皇太子殿下と婚約すると思いきや、近衛騎士を任されました。

じゅうごにち

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24.こどものできごころ。 ウイッチside

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「いらっしゃい、魔法使いの兄ちゃん。ここ最近嬢ちゃんは来てないぞ。」
扉を開けた先には、相変わらずピカピカに磨かれたカウンターと、やたら体格の良い店主がいた。
「……知ってる。」
遅い時間帯ということもあり、店内の客の姿はまばらだ。ウィッチは端の席に腰かけると、隣の席に大きな帽子を置いた。途端、自分に集まる視線に気が付く。
「新規の顔ぶれが増えたね。」
常連客はウィッチがこの店に出入りしているのを知っているが、そうでない客には驚かれることもままある。インハント王子に付き従い始めてから、自分の顔も有名になったのだ。
「ああ。チラシを町に貼り始めてから、新たな客層がくるようになった。」
壁の一画に貼られたチラシを見る。適当な地図とともに、『バー 黒猫』と汚い字で書きなぐられている。
「……そっか。おじさん、いつものを頼むよ。」
ウィッチの返事を受けて、店主は不思議そうに眉を動かした。何か変なことを言っただろうか。
「ん? チラシのこと、からかわないのか? いつもの兄ちゃんなら、死にかけたミミズの這ったような字だとか、言いそうなもんだが。」
店主はこちらの態度をいぶかしんだようだが、それでも慣れた手つきでグラスを用意する。
「今は……、あいにく疲れてるんだ。」
ウィッチは頬杖をついて、店主の手元を見る。店主はいくつかの液体を注ぐと、マドラーでかき混ぜているところだった。
「はいよ、特製ジュースだ。これでも飲んで元気出せよ。」
渡されたジュースを口に含んだ。グレープと林檎の味がする。
「僕が元気ないんだとでも思ってるの?」
ウィッチはふてくされたかのように、唇を尖らせて言う。
「じゃあ逆に聞かせてもらうが、気づかないとでも思ってるのか?」
誤魔化すように、二口目を飲む。何か言おうとしたが、上手い返しが思い付かない。言葉を探して思考をめぐらし、諦めてため息をついた。
「やっぱ何かあったんじゃないかよ。なんだ、嬢ちゃんのことか? まさかフラれでもしたのか?」
ウィッチが何も言わずうつむいたままでいるので、店主は焦ったようだった。
「そんなわけないよな、ははっ……。って、兄ちゃん…」
「大人ってずるいよね。こういう時、お酒で酔えるんだから。」
ジュースはいくら飲み込んでも、ウィッチを酔わせてはくれなかった。
「そのかわり二日酔いに苦しむけどな。」
店主は困ったように笑う。
「そういや兄ちゃん、嬢ちゃんとはいつからの仲だ?」
「彼女が城下町に来てすぐ。だから、八年前からかな。」
ウィッチが空になったグラスを置くと、店主が無言で注ぎだした。
「僕はまだ6歳で、幼くて馬鹿だった。」

6歳。それは僕が魔力に目覚めた歳でもあった。同い年の子供たちの中でも一際小柄だった僕は、いじめを受けていた。家が裕福なせいで金品を要求されることも多く、家族に見つかる恐怖に怯えながら、家から物を持ち出していた。断れば殴られる。そんな自分が魔力に目覚めて、最初に望んだことはなんだろう。
言うまでもない。復讐だ。家庭教師の元で魔法を習ってめきめきと力を上げていった一方、復讐の計画は驕ることなく、綿密に練った。数週間に渡って奴らの行動パターンを観察し、それぞれが一人でいるときに襲う。縛ってから魔法で自室に転移し、思う存分苦しめる。楽しんだ後は道端に転移して放り出せばいい。
計画は順調だった。ウィッチは自分をいじめた子供達を集めることに成功し、後は苦しめるだけ。胸ぐらを掴んで持ち上げれば、子供はウィッチに怯え、許しを乞うてきた。
楽しくて仕方がない。愉悦に浸った自分は、書籍で調べた様々な拷問方法を、実行に移した。

ひたすら、仕返しを。仕返しを。立場は逆転し、今は彼らが涙を流す。
絶え間なく響いていた悲鳴が、消えた。死んだのか、と思い近づいてみると僅かに胸が上下している。気絶したのだ。
憎しみの炎は、もう燃えていなかった。自分がひどくくだらないことをしていたように思える。復讐をすることすらどうでもよくなった。というか、その目的は、とっくに達成されていた。
転移魔法をつかい、適当な道端を探そう。ウィッチはそう思うと、意識を集中させ、辺り一帯を探る。少し神経を研ぎ澄ませば、この屋敷の外の様子だって分かる。

猫の鳴き声。人々のざわめき。風が吹き、葉の落ちる音。

様子を探っていると、不意に大きな魔力にグイッと引っ張られた。抵抗しようとするが、ズルズルと引き込まれる。

まずい。誰かが近くで魔法をつかっていたのだ。意識がひどく掻き乱されーー。
気が付けば、見知らぬ場所に立っていた。
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