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第1章 リリアの巫女(いわやのはなのみこ)
第80話 娘たち
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「あんなに食うとは驚きだったな」
ダラは蒸留酒の入った木製のジョッキを回し、琥珀色の液体が波打つのを眺めながら言った。
ミカとフミナはしっかり食べて、散々泣いて部屋に戻って行った。
「初めて会った時、あの二人はまるで捨て猫のような顔をしていたな」
ダラは少し酔っているようだ。
「愛情なんて感じた事はなかった… そんな感じだったね」
ふたりの感情を出さない表情を思い出さずにはいられなかった。
「泣いたり笑ったりすればあんなに可愛らしいのに」
この二日間、彼女達は色々な表情を見せた。
だからこそ二人の事を不憫に思っていた。
「それで? 親代わりになってやる決心はついたか?」
ダラはそう言うとジョッキを傾けた。
「親って言っても、そんなに年齢離れてないよ」
双子の姉妹は17歳前後だろう。
一方俺は現在精神的にも肉体的にも22歳くらいだ。
「彼女達の精神年齢は恐らく10歳程度、颯竢なら充分だ」
ダラはニヤニヤしながら言った。
「いや、結構しっかりしてる様に見えるけど…」
下手をすれば俺なんかよりずっとしっかり者だと思う事さえある。
「精神年齢としっかりしてるかどうかはあまり関係ないさ」
ダラはニヤニヤしたまま続けた。
絶対面白がってるよな…
しかし、どのみちもう暫くの間は、彼女達に保護者が必要だろう。
「俺は別に構わないけど」
特に深く考える事なく答えたが、冒険者が子育てなんて出来るのか?
あまり聞いた事は無いが。
「二人とも颯竢に懐いている。 何も心配いらないさ」
ダラは俺の心を見透かした様に言った。
最初、二人を連れて町を出ると言った時はもっと軽い気持ちだった。
しかし、よく考えれば未熟な姉妹を見知らぬ土地に放り出す訳にはいかない。
軽い気持ちで捨て猫を拾ってしまうのと同じ理屈だろうか。
「養子の登録ってどうやるんだろう?」
ダラなら知ってそうで尋ねてみた。
そういえば俺本人もこの世界に戸籍は無い。
冒険者を引退して市民権を得る者も稀にいる様だが、基本的に転生者は勝手にこの世に現れ、勝手に死んでいく。
俺達はそんな存在だった。
「そこまで畏まる必要はないだろう。 対外的には旅の同行者と言っておけば何も問題ないはずだ」
確かに社会保障があるわけでもないし、細かい事は気にする必要も無いかもしれない。
これだけ話をして、ようやく覚悟を決めた。
翌朝、目が覚めると丁寧に身だしなみを整えた。
顔を洗って歯を磨く程度だが。
1階に降りると既にダラがテーブルに着いていた。
「早いね」
ダラに話しかけるとニヤリと笑い返して来た。
「本日のメインイベントを見逃す手は無いからな」
「あまり冷やかさないでくれよ」
苦笑いで表情が引きつるのを感じた。
ミカとフミナが階段を降りて来たのは案外すぐの事だった。
「おはよう」
「おはようございます」
俺の声を聞くとふたり揃って挨拶を返してきた。
「おはよう」
ダラはそう挨拶すると厨房に歩いて行った。
朝飯を注文するのだろう。
「よく眠れたかな?」
二人の顔色を確かめながら尋ねた。
初めて会った時に比べて随分血色が良くなった気がする。
「はい、おかげさまで」
ミカが笑みを浮かべてうなずいた。
「あんなに気持ちのいいベッドは初めてでした」
フミナが興奮気味に言った。
「フミナったらベッドから降りたくないって言って…」
「だって気持ちよかったんだもーん」
こうして見ると、二人とも本当に普通の女の子だった。
「二人に話があるんだ」
ミカとフミナの目を順に見つめて言うと、ミカが不安そうな表情を見せる。
「はい? 何でしょう?」
「もし私達がお邪魔でしたらここに置いていっても…」
