、ごの…小娘ふぜ…がッ!」
その目はワシの最も嫌いな目であった、他人を見ようとすらしない反吐の出るような下卑なる目じゃ!
「しかとワシを見よ!、小童が…ッ!?」
震える膝に力を込めて立ち上がる、お主がワシを蔑むのであれば、ワシは全力で膝カックンを繰り出すまでじゃよ!
「通り膝カックンマスターと呼ばれるワシの恐ろしさ、お主の膝裏に刻み込んでやろうぞ!」
「ハァ……面倒くさい……」
少女はため息を吐く、その瞬間を待っていたのじゃ!
___ズザッ…!!
これまでに培ってきた技術と経験を膝先の一点に集中させ、膝周りの筋肉を限界まで収縮させる。
この技を見破れた者など一人もおらん!、そして今宵も同じじゃ!
高速歩法による爆発的なスタートダッシュを軸に加速を殺さぬまま少女の背後に回ると同時に方向を急転換して踏み締めた地面を抉り、速度を維持しながら最速にして最強の膝カックンを繰り出したのだ。
「勝ったッ!!」
___ハラリ
なっ………ッ!?
渾身の膝カックンが何もない空間を突き刺した、今さっきまで目の前にいた筈の少女が消えたのだ!
「な、なんじゃと……!?」
背後から伸びた手が肩に触れる、ゾクリ…と寒気に震えた。
「どんなに速く動こうと、狙いが分かっている以上、さほどタイミングを読むのは難しい事ではないわ」
最後に耳元に囁かれた言葉はクソムシであった。
「ま、待て……!、まだワシは…!?」
___バキッ!
「ヒョ……!?、ごぁ……あ…ぁ…!」
背後からの蹴り上げに膝ジイは言葉を失い、倒れ込む。
意識を失う最中、膝ジイは誓った。
決してこの恨みは忘れぬぞ!、決してだ!、お主の孫の代まで膝カックンをお見舞いしてやるのじゃ!
___ガクリ…!
そうして膝ジイは気絶した、あまりの痛みに白目を剥いて倒れたのである。
「はぁ……面倒くさい、あっ…もしもし…はい、公園で老人が倒れていて……はい、救急車をお願いします、はい…はい……分かりました、失礼します。」
電話を切って立ち去った、これが少女と膝ジイとの因縁の始まりである。つまり、この物語はもう少し……いや、かなり長く続いていく事になる。
おしまい___。
絶対に許さぬからな~ッ!!
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