『冒険者ギルドへようこそ(最強剣士と娘巫女) ~全ての謎を解き明かし、全てを救う物語~』

此木、大(しばいぬ)

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第1章 リリアの巫女(いわやのはなのみこ)

第74話 冥い力

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「颯竢、神器はどうする?」
ジャンがふらつくリンに肩を貸して近付いてきた。
「この木箱と鏡とペンを回収するべきなんだろうな…」
先刻の儀式を見て、その3点セットが必要なのは分かった。
ジャンが木箱を抱えてリンが鏡とペンを持てば行けそうだ。
ふと、ジャンに支えられているリンの顔色が悪い事に気付いた。
「リン? 顔が真っ青だ! 大丈夫?」
リンの目は焦点が合っておらず、俺の呼び掛けにも反応が無い。
口の端からよだれが垂れている。
「リン! おい、しっかりしろ!」
ジャンがリンを揺さぶるがそれにも反応しない。
リンの呼吸は段々激しくなり、目が血走っている。

「ダラ! ミカとフミナを連れて先に脱出してくれ」
「分かったが、無茶はするなよ?」
ミカをゆっくりと地面に下ろすと、自分の足で立つ事が出来た。
「行けるか?」
「はい…」
ダラの問い掛けにミカとフミナがうなずいた。
ダラは両手に巫女の手を取り、ゆっくりと石段を下り始めた。

リンの視線が床に釘付けになっている。
床にはリンが持って来た鏡が落ちていた。
それはよく見ると細かい装飾を施した青銅鏡だった。
鏡面を下にして落ちているが、鏡面から黒い粒子の様なものが溢れ出していて、それに合わせて鏡が振動しているように見えた。

嫌な予感がした。

リンがジャンを突き飛ばし、青銅鏡に跳び付いた。
「リン! それは駄目だ!」
俺の必死の呼び掛けもリンには届かない。
リンが青銅鏡を持ち上げると、鏡面から黒い光が一気に膨れ上がった。
黒いのに眩しい。
思わず腕で目を覆うとジャンの絶叫が聞こえた。
「リン! リン! リーン!!」

眩しいのを耐えてリンの姿を探すと、リンが背中を丸めてうずくまっていた。
背中が大きく脈打ち、巨大なこぶが盛り上がったように見えた。
黒い光は繭のようにリンを包み込む。
咄嗟に手を伸ばしたジャンの手を『バチッ』と音を立てて弾き返した。
「ぎゃああああ!」
「ジャン!」
右手を押さえてうずくまるジャンに駆け寄る。
ジャンは自分の右手を触れたり握ったりして確認すると、顔をしかめてこちらを見た。
「たかが指の骨を折られただけだ…」
「いや、完全に戦力外通知なんだが、それは…」
こんな時なのにジャンの天然ボケにツッコミを入れずにはいられなかった。

黒い光の中のリンは両手で膝を抱きしめて丸くなっていた。
背中には大きな翼が見える。

リンを包んでいた黒い光が徐々に薄らいでいく。
それは消えるというより、リンに吸収されているように見えた。
漆黒の翼が生えた彼女はほとんど、リンの姿そのままだった。

「リン…?」
ジャンが呟く。
凛とした表情をした彼女は、見知っている様な、やはり初めて会った様な、不思議な感じだった。
「リン?」
呼び掛ければいつもの様に答えてくれるんじゃないかと期待して呼び掛けるが、リンの耳には届いていない様だ。

バサッ!
リンは漆黒の翼を一度羽ばたいて見せた。
肩甲骨のあたりから生えた翼はコウモリの様な形状で、しなやかな動きだった。
翼を頭の横に、万歳したような格好で折り畳み、前後に振って確認している。
明らかに意思はあるが、俺達の事は全く気にもしていない感じだった。
「リンじゃ…ないのか?」
間違いなく俺の声はリンの耳に届いている。
ただ、反応しないだけだ。
「もう、駄目なのか?」
すっかり変わってしまったリンを見て思わず弱音が漏れる。