「もし良かったらだけど、二人とも俺の養子に…」
ミカと俺は同時に切り出して、同時に口を閉じた。
「え?」
「え?」
お互い相手が何を言ったか良く聞こえて無かった様だ。
「颯竢様、今のお話は本当ですか?」
フミナが駆け寄って来た。
「え? 今何って言ったの?」
ミカはフミナに駆け寄りコソコソと話し始めた。
「颯竢様が私達を養子にしてくれるって」
聞こえてますけどね。
「もし二人が嫌じゃなければ、二人がもう良いと言うまでで良ければね」
「嫌だなんて…」
ミカが瞳を潤ませてこちらを見た。
「寂しいのも捨てられるのも慣れてたけど…」
ミカはそこまで言うと言葉を詰まらせた。
「本当は、みんなが家族と一緒に温かいご飯を食べてるの知ってた…」
フミナはミカの代わりにそう言った。
「私達には願う事も許されない事…」
フミナは唇を噛みしめて続ける。
「他人の幸せを願うべき巫女が、幸せな人の姿を見て心が冷たくなる… 胸が痛くなる」
フミナはそこまで言うと目尻に涙を浮かべた。
「もうやだよ…」
フミナがそう言うと、ダラが神妙な面持ちで戻ってきた。
「もうあの冷たい世界に帰りたくない…」
ミカがそう言うと、二人の背中に手を回して抱きしめていた。
その背中はとても小さく、そして小刻みに震えていた。
身を寄せ合って生きていく小動物の様だった。
「俺が、俺達が、もう二度と君達を邪教徒の手に渡したりはしない、約束だ」
「ほら、朝飯だぞ」
俺の胸の中で震えて泣く姉妹にダラが声をかけた。
ダラの言う通り、ウエイターがワゴンにトーストとサラダ、ベーコンエッグとコーンスープを乗せて運んで来た。
「まだ泣いてるんだけど…」
ミカとフミナの頭を見下ろしながらダラに言うが、二人は香りに誘われる様に俺の手を離れてテーブルに着いた。
「それじゃ、頂こうか」
泣き顔のミカとフミナに食べるように促した。
「いただきます」
二人は恭しく食事に手を合わせると、恐る恐るパンに手を伸ばした。
「や、柔らかい」
フミナが驚きの声をあげた。
「これが… パン?」
ミカが信じられないという様な顔をした。
多分、君たちが今まで食べてたのがパンじゃ無かったんだよ…
「知らなかった… パンが口の中でとろけるなんて… 皆で囲む食卓がこんなに温かいなんて…」
ミカは夢を見る様な表情で言うが
「それは良いが、そろそろ喋りながら泣きながら飯を食うのはやめろ」
ダラはスプーンでスープを飲みながら姉妹に注文を付けた。
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ダラは蒸留酒の入った木製のジョッキを回し、琥珀色の液体が波打つのを眺めながら言った。
ミカとフミナはしっかり食べて、散々泣いて部屋に戻って行った。
「初めて会った時、あの二人はまるで捨て猫のような顔をしていたな」
ダラは少し酔っているようだ。
「愛情なんて感じた事はなかった… そんな感じだったね」
ふたりの感情を出さない表情を思い出さずにはいられなかった。
「泣いたり笑ったりすればあんなに可愛らしいのに」
この二日間、彼女達は色々な表情を見せた。
だからこそ二人の事を不憫に思っていた。
「それで? 親代わりになってやる決心はついたか?」
ダラはそう言うとジョッキを傾けた。
「親って言っても、そんなに年齢離れてないよ」
双子の姉妹は17歳前後だろう。
一方俺は現在精神的にも肉体的にも22歳くらいだ。
「彼女達の精神年齢は恐らく10歳程度、颯竢なら充分だ」
ダラはニヤニヤしながら言った。
「いや、結構しっかりしてる様に見えるけど…」
下手をすれば俺なんかよりずっとしっかり者だと思う事さえある。
「精神年齢としっかりしてるかどうかはあまり関係ないさ」
ダラはニヤニヤしたまま続けた。
絶対面白がってるよな…
しかし、どのみちもう暫くの間は、彼女達に保護者が必要だろう。
「俺は別に構わないけど」
特に深く考える事なく答えたが、冒険者が子育てなんて出来るのか?
