皇太子殿下と婚約すると思いきや、近衛騎士を任されました。

じゅうごにち

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18.木剣と人形 ミレニアside

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四日前。彼女が売られてからすぐのこと。
「ねぇ、これで良かったの?」
ウィッチがこちらを見て言った。
「どういう意味かしら。」
ミレニアは冷たく突き放すように返す。ウィッチはこちらの表情の変化や仕草をつぶさに観察し、面白がっているのにすぎない。
「だってあの子は、ミレニアのこと信じてるみたいだったよ。」
月光に、三角帽子のシルエットが浮かび上がる。彼の名はウィッチ。裏社会では名の知れた魔法使いである。幼い頃から魔法の才能を示し、宮廷魔導師への道を打診されたにもかかわらず、今の雇われ魔法使いの身分にとどまっている変わり者。
「騙されたほうが悪いの。信じたほうが馬鹿なの。」
ミレニアは言い聞かせるように、そう呟く。
へぇ、と面白そうに笑ったウィッチ。
「ミレニアって、皇太子が好きだったんだよね。皇太子の側に居たいんだったら、近衛兵以外の方法もあったんじゃないの?」
「それは……、あなたに教えることではないわ。」
ミレニアが言うと、ウィッチはこちらへ近づいた。
「隠されると、逆に興味わいちゃうんだけど。どう、これから一緒に仮面祭でもまわる?」
冗談じゃない、といった目でウィッチを睨む。得体のしれない不審者とつるむ趣味はない。
「別に、最初から好きではなかっただけ。」
今日は満月だ。昔を思い出すのも、悪くはないかもしれない。
「わたし昔はね、闘い好きな女の子だったの。」

ミレニアには兄が二人いた。
父は仕事で城下町に行った時、よく自分たちにお土産を買って帰ってきてくれたのだ。
ある日父が持ってきたのは、二本の木刀と一つの人形だった。父は当然のようにミレニアに人形を渡し、二人の兄には木刀を与えた。しかしミレニアが一目惚れしたのは、木刀のほうだった。兄たちのものだとわかっていたけれど、どうしてもあの美しい形の木刀を振るってみたかった。日が経つにつれ、兄たちがそれで遊んでいるのを見て耐えられなくなり、ついに兄の部屋から持ち出してしまった。それがばれたときの父の怒りようといったら、鬼のようだった。いつもの温厚な父からは想像もできない。てっきり盗んだことを怒られるのかと思ったのだ。しかし父は、
「なぜ女がそんなものを持っているっ! 今すぐ返しなさい!」
と怒鳴った。幼いミレニアには、なぜ女が木刀を持ってはいけないのか、よくわからなかった。
「ごめんなさい、でもなぜ女は木刀を持ってはいけないのですか?」
「ふざけるな! 分かりきったことを聞くんじゃないぞ!」
ミレニアは戸惑って、台所に立つ母を見た。母は何故か目をあわせてくれなかった。
それから、木刀のことを忘れようと、どんなに努力したことだろう。兄が大きくなって、剣を握って訓練するようになると、武術への憧れは強まっていった。
父に話がある、と呼び出されたのは十五歳の時のこと。
「お前の縁談が決まった。上手くいけば、村長の息子様と結婚させていただけることになるぞ。」
ミレニアはその言葉に絶望した。結婚するということは、子を成すということだ。そうなればきっと、武術の道には進めない。
「お父様、わたしは……。」
「粗相のないように、しっかりした態度で望むんだぞ。」
自分の話は聞いてさえもらえないようだった。
その日は一晩中考え込んで、眠れなかったのを覚えている。夜遅くにベッドを出て、母のもとへ向かった。母は縫い物をしていた。
「お母様。」
「どうかしましたか、ミレニア。」
「お母様。女であることは、罪なのですか?」
そう尋ねてしまったときの母の表情が忘れられない。涙を滲ませて、母はただ首を振った。
「母も昔はそう思っていました。……少しそこで待っていなさい。」
母は戸棚から重みのある袋を取り出すと、ミレニアの手のひらに乗せた。
「新しい道に踏み出したいのなら、これを使いなさい。あの人には、秘密にしてあげますから。」
ミレニアは迷ったのち、荷物をまとめて、家出をした。なにも考えずに、とりあえず城下町だと言われた方向に、ひたすら馬を走らせる。それからのことは、あとで考えようと思っていた。
でも、現実は甘くなかった。仕事は見つからず、お金は底をつきて諦めそうになる。そんな時拾ってくださったのが、殿下だった。ミレニアは彼の近衛兵であり続けるため、努力した。そして彼に認められるたび、胸がときめいた。

いつの間にか、 ‘彼’ の近衛兵であることが、ミレニアの中の誇りになっていたのだ。


○お知らせ○
5月21日~25日までの間、多忙につき投稿をお休みさせていただきます。楽しみにしていただいている方には、ご迷惑をおかけします。何卒よろしくお願いします。
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