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第2章 環刻館の後継者(かんごくかんのこうけいしゃ)
第84話 人喰い鬼
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小一時間くらい夢中で食材を獲り続けていた。
ミカはニジマスやザリガニ等をどんどん捕まえて大活躍だった。
フミナもホタテに似た貝やエビなどもどんどん獲っていた。
俺も気付けばスッポンやイワナ、サザエに似た巻貝などを大量に獲っており、用意していた籠や鍋は獲りたての海や川の幸でいっぱいになっていた。
これだけあれば20人規模の商隊員達も満足できるだろう。
「はぁ~。 楽しかった! またやろうね」
フミナが満足げに笑った。
「そうね、ね? 颯竢様?」
「ん? うん、そうだね」
ミカは少しうわの空な返事を返した俺を怪訝そうな顔で見てきた。
さっきまで遊んでいた子供たちの姿が見えない。
「さっきまでそこにいた子供たち知らない?」
ミカは俺の言葉に反応して川の上流の雑木林の方へ視線を向けた。
「上流の方に歩いて行った気がします」
ミカは少し自信なさそうに答えた。
上流の方に4つの気配を感じる…
「心配だからちょっと様子を見て来るよ」
右手でバスタードソードの柄に触れて確認しながら二人に言う。
「はい、そろそろ商隊の皆様が来ても良いように準備しておきます」
ミカはそう言うとフミナと一緒に籠と鍋を持ってサイトの方へ歩き始めた。
集中すると上流の雑木林の中に二人の子供がいるイメージが視えた。
その先には息を潜めて動かない何かの気配が二つある。
とにかく子供たちを安全に確保する事が先決だ。
全速力で雑木林を走ると茂みを抜け出し、少しひらけた場所に出た。
突然飛び出した俺に驚いて身構えたのは見覚えのある少年だった。
少女の方は地面に倒れ込んでいた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない! お姉ちゃんの足が!」
少年は血だらけの指を少女の方に向けた。
見ると少女の足首がトラバサミのような物に挟まれていた。
なんとか助けようとしていたのだろう。
「颯竢様! 熊がいます!」
橋の上からミカの声が聞こえてきた。
先刻まで息を潜めていた奴が、物凄い勢いでこちらに迫って来る気配がした。
罠を解除して少女を救っている余裕は無かった。
次の瞬間、俺の目の前に飛び出してきたのは…
「ミカちゃん、これは熊じゃ無いよ…」
目の前で棍棒を持って雄叫びを上げているのはオーガだった。
少し前にリーデンをさらって行ったのもオーガだったな。
少女が身動き出来ない以上、彼女に向けられる攻撃を回避する事は出来ない。
オーガは身長6メートル程度で、無駄に重そうな棍棒を持っていた。
正直、あの攻撃を受け切る自信は無い。
冷や汗が吹き出るのを自覚した。
とにかく、あいつを少女に近付けさせる訳にはいかない。
「行くぞ! 疾風!」
オーガの気を引く為に無駄に声を出して突進する。
オーガの攻撃は遅いが力強い。
棍棒を振り上げて振り下ろす。
単純な攻撃だが、少しでもかすめれば腕くらい簡単に引きちぎれてしまうだろう。
振り下ろされる棍棒を右前方に踏み込みながら回避し、オーガの左脚に左一文字斬りを叩き込む。
刃が軽く皮膚をえぐるが、大したダメージにはなっていない。
オーガは地面にめり込んだ棍棒を、力任せに、俺の頭を狙って斜め上に振り上げた。
しかし、その動きは見切っており、右足を軸に左脚を後ろに回して紙一重で回避し、上段からオーガの手首を狙って思いきり振り下ろした。
「くらえ! 雲耀!」
海底神殿のオーガにも使った『二の太刀要らず、雲耀の打ち込み』のコピー技だ。
いちいち疾風、朧、手の内と意識しなくても一連の技として発動出来るようにスキルをイメージしなおしたのだった。
真田流の手の内も使った強烈な一撃は前回よりも威力が上がっており、オーガの左手首の肉を裂き、骨に当たって止まった。
骨も無事ではない筈だ。
オーガは握力を失ったようで棍棒を地面に落とした。
流石に逃げ出すだろうと思ったが、地面に落ちた棍棒を左手で拾うと俺に向き直った。
「何だ? この執念は…」
海底神殿の時の奴は勝ち目がないと悟ると早々に逃げ出していた。
しかし、コイツは手傷を負って不利になっても逃げようとはしない。
これでは手負いの獣じゃないか…
オーガが左手に持った棍棒を振り上げた。
オーガの攻撃が視えた。
「投げる!?」
その先には例の少女がいる!