あまり聞いた事は無いが。
「二人とも颯竢に懐いている。 何も心配いらないさ」
ダラは俺の心を見透かした様に言った。
最初、二人を連れて町を出ると言った時はもっと軽い気持ちだった。
しかし、よく考えれば未熟な姉妹を見知らぬ土地に放り出す訳にはいかない。
軽い気持ちで捨て猫を拾ってしまうのと同じ理屈だろうか。
「養子の登録ってどうやるんだろう?」
ダラなら知ってそうで尋ねてみた。
そういえば俺本人もこの世界に戸籍は無い。
冒険者を引退して市民権を得る者も稀にいる様だが、基本的に転生者は勝手にこの世に現れ、勝手に死んでいく。
俺達はそんな存在だった。
「そこまで畏まる必要はないだろう。 対外的には旅の同行者と言っておけば何も問題ないはずだ」
確かに社会保障があるわけでもないし、細かい事は気にする必要も無いかもしれない。
これだけ話をして、ようやく覚悟を決めた。
翌朝、目が覚めると丁寧に身だしなみを整えた。
顔を洗って歯を磨く程度だが。
1階に降りると既にダラがテーブルに着いていた。
「早いね」
ダラに話しかけるとニヤリと笑い返して来た。
「本日のメインイベントを見逃す手は無いからな」
「あまり冷やかさないでくれよ」
苦笑いで表情が引きつるのを感じた。
ミカとフミナが階段を降りて来たのは案外すぐの事だった。
「おはよう」
「おはようございます」
俺の声を聞くとふたり揃って挨拶を返してきた。
「おはよう」
ダラはそう挨拶すると厨房に歩いて行った。
朝飯を注文するのだろう。
「よく眠れたかな?」
二人の顔色を確かめながら尋ねた。
初めて会った時に比べて随分血色が良くなった気がする。
「はい、おかげさまで」
ミカが笑みを浮かべてうなずいた。
「あんなに気持ちのいいベッドは初めてでした」
フミナが興奮気味に言った。
「フミナったらベッドから降りたくないって言って…」
「だって気持ちよかったんだもーん」
こうして見ると、二人とも本当に普通の女の子だった。
「二人に話があるんだ」
ミカとフミナの目を順に見つめて言うと、ミカが不安そうな表情を見せる。
「はい? 何でしょう?」
「もし私達がお邪魔でしたらここに置いていっても…」
「もし良かったらだけど、二人とも俺の養子に…」
ミカと俺は同時に切り出して、同時に口を閉じた。
「え?」
「え?」
お互い相手が何を言ったか良く聞こえて無かった様だ。
「颯竢様、今のお話は本当ですか?」
フミナが駆け寄って来た。
「え? 今何って言ったの?」
ミカはフミナに駆け寄りコソコソと話し始めた。
「颯竢様が私達を養子にしてくれるって」
聞こえてますけどね。
「もし二人が嫌じゃなければ、二人がもう良いと言うまでで良ければね」
「嫌だなんて…」
ミカが瞳を潤ませてこちらを見た。
「寂しいのも捨てられるのも慣れてたけど…」
ミカはそこまで言うと言葉を詰まらせた。
「本当は、みんなが家族と一緒に温かいご飯を食べてるの知ってた…」
フミナはミカの代わりにそう言った。
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フミナは唇を噛みしめて続ける。
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フミナはそこまで言うと目尻に涙を浮かべた。
「もうやだよ…」
フミナがそう言うと、ダラが神妙な面持ちで戻ってきた。
「もうあの冷たい世界に帰りたくない…」
ミカがそう言うと、二人の背中に手を回して抱きしめていた。
その背中はとても小さく、そして小刻みに震えていた。
身を寄せ合って生きていく小動物の様だった。
「俺が、俺達が、もう二度と君達を邪教徒の手に渡したりはしない、約束だ」
「ほら、朝飯だぞ」
俺の胸の中で震えて泣く姉妹にダラが声をかけた。
ダラの言う通り、ウエイターがワゴンにトーストとサラダ、ベーコンエッグとコーンスープを乗せて運んで来た。
「まだ泣いてるんだけど…」
ミカとフミナの頭を見下ろしながらダラに言うが、二人は香りに誘われる様に俺の手を離れてテーブルに着いた。
「それじゃ、頂こうか」
泣き顔のミカとフミナに食べるように促した。
「いただきます」
二人は恭しく食事に手を合わせると、恐る恐るパンに手を伸ばした。
「や、柔らかい」
フミナが驚きの声をあげた。
「これが… パン?」
ミカが信じられないという様な顔をした。
多分、君たちが今まで食べてたのがパンじゃ無かったんだよ…
「知らなかった… パンが口の中でとろけるなんて… 皆で囲む食卓がこんなに温かいなんて…」
ミカは夢を見る様な表情で言うが
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