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1.招待状が届きました。

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それは、一週間前のことだった。家族六人揃って食べる、いつものディナー。
焼かれたチキンが、皿の上で湯気をたてている。
ゼラはナイフを動かし、チキンを切り分けた。
正面に座っているエルドお兄様が、相変わらずきれいな所作でお食事なさっている。その様子は、まるで一枚の絵画のよう。
うって変わって元気な声が、隣から聞こえた。
「うまーっ!」
とても令嬢だとは思えない、雄叫びをあげたのはダリアお姉様だ。
「ダリア。美味しいのはわかるけど、食事中は静かにね。」
それを見たエルドお兄様が、ダリアお姉様を諭す。
「うふふ、いつまでたっても変わらないわねぇ。」
お母様が笑みを浮かべた。花が咲くような、可愛らしい笑顔だ。そしてその笑顔のまま、隣の皿にあったパンを食べている。
位置的にエルドお兄様のものだけれど、お兄様はいつものことだから指摘しないようだ。
不意に、奥に座っていたお父様が席を立った。すでに皿のなかは空になっている。
「……訓練に行ってくる。」
すかさず、今まで一言も話していなかったウェルへお兄様が続く。
「わたくしも行ってまいります。」
そして、お二人はあっという間に出ていかれた。
「もうちょっと、ゆっくり食べれば良いのに。」
残念そうにお母様が呟く。
「仕方がないですよ。」
ゼラはお母様を可哀想に思った。
お父様とウェルヘお兄様は、かつて、騎士団の団長と副団長を務めていた。しかし仕事仲間と馬が合わず、一年前に辞めさせられた。それからというものの、うちは貧乏である。
「そういえば、ゼラ。殿下のお誕生会の招待状が届いてたわ。」
お母様が一枚のカードを、私の前に差し出した。
「無理にとは言わないけど、参加したらどうかしら?」
「今回のお誕生会で、殿下は婚約者をお選びになるそうだし。」
エルドお兄様も、笑顔で同意する。
これは、王家に近づく、またとないチャンスだ。ゼラはもともと、恋愛結婚にこだわりがあるわけでもない。それにゼラが皇太子殿下に嫁げば、ロッターレ家も生活に困らなくなる。
「もちろん。出席させて下さい。」
「ぷはーっ。」
隣で、グラスの中身を飲み干したダリアお姉様が言った。
「才色兼備に文武両道。文句の付け所のない殿下。裏ではどんなヤツかわからんよ。」
ゼラはダリアお姉様の目を見つめる。
「それも含め、確かめてまいります。」
ダリアお姉様は歯を見せて笑った。
「さすが、ロッターレ家の娘で、あたしの妹ね。」
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