棍棒が飛ぶ軌跡が視える。
俺はその軌跡に向かって全力で駆け出した。
ギリギリ届きそうな距離感だが、棍棒の威力を削げるかはかなり怪しい。
『神の祝福を…』
瞬間、身体が軽くなり、棍棒を叩き落とせる確信を得た。
真田流抜刀術の真骨頂とも言える、俺のオリジナル奥義。
「うぉぉおおおお! 真田ぁッ!」
音速を超えたバスタードソードの刃が空気を圧縮し、不可視の刃となって射出される。
カッ!と大気を裂く破裂音と共に、オーガの投げた棍棒が空中で粉々に砕け散った。
パラパラと降り注ぐ木の破片が、水しぶきを上げて川面を叩く。
今のは…?
上を仰ぎ見ると、ミカが手を組んで祈るような姿勢で目を閉じていた。
急に調子が良くなったのはミカの支援魔法のおかげだろう。
オーガは不自然なくらいに動かない。
「?」
よく見るとオーガの左肩が血で真っ赤に染まっている。
そして更に見上げるとオーガの首から大量の血が流れ出ている事に気が付いた。
さっきのソニックブームで斬れたという事か…
たまたまオーガに当たったから良かったが、関係ない人に当たっていたらと思うと寒気がした。
しばらくすると、オーガは崩れ落ちる様に倒れ込み、動かなくなった。
出来たらオーガは殺したくなかったのだが…
今までの経験上、オーガは人類と同程度の文明を持った生物だと思っていて、よほどの事が無ければ殺さないようにと思っていたのだ。
ともあれ、倒してしまったものは仕方ない。
これほどの巨体となれば埋めるのはかなりの重労働になるのは間違いない。
静かに息を吸い、大きくため息を吐いた。
バスタードソードを背中の鞘に戻し、少女の元に走り足首に食い込んだ虎ばさみを確認する。
「良かった、旧式だ」
見よう見まねだが、手早くトラップを解除して少女を解放する。
足首に酷い怪我を負った少女をお姫様の様に抱き抱える。
「上にヒーラーがいる。 一緒に来て!」
声を掛けると少年はコクコクとうなずいて俺の後ろについてきた。
橋の上から一部始終を見ていたミカとフミナは俺達が河原から離れるとすぐに駆けつけて来た。
二人は少女の足首の傷を冷静に診ている。
俺の目から見ればひどい怪我に見えたが、ミカとフミナは特に驚きもせずに詠唱に入った。
二人の回復魔法の効果は素晴らしく、一瞬で少女の足首の傷は跡形もなく消えた。
「跡も残らないとはね…」
驚きを隠しきれなかった。
リンは俺の短い冒険者生活の中で一番の回復魔法の使い手だった。
あのリディアですらリンには及ばないだろう。
それはたとえ冒険者生活が多少長くなったとしても変わらないだろうと感じていた。
しかし、ミカとフミナの回復魔法はそれを圧倒的に上回る回復量だった。
二人で回復魔法を使ったからとかそんな話ではなく、限界の壁のようなものを圧倒的に超えた何かがそこにはあった。
綺麗に傷が治った事に少女は驚いた様子でミカとフミナの周りを走り回っていたが、本当に治った事を確信すると、何度もお礼を言いながらキャンプ場へと走り去って行った。
無事で良かった…
「二人ともありがとう」
「当然の事をしただけです」
俺のお礼にミカが微笑んだ。
まだ商隊は到着していない様だ。
「ミカちゃんとフミナちゃんは商隊が来たらサイトまで案内してあげて、俺はちょっと後片づけしてくるよ…」
オーガの死体を埋めるべく、二人を残して河原へと戻って行った。
作業は思ったより大変だった。
河原の土は大小様々な石が混ざっており、携行スコップでオーガが入るだけの穴を掘るのは至難の業だった。
掘った穴に死体を放り込むと、今度は土を戻す作業だ。
血の少ない魔物は埋めてしまえば動物たちが臭いを頼りに掘り返す事はほとんど無い。
これが熊だったら熊鍋にでも出来たのに…
もう一度、大きなため息をつくと、穴を埋める作業に戻った。
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ミカはニジマスやザリガニ等をどんどん捕まえて大活躍だった。
フミナもホタテに似た貝やエビなどもどんどん獲っていた。