「駄目なもんか! 諦められるもんか! 前世でリンを死なせたのは私なんだから!」
ジャンは激しく頭を振って叫んだ。
「どうしようもない人生でリンにいっぱい迷惑かけて、結局一緒に死なせてしまって…」
ジャンはうつむき、涙を流しながら叫んでいた。
「それでも一緒に転生したリンは『また一緒になれて良かった』って言ってくれたんだ!」
ジャンは手の甲で涙を拭いながら続けた。
「だから俺はリンの為に生きてリンの為に死ぬって決めたんだ!」

ジャンがそう叫ぶと、リンは静かにこちらに振り返り、少しだけ微笑んだ様に見えた。
それは、ほんの一瞬の事で、ただ『そうであって欲しい』という願望でそう見えただけかもしれなかった。
リンは神殿をぐるりと見回すと、何かにガッカリした様にため息をついた様に見えた。
何を考えているかは分からなかったが、強烈な攻撃が来るのが視えた。

「ジャン! 伏せろ!」
そう叫ぶが間に合わない。
ジャンに飛び付き押し倒すと、リンが放った黒い光線が俺達の頭上を迸っていった。
それは別に俺達を狙った攻撃ではなく、目線の高さを横に薙ぎ払っただけのようだった。

『ゴオォォオオオオン』
凄まじい轟音と激しい揺れの後に、猛烈な熱波が襲ってきた。
階段の下を見ると火の海になっていた。
「な…そんな…」
ジャンが呟いた。
ダラ達が逃げる時間は十分にあったと思うが、それでも不安になる程の大惨事だった。
「リン! 俺だ! 戻ってくれ!」
ジャンが両手を広げてリンに飛び付くのが見えた。
ふと足元を見ると、リンが落とした青銅鏡がまだ振動しているのが見える。

「まだだ…」
俺はそう呟くと青銅鏡を拾い上げ、鏡面を覗き込んだ。
まだ終わった訳じゃない!
『うわあああああああああああああああああああああああああ!』
それは吐き気を催すほどの恐怖、憎悪、失望、嫉妬、怒り、悲しみ、そして届かない希望。
それは決して救われる事の無い、魂の叫びのようだった。

「颯竢!?」
ジャンの呼ぶ声は聞こえていた。
そう、まだ終わりじゃない!
リンと対等になるにはこうするしかなかった。

薄れゆく意識の中、俺の願いは…

眩暈がするほどの苦悩が俺を蝕んでゆく。

俺の中で俺が薄くなっていく…


何を求めてこんな無茶をした?


………リン………

俺の中で何かが力を取り戻していく。
「そうだ、リンを取り戻す!」
失いかけていた何かが俺の中を埋めていく。
『こんな形で失ってたまるか!』
心の中で理不尽に対する怒りの感情が膨れ上がる。


目を開けると目の前でニンゲンが何かを叫んでいる。

……何か…大切な事を忘れている気がする………

いや、大丈夫だ、ちゃんと覚えている。
リンを助けなければ…

リンはニンゲンを抱えると上を向き、目から黒い光線を放ち天井を破壊した。
壊された天井から一気に大量の海水が流れ込んできた。
リンは漆黒の翼を羽ばたかせると、頭上の海に飛び込んだ。
行かせるものか…
俺も後に続く。
海中を一気に上昇し、空へと舞い上がる。
リンはニンゲンを砂浜に下ろすと、俺の前まで飛び上がって来た。

『リンを取り戻す』
俺はリンの中にいる災厄そのものに災厄の黒い波動をぶつけた。
『リンを返せ!』
リンの中の災厄も俺の力に力をぶつけてくる。
物凄い量の力が、俺の身体の奥から腕を通って放出されているのが分かる。
それは快感ですらあった。
『もっと… もっとだ!』
俺はさらに大量の力を放出し始めた。

力の束がリンの力を圧倒し始めた。
『返せ!』
突然、俺の身体を支配していた力が消滅した。

拮抗していた力のバランスが崩れ、リンの放った波動の力が俺の身体を撃ち抜いた。

………………

『馬鹿ね、   でも、      ありがとう…』

… … … … …




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