ある日、始まった物語

どこか儚げな美少女

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打倒の章

第40話

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 私は打倒者、ただの打倒者です。












 ………?


















 ………??
























 ___私は誰だ…?






















 私は誰だか分からない、私は私という存在が分からない。


 私は、私で、私も、私が、私すら、、、


 ___分からない…。









 私は、生前を知らない。


 私は、"打倒者"となる以前の私を知らない。


 私は……、























 ___誰だ…?




 脳裏に木霊する声、それは私のものでは決してない。


 誰だ…?、この声は誰のものだろうか?




















 ___フウタロー…!















 どうしてか理由は分からない、特定の誰だかすらも分からない得体の知れない男の名。それが私の脳裏に木霊した。







 フウタロー?、なんだその陳腐な名前は??




 ___と、最初に思った私がいた。




 ___だから覚えていた、




 ___だから呼んでみた、




 ___だから……、




 「さぁ、私の手を取ってください、フウタロー!」




 だから、彼に手を差し伸べた。地面に転び、呆気に取られていた彼を、私は自身の片腕で軽々と引き起こす。


 ___彼は問く……。


 「どうして、俺の名前を……?」


 そんな問いが、彼の口から飛び出した。私は、そんな彼の反応を見ていて、至極当然であると思った。


 しかし、だからと馬鹿正直に理由を説明したところで彼が本当に納得してくれるだろうか?、だから私は開きかけた口を静かに閉じてしまった。だって、脳裏に浮かんだ名前を呼んでみただけなんて、そんなバカみたいな理由では恥ずかしくて言える訳がない。


 だから、私はこの件について誤魔化す為、彼に対して少し蠱惑的に微笑むと、彼を揶揄うように返答する。


 「ふふっ……さぁ?、どうしてでしょうね」


 そう、キザにカッコつけて言ってみる。


 上手く……誤魔化せただろうか…?


 私は、自分の余裕な表情の裏で自分自身の心臓が鳴り止まない現状を独り静かに鑑みた。


 彼が、ジッと私を見つめてくる。


 ___カァ…



 ちょっ、そんなに見られたら恥ずかしいよ……


 先程、無理してカッコつけた分だけ、彼に怪しまれてはいないか?、変人だと思われていないか?、という考えで私の思考は手一杯である。


 しかし、待てよ?、どんなに恥ずかしい思いをしても……最終的に殺してしまうのだから、今更になって体裁を気にしたところで、一体どうするつもりというのか?


 私は、ふふん……と鼻先で羞恥を笑い飛ばす。


 そして、まず彼に聞くべき事を聞いたのだ。


 「フウタロー、マフラーはどうしたのですか…?」


 私からの問いかけに、ふと言葉を咀嚼するような表情で彼は考えた。そして、どうやら彼はマフラーを家に忘れてきた事を思い出したらしい。


 「あー、家に置いてきたな」


 だから___、


 「はぁ……それは、とても困りましたね」


 私は呆れにも近い表情で考えにふけんだ、今回の私に任された役割は、まず最初にマフラーを回収する事。


 「どうした……?、あのマフラーがなんか関係あるのか?」


 彼、フウタローからの問いかけである。


 あのマフラーは、私が管理塔に加入する遥か以前に消息を絶ったとされる"守護者"と"歩行者"、その両名の"権能"の切れ端が唯一保存された管理塔最古の"遺物"にして管理塔最大の"兵器"である。


 我々は、この力を呼び覚まさなければならない。我々の目的を果たす為、このマフラーの担い手にして適正者を探していた。そして、それが私の目の前でヘラヘラと笑っている彼であるらしい。


 まぁ、無理もない。だって彼は………いや、話の本題とは少しズレていた、それでは話を元に戻そう。


 次に、私は彼を殺されなければならない。理由は簡単、彼の中に眠る"クソムシ"だ。


 クソムシがどういう経緯で彼に寄生したのか詳細は私にも分からない。しかし、これは却って好都合だと言える。


 我々、管理塔に属する存在には"権能"という名の役割であり、縛りがある。そして、それは各個人で決められるものでもなければ、お互いに交わる事の出来ない不可侵の領域でもある。加えて、この"クソムシ"と呼ばれる存在は、経緯はなんであれ広義で見れば管理塔に属している。だから、私を含めた〇〇者に寄生する事は不可能であると私は声高らかに宣言しておこう。


