ある日、始まった物語

どこか儚げな美少女

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打倒の章

第41話

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 「以上が……、私が知り得る全ての情報です。」


 そう言って打倒者は、いや……今は山田 詩(やまだ  うた)という"役割"に準ずる少女は静かに口を閉ざしたのである。


 「…………。」


 俺は、先程までに脳裏へと流れてきた全ての情報に対する処理に手間取っていた。長い沈黙が、この二人の間に深く根を張っていた。









 ___すると…、


 「フウタロー……、私は」


 ___詩は呟く。


 「今の私に残されたのは、打倒者であった頃の記憶と……それから、貴方に打ち砕かれた筈の"権能"の僅かな欠片だけでした。だから……」


 ___詩は少し迷ったように呟いた。


 「まだ、私の方も自分の身に起きた出来事の全てを受け入れられた訳ではありません。ですが……」


 ___今度は、迷いの一切ない声でこう発した。


 「私は、私がした選択に間違いはなかったと強くそう信じています。」


 ___そう言うと、懐から何かを取り出す。


 「これは、貴方が持っていて下さい。今の私では、どうする事も出来ませんので……」


 差し出されたマフラー、俺はそれを受け取った。すると、そのマフラーを握った手を包み込むようにして詩の両手指が優しく触れてきた。不意に微かな光がマフラーから発せられる。しかし、その輝きは周囲の灯りに掻き消されるようにして一瞬のうちに消え去ってしまったのだ。


 ___そして詩は、俺からパッ…と手を離した。


 「そのマフラーには、私に残された権能の全てを託しました。これで私は…、正真正銘ただの人間になってしまいましたね。」


 ___言葉に反して、明るく笑う詩。しかし……


 「……お前は…、お前はそれで良いのかよ!?、お前が全てを失ってまで救った俺に!、そんな俺にこんだけの価値があったのかよ!」


 フウタローの声、少し語気が強くなってしまった。そして、その声に驚きの表情を見せつつも詩は呟いた。


 「あなたの価値について?、本当におかしな質問をしますね。」


 ___ここで"打倒者"は、ふふん…と勿体ぶるように呟く。


 「心配は要りません、だって貴方は……」


 ___ピリ…!


 中途半端に言いかけた言葉、その瞬間に打倒者の脳裏を駆け巡ったのは電流に酷似した"死"である。打倒者の脳みその四方八方に分散し、各自が脳を一息に5周半したところで脳の血管、ひいては脊椎から伸びる脊髄神経までを高電圧のエネルギー物質が神経の中枢から末端にかけて全ての神経経路を焼き潰す。そして、脳全体を無慈悲にもショートさせたのである。その途端、打倒者の頭部に白煙がボワっ…と、音を立てて立ち昇っていた。
 次に脳から眼球へと電流が飛び火し、あまりの高負荷に眼球の視神経が破裂し、その近くに流れていた血管を巻き込んで両目からの大量の出血、打倒者は目を見開いて大粒の血涙を流していた。


 ___前が……っ!、見えない…ッ!?


 機能の大半が損傷を受けた脳みそで、どうにか少しでも現状を把握しようとした。しかし、視界が赤く染まり、思考は混乱をきたしていた。そんな頭部から迸る痛みに悶え、その末に打倒者は力無く床へと前のめりに倒れ込む。


 ___ドサッ…!


 床に倒れた矢先、痙攣して言う事の聞かない両手指で尋常ではない痛みを発する頭を強く押さえた。ガクガクと震えが止まらない唇、開けっ放しの口から溢れた唾液が、みるみるうちに液体から泡状へと変化を遂げてブクブクと打倒者の口を塞いでいく。

 そして、痛みに身を捩る、床の上で悶え苦しんだ肉体。すると、先程まで頭部を押さえていた両手が、今度は一変して呼吸のままならない息苦しそうな様子で自身の胸部を何度も何度も強く爪を立てて掻きむしる。


 「ァ……ガ…ォ…」


 もう何も分からない、既に脳は外部からの刺激に対して機能していなかった。だがしかし、そんな耳元で鳴り響く声に打倒者は更なる恐怖と混乱に陥っていた。


 ___これは代償、貴女だけの代償……


 前に一度だけ聞いた事のある声、その声に打倒者は半狂乱となった思考で助けを求める。


 「た……す、ケ」


 血にまみれた腕、フウタローに手を伸ばした。だがしかし、それは届かない___。
















  否___ッ!、


 「打倒者ッ!?、おいッ!、しっかりしろ打倒者ッ!!」


 その手を握る、確かにその手を握ってくれたのだ。大きな手、フウタローは叫ぶ、そして打倒者の名を呼んでいた。


 「フウ…タ……ロ…ォ」


 打倒者、彼女の潰れた視界に映るは自身に呼びかける男の顔、その瞳には涙を溜めていた。その男の頬から流れた涙が、私の頬にポタポタと落ちてきて、ひどく私の頬の濡らしてみせる。


 ___こんな…お別れは、やっぱり寂しいな…。


 打倒者は、そう心で呟いた。


 ___でも、


 私の為に泣いてくれた事、それはそれで喜ぶべきだろうか。はたまた私自身も一緒になって悲しむべきだろうか。今の私の脳みそでは、そんな簡単な事ですら決めかねてしまうのだ。


 ___いや、


 しかし……今この瞬間、こんな感情、そんな思考、あんな思いを抱いているのは、誰でもない"貴方"だから…、他の誰でもない貴方がフウタローだからだろうか?


 ___ふふっ、もう……分からないな…、、、


 そんな答えにもならない答え、そんな言葉が打倒者の思考を駆け巡り、そして静かに輝きを失った二つの瞳を閉じていく。


 ___ばいばい…、フウタロー……。


 打倒者は笑う、無理にその赤く染まった両頬で笑ってみせたのであった。


 ___だって、


 お別れの時ぐらい、笑って相手に別れを告げたいと願う気持ち。それは嘘で塗り固められた歪んだ偽りなどではなく、ただひたすらに愚直で真っ直ぐな私だけの我儘なのだから……。


 ___加担者、あなたに死闘の果てに栄光があらん事を、私は心より願っています…。










 ___男は、無意識のうちに叫んでいた。



 「行くなっ!、逝くなよッ!、なぁ!、俺を置いていくなよッ!」



 ……打倒者___ッッ!!!



 ___閉じた瞳、開かれない。



 ___過ぎし時、戻せはしない。



 ___力無き手、滑り落ちていく。



 ………加担者、



 お前は、死闘の果てに何を得た___?







 ___そして、



 ………この先、何を失っていくのだろうか…?













 ………死闘の果てに、加担者は涙した…。


 それは、この男の心をズタズタに引き裂き、吐き捨てられたボロ雑巾のように酷く心を傷つけ、絶望の淵に叩き落とすには十分に過ぎた出来事であった。


 ___しかし、


 ___されど、


 ___決して、


 ___この先も、


 ___死闘は未だ、終わらない……。






















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