The Last Canon

じゅうごにち

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番外編 それから。

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女は首をかしげていた。どうしてもわからなかったのだ。何故自分のような凶悪犯罪者が、仮釈放されているのか。この日本という国は、頭がどうかしているのではないか、と。
ともかく、女は今警察車両に乗せられ、家まで送ってもらっている。
「本当に困ったんですよ。今まであったことを正直に話しても、君の話はでたらめだって、全く信じてもらえなくて。」
運転席から声がする。このやけにうるさく話す女は、自分を逮捕した山崎真莉であった。どうやらこれが本来の彼女の性格だったらしい。
「逮捕出来たのに昇進もないどころか、あれは君が個人的に調べていた案件だろう。成果を出すために犯人を仕立て上げたんじゃないかって、疑われてて。」
女は素早く口を挟む。
「いや、あれをやったのは私だ。」
山崎は少し考え込んだ後、こう言った。
「しかし、そうは言っても証拠は防犯カメラにうつる後ろ姿だけですから。証拠不十分で不起訴になる可能性が高いです。」
不起訴、か。
やはりこの国はどうかしている。
ふと窓を覗くと、都会の町並みが流れていた。まだ日の高い町には、人が溢れている。
子供をつれた家族。
仲の良さそうな恋人たち。
のんびりと辺りを巡る夫婦も。
忙しそうに一人歩くサラリーマンも。
きっと皆、帰るところがあるのだろうな、と思った。
女は、実をいうと帰りたくなかった。どういう顔をして帰ればいいのか、わからなかったのだ。ちょっと旅行に行ってきたみたいな感じで、さりげなく帰ればいいのか。それともすぐさま頭を下げるべきなのか。
それに加えて、女は謝るのが苦手であった。別に謝ること自体に抵抗があるとか、そういうわけではないのだ。謝るということが、一度として役に立ったことはなかったからだ。
ごめんなさい。
数えきれないほど言ったその言葉は、自分を否定し、惨めにさせるものでしかなかった。
「ほら、着きましたよ。」
山崎が明るい声で言った。
促されるまま、渋々と車を降りる。懐かしいその建物は、当時のまま変わらず、そこに建っていた。
それを見た途端、沢山の嫌な記憶が流れ込んできて、頭を抱えた。あの時は、家族全員が問題を抱えていて、それぞれが解決することに疲弊していた。
だから、色々あったのは仕方がないのだ。仕方がないのだけれど。
ぽん。
気づくと、山崎に肩を抱かれていた。山崎はそんな彼女のことを急かさず、ただ横に立っていた。
ありがとう、そう言おうとして、しかしそれはやっぱりおかしいような気がして、適切な言葉が見つからず、口を小さく開閉した。
行こう。そう思った。そうしなければ、永遠に前に進めず、このまま石にでもなってしまいそうだったから。
重い足取りで、古ぼけたアパートの一室に向かうべく、階段を上る。
とてもゆっくりだけれど、確かに自分は前進していた。きっとあの子が背中を押してくれている。
203号室。
震える手でインターホンを押そうとした、その時。
内側からドアが開いて、一人の青年が現れた。
年の頃は十八、十九位に見える。男にしては可愛らしい顔をしていて、髪は茶髪だった。
女はその人物をよく知っていた。勿論、あの時より大分成長してはいるが、見間違えるはずもなかった。だって彼は、自分に残された唯一の家族なのだから。
「姉ちゃん...!?」
青年の表情が驚きで固まる。女は肯定するように、小さく頷いた。
女は恐れていた。人懐っこそうなその顔が、憎しみに歪むのを。
「よかった! 帰ってきてくれて、本当によかった・・。」
ところが、彼の口から出たのは予想だにしない言葉だった。彼はあっという間に距離を詰め、女にぎゅっと抱きつく。
女は目を見開いたまま、後ずさりした。分かってしまった。
彼はまだ、こんなことがあってもなお、自分を姉と呼び、慕ってくれているのだと。この世界にも、まだ自分のいるべき場所が残っていたのだと。
長いこと忘れていたあたたかさを思い出して、それを逃すまいと、女も強く抱きしめた。
一筋のすきま風さえ、二人の間には入れそうもなかった。

                              番外編 おわり。
                           (●’∇’)♪
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