俺も気付けばスッポンやイワナ、サザエに似た巻貝などを大量に獲っており、用意していた籠や鍋は獲りたての海や川の幸でいっぱいになっていた。
これだけあれば20人規模の商隊員達も満足できるだろう。
「はぁ~。 楽しかった! またやろうね」
フミナが満足げに笑った。
「そうね、ね? 颯竢様?」
「ん? うん、そうだね」
ミカは少しうわの空な返事を返した俺を怪訝そうな顔で見てきた。
さっきまで遊んでいた子供たちの姿が見えない。
「さっきまでそこにいた子供たち知らない?」
ミカは俺の言葉に反応して川の上流の雑木林の方へ視線を向けた。
「上流の方に歩いて行った気がします」
ミカは少し自信なさそうに答えた。
上流の方に4つの気配を感じる…
「心配だからちょっと様子を見て来るよ」
右手でバスタードソードの柄に触れて確認しながら二人に言う。
「はい、そろそろ商隊の皆様が来ても良いように準備しておきます」
ミカはそう言うとフミナと一緒に籠と鍋を持ってサイトの方へ歩き始めた。
集中すると上流の雑木林の中に二人の子供がいるイメージが視えた。
その先には息を潜めて動かない何かの気配が二つある。
とにかく子供たちを安全に確保する事が先決だ。
全速力で雑木林を走ると茂みを抜け出し、少しひらけた場所に出た。
突然飛び出した俺に驚いて身構えたのは見覚えのある少年だった。
少女の方は地面に倒れ込んでいた。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない! お姉ちゃんの足が!」
少年は血だらけの指を少女の方に向けた。
見ると少女の足首がトラバサミのような物に挟まれていた。
なんとか助けようとしていたのだろう。
「颯竢様! 熊がいます!」
橋の上からミカの声が聞こえてきた。
先刻まで息を潜めていた奴が、物凄い勢いでこちらに迫って来る気配がした。
罠を解除して少女を救っている余裕は無かった。
次の瞬間、俺の目の前に飛び出してきたのは…
「ミカちゃん、これは熊じゃ無いよ…」
目の前で棍棒を持って雄叫びを上げているのはオーガだった。
少し前にリーデンをさらって行ったのもオーガだったな。
少女が身動き出来ない以上、彼女に向けられる攻撃を回避する事は出来ない。
オーガは身長6メートル程度で、無駄に重そうな棍棒を持っていた。
正直、あの攻撃を受け切る自信は無い。
冷や汗が吹き出るのを自覚した。
とにかく、あいつを少女に近付けさせる訳にはいかない。
「行くぞ! 疾風!」
オーガの気を引く為に無駄に声を出して突進する。
オーガの攻撃は遅いが力強い。
棍棒を振り上げて振り下ろす。
単純な攻撃だが、少しでもかすめれば腕くらい簡単に引きちぎれてしまうだろう。
振り下ろされる棍棒を右前方に踏み込みながら回避し、オーガの左脚に左一文字斬りを叩き込む。
刃が軽く皮膚をえぐるが、大したダメージにはなっていない。
オーガは地面にめり込んだ棍棒を、力任せに、俺の頭を狙って斜め上に振り上げた。
しかし、その動きは見切っており、右足を軸に左脚を後ろに回して紙一重で回避し、上段からオーガの手首を狙って思いきり振り下ろした。
「くらえ! 雲耀!」
海底神殿のオーガにも使った『二の太刀要らず、雲耀の打ち込み』のコピー技だ。
いちいち疾風、朧、手の内と意識しなくても一連の技として発動出来るようにスキルをイメージしなおしたのだった。
真田流の手の内も使った強烈な一撃は前回よりも威力が上がっており、オーガの左手首の肉を裂き、骨に当たって止まった。
骨も無事ではない筈だ。
オーガは握力を失ったようで棍棒を地面に落とした。
流石に逃げ出すだろうと思ったが、地面に落ちた棍棒を左手で拾うと俺に向き直った。
「何だ? この執念は…」
海底神殿の時の奴は勝ち目がないと悟ると早々に逃げ出していた。
しかし、コイツは手傷を負って不利になっても逃げようとはしない。
これでは手負いの獣じゃないか…
オーガが左手に持った棍棒を振り上げた。
オーガの攻撃が視えた。
「投げる!?」
その先には例の少女がいる!
