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不覚!! 2
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「…でも、確かに誰かいたようですね。」
殿下は、手のつけられていない紅茶二つを見て言った。
私はミアがどこに隠れたかを予想した。
この部屋で隠れられそうな場所といったら、一つしかない。
ヒノキでできた食器棚だ。上段にはぎっしりと銀食器が詰まっているが、下段には何も入っておらず、座れば一人なら隠れられるスペースがある。
お願い、そこでじっとしていて……!
「ま、まあ、そこに御掛けになってください。」
適当に世間話でもして、さっさと帰らせるか。
大人しく座った殿下が言う。
「僕が差し上げたドレス、お召しになりました?」
「…ええ、まあ。」
私は生半可な返事をした。殿下が贈ってくるものは、使用人に保管させている。悪いとは思うけど、あまり好みじゃないから。
「まだなんですね。」
殿下は目を伏せて、悲しげに呟いた。
そしてそのまま、優雅な手つきでカップを手にする。
龍角の秘薬の入ったカップを。
「…っああ! その紅茶は冷めていますので、お取り返します!!!」
思わずすごい声出しちゃった。不自然すぎたよね。
「いや、構いませんよ」
「王子ともあらせられる方に、冷めた紅茶を飲ますわけには!」
私は殿下の手から紅茶のカップをもぎ取ると、新しい紅茶を用意させた。
な、なんとかなった。
寿命、縮まった気がする。
「それで、ここに来ていたのは誰ですか? まさか、男性ではありませんよね?」
「もちろん。浮気なんていたしません。」
間髪入れずに否定したつもりだったが、まだ殿下は疑いの目を向けてくる。しかしすぐに表情を変え、ニコリと笑った。
嫌な予感がする。
「二週間後の24日、婚約記念日があります。その日にレストランを予約しておきましたので、行きましょう。」
…うん。拒否権なさそう。
っていうかどうしよ。成功すれば入れ替わった後になるから、ミアにお願いして、上手く演技してもらおうかな。
「……わかりました。」
あの子、ナイフとフォークを使うのには慣れてなさそうだったけど。大丈夫かな。
「それでは、僕は帰ります。」
「もうお帰りになられるのですか?」
しまった。引き止めるようなことを言っちゃった。
「ヘーゼルが終始、落ち着かない様子だったので。常に食器棚の方向を気にしていましたね。やはり誰かいらっしゃるのではないかと。まあ、正々堂々と出てこないのならば、見つけ次第潰せばいいだけです。ヘーゼルには指一本、触れさせませんから。」
この人、爽やかな笑顔をして、なんてこと言ってるんだ?
こういう人とは絶対関わりたくないなぁ(自分の婚約者なわけだけど)。
殿下は宣戦布告をすると、満足してお帰りになられた。
殿下が帰った後、私はミアを出してあげるために食器棚を開けた。
「怖くはありませんでし――。」
そこには顔を赤らめてうずくまっているミアがいた。
「はあーっ! 束縛王子最高。あんなこと言われたら、もう限界なんですけどぉー!」
ほんとよくわからないなこの子。一生わかりあえそうにない。
我にかえったミアを引きずり出し、椅子に座らせる。
さて、気を取り直してもう一回。
今度こそ、成功しますように。
「せーの!」
一口飲み込んだ瞬間、目の前がぼやけた。
ミアの姿がぼんやりと見えている。
次に、激しい頭痛が襲ってきた。頭が割れそうだ。
ミアの手からカップが落ち、テーブルの上で砕けたのがわかる。
ミアが口を開けて何か叫んでいた。
私も叫んでいるのだろう。よくわからない。
――ホンモノかは、わからねえよ。
エデンの言葉が脳裏をよぎった。
私は、偽物を飲んでしまったのかもしれない。
ホンモノじゃなかったなら、何なんだろう。
ワインじゃない、お茶でもない。
これは、毒?
意識がぷつりと途切れた。
殿下は、手のつけられていない紅茶二つを見て言った。
私はミアがどこに隠れたかを予想した。
この部屋で隠れられそうな場所といったら、一つしかない。
ヒノキでできた食器棚だ。上段にはぎっしりと銀食器が詰まっているが、下段には何も入っておらず、座れば一人なら隠れられるスペースがある。
お願い、そこでじっとしていて……!
「ま、まあ、そこに御掛けになってください。」
適当に世間話でもして、さっさと帰らせるか。
大人しく座った殿下が言う。
「僕が差し上げたドレス、お召しになりました?」
「…ええ、まあ。」
私は生半可な返事をした。殿下が贈ってくるものは、使用人に保管させている。悪いとは思うけど、あまり好みじゃないから。
「まだなんですね。」
殿下は目を伏せて、悲しげに呟いた。
そしてそのまま、優雅な手つきでカップを手にする。
龍角の秘薬の入ったカップを。
「…っああ! その紅茶は冷めていますので、お取り返します!!!」
思わずすごい声出しちゃった。不自然すぎたよね。
「いや、構いませんよ」
「王子ともあらせられる方に、冷めた紅茶を飲ますわけには!」
私は殿下の手から紅茶のカップをもぎ取ると、新しい紅茶を用意させた。
な、なんとかなった。
寿命、縮まった気がする。
「それで、ここに来ていたのは誰ですか? まさか、男性ではありませんよね?」
「もちろん。浮気なんていたしません。」
間髪入れずに否定したつもりだったが、まだ殿下は疑いの目を向けてくる。しかしすぐに表情を変え、ニコリと笑った。
嫌な予感がする。
「二週間後の24日、婚約記念日があります。その日にレストランを予約しておきましたので、行きましょう。」
…うん。拒否権なさそう。
っていうかどうしよ。成功すれば入れ替わった後になるから、ミアにお願いして、上手く演技してもらおうかな。
「……わかりました。」
あの子、ナイフとフォークを使うのには慣れてなさそうだったけど。大丈夫かな。
「それでは、僕は帰ります。」
「もうお帰りになられるのですか?」
しまった。引き止めるようなことを言っちゃった。
「ヘーゼルが終始、落ち着かない様子だったので。常に食器棚の方向を気にしていましたね。やはり誰かいらっしゃるのではないかと。まあ、正々堂々と出てこないのならば、見つけ次第潰せばいいだけです。ヘーゼルには指一本、触れさせませんから。」
この人、爽やかな笑顔をして、なんてこと言ってるんだ?
こういう人とは絶対関わりたくないなぁ(自分の婚約者なわけだけど)。
殿下は宣戦布告をすると、満足してお帰りになられた。
殿下が帰った後、私はミアを出してあげるために食器棚を開けた。
「怖くはありませんでし――。」
そこには顔を赤らめてうずくまっているミアがいた。
「はあーっ! 束縛王子最高。あんなこと言われたら、もう限界なんですけどぉー!」
ほんとよくわからないなこの子。一生わかりあえそうにない。
我にかえったミアを引きずり出し、椅子に座らせる。
さて、気を取り直してもう一回。
今度こそ、成功しますように。
「せーの!」
一口飲み込んだ瞬間、目の前がぼやけた。
ミアの姿がぼんやりと見えている。
次に、激しい頭痛が襲ってきた。頭が割れそうだ。
ミアの手からカップが落ち、テーブルの上で砕けたのがわかる。
ミアが口を開けて何か叫んでいた。
私も叫んでいるのだろう。よくわからない。
――ホンモノかは、わからねえよ。
エデンの言葉が脳裏をよぎった。
私は、偽物を飲んでしまったのかもしれない。
ホンモノじゃなかったなら、何なんだろう。
ワインじゃない、お茶でもない。
これは、毒?
意識がぷつりと途切れた。
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