 ___だから、"彼を殺す"。


 彼を私達の仲間に引き込む為に殺すのだ。


 この世界は完成された完全にして完璧なものと捉える者がいるが、それは間違っている。本当は未完成で不完全、愚かなまでに杜撰な管理システムの上で成り立っている。


 だから、実在する筈の存在が、存在ごと消えて無くなる事もあれば、実在しない筈の存在が、突如として現れる事だって有り得るのだ。


 我々は、それを共通の認識として"転生"と呼んでいる。この世界に現存する唯一にして最後の管理システム、通称〈輪廻〉において転生という名の"バグ"は純然にして必然にして当然の事のように生じるものであった。


 そう語る私もまた、その輪廻転生の果てに偶然にも発生したバグの一例に過ぎないのだろう。


 ___だから、彼を殺す。


 実際に転生するかどうか、そんなの分からない。私はその仕組みを、そんな理屈を全く以て知らない。


 だがしかし、それに関して私には確信があり、確証があり、確定事項であったのだ。


 彼は、必ずや転生すると私は踏んでいた。


 それは何故か?、私には分からない。


 だが、脳裏に浮かんだフウタローという名を少しずつ噛み締めるように思考の奥で咀嚼する。そうしていると、私は彼に希望を見出し、そして希望を託す事ができたのだ。理由は分からない、だけど私は彼が希望であると信じられたのだ。


 ___だから、彼を殺した。


 しかし、直前になって私は止めどない不安感に駆られていた。


 もしも転生が発生しなければ?、もしくは転生したところで我々と同じ道を歩む同志ではなかった場合、私はどうするべきかを迷っていた。


 だから、私は最後に別れの言葉を告げていた。それは私の無意識にして我儘だ、その事に意味などない。だがしかし、それが意図しない形で私の唇を動かし、その喉元から別れを告げさせたのだ。


 ___きっと、少なくとも私の中では意味があったのだろう。


 私は、そう信じて死骸に背を向けた。







 次に私の身に起きたのは、理解の出来ない恐怖と、再び相見えた事に対する高揚であった。


 加担者、それが彼の新たな役割であるらしい。


 これでクソムシは、彼に対して手出しは出来なくなった。私は、この幸運に巡り逢えた事に感謝しよう。


 しかし、希望が絶望を前にして初めて姿を見せるように、この幸運の前にも確かに不幸が隠れていた。


 "権能"が交わる事はない、私は最初にそう説明した筈だ。そして、この世界は支配者たるクソムシが自らの宿主から切り離された事により、その支配権は永久に失われた。つまり、今ここは加担者、その彼が支配する精神世界という事になる。だから、私の"権能"は必然的にして、相対的に彼が所持する権能よりも遥かに強度が劣ってしまった。そして、その絶対的な力量差に私の必死の抵抗も虚しく、死闘の果てに己の権能を打ち砕かれ、彼の手によって殺されてしまったのだ。


 それが私、打倒者が死闘の果てに得た結末である。


 だがしかし、私はそれを憎む事も、恨む事も、悲しむ事もない。私は決して、この一連の出来事を悪いようには捉えていなかったのだ。


 彼に殺される瞬間、私は無意識のうちに安堵していた。


 ___きっと、この結末に間違いはない。


 そう私は確信し、そんな結末に私は心から満足したのである。


 だから、最後は形だけでも笑って別れたかったのだ。


 「……ふふっ、さようなら…フウタロー……。」


 そうして私は、この暗い暗い物語の終幕に、眩いばかりの輝きがある事を願って静かに目を閉じたのである。













































 ___管理システム"〈輪廻〉"に異常事態が発生……、ただちに予備の修正プログラムを起動します。

























 ___?


 私は、目を開けた。その固く閉じた瞳を恐る恐る開けてみせたのである。


 自身を見下ろし、小さくなった己の体を見回した。そして、次に周囲を見渡してみる。どうやら、ここは誰かの家のソファの上だろうか?、そんな場所に私は座り込むようにして寝ていたらしい。


 そして、次に聞こえてきたのは誰か2階から降りてくる存在の足音である。


 ふと、その一階へと降りてきた者と視線が合い、互いに見つめ合う。


 まさか、彼は___、、、


 「な、なんで………」


 彼、フウタローはひどく困惑していた。


 しかし、そんな彼に反して私、脳裏に浮かんだ新たな名前"山田 詩(やまだ  うた)"という少女は少し蠱惑的に微笑むと、彼を揶揄うように返答する。


 ___否、そうするべきなのだと彼女の勘が確信を持って告げていたのだ。



 「ふふっ……さぁ?、どうしてでしょうね」



 それが彼、"フウタロー"との二度目の出会い、そんな思いがけぬ再会の瞬間であったのだ。













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