棍棒が飛ぶ軌跡が視える。
俺はその軌跡に向かって全力で駆け出した。
ギリギリ届きそうな距離感だが、棍棒の威力を削げるかはかなり怪しい。
『神の祝福を…』
瞬間、身体が軽くなり、棍棒を叩き落とせる確信を得た。
真田流抜刀術の真骨頂とも言える、俺のオリジナル奥義。
「うぉぉおおおお! 真田ぁッ!」
音速を超えたバスタードソードの刃が空気を圧縮し、不可視の刃となって射出される。
カッ!と大気を裂く破裂音と共に、オーガの投げた棍棒が空中で粉々に砕け散った。
パラパラと降り注ぐ木の破片が、水しぶきを上げて川面を叩く。
今のは…?
上を仰ぎ見ると、ミカが手を組んで祈るような姿勢で目を閉じていた。
急に調子が良くなったのはミカの支援魔法のおかげだろう。
オーガは不自然なくらいに動かない。
「?」
よく見るとオーガの左肩が血で真っ赤に染まっている。
そして更に見上げるとオーガの首から大量の血が流れ出ている事に気が付いた。
さっきのソニックブームで斬れたという事か…
たまたまオーガに当たったから良かったが、関係ない人に当たっていたらと思うと寒気がした。
しばらくすると、オーガは崩れ落ちる様に倒れ込み、動かなくなった。
出来たらオーガは殺したくなかったのだが…
今までの経験上、オーガは人類と同程度の文明を持った生物だと思っていて、よほどの事が無ければ殺さないようにと思っていたのだ。
ともあれ、倒してしまったものは仕方ない。
これほどの巨体となれば埋めるのはかなりの重労働になるのは間違いない。
静かに息を吸い、大きくため息を吐いた。
バスタードソードを背中の鞘に戻し、少女の元に走り足首に食い込んだ虎ばさみを確認する。
「良かった、旧式だ」
見よう見まねだが、手早くトラップを解除して少女を解放する。
足首に酷い怪我を負った少女をお姫様の様に抱き抱える。
「上にヒーラーがいる。 一緒に来て!」
声を掛けると少年はコクコクとうなずいて俺の後ろについてきた。
橋の上から一部始終を見ていたミカとフミナは俺達が河原から離れるとすぐに駆けつけて来た。
二人は少女の足首の傷を冷静に診ている。
俺の目から見ればひどい怪我に見えたが、ミカとフミナは特に驚きもせずに詠唱に入った。
二人の回復魔法の効果は素晴らしく、一瞬で少女の足首の傷は跡形もなく消えた。
「跡も残らないとはね…」
驚きを隠しきれなかった。
リンは俺の短い冒険者生活の中で一番の回復魔法の使い手だった。
あのリディアですらリンには及ばないだろう。
それはたとえ冒険者生活が多少長くなったとしても変わらないだろうと感じていた。
しかし、ミカとフミナの回復魔法はそれを圧倒的に上回る回復量だった。
二人で回復魔法を使ったからとかそんな話ではなく、限界の壁のようなものを圧倒的に超えた何かがそこにはあった。
綺麗に傷が治った事に少女は驚いた様子でミカとフミナの周りを走り回っていたが、本当に治った事を確信すると、何度もお礼を言いながらキャンプ場へと走り去って行った。
無事で良かった…
「二人ともありがとう」
「当然の事をしただけです」
俺のお礼にミカが微笑んだ。
まだ商隊は到着していない様だ。
「ミカちゃんとフミナちゃんは商隊が来たらサイトまで案内してあげて、俺はちょっと後片づけしてくるよ…」
オーガの死体を埋めるべく、二人を残して河原へと戻って行った。
作業は思ったより大変だった。
河原の土は大小様々な石が混ざっており、携行スコップでオーガが入るだけの穴を掘るのは至難の業だった。
掘った穴に死体を放り込むと、今度は土を戻す作業だ。
血の少ない魔物は埋めてしまえば動物たちが臭いを頼りに掘り返す事はほとんど無い。
これが熊だったら熊鍋にでも出来たのに…
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