メサイア

渡邉 幻月

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修行:ホドエリア編 【ホーネット戦】

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【ホーネット戦】
ホドでの修業も八日目になった。
昨日までの天気が嘘のように、空は晴れ渡っている。
「晴れて良かったね! 今日からホーネット戦予定だったしね。」
「そうだね。雨だと出現しなかったんだよね、ホーネットって。」
「そうそう、昨日は曇りだったけど、一雨来そうな感じだったしね。」
そこでカインは沈黙した。昨日一日考えた。あの時、ボブキャット初戦に覚悟を決めていたつもりで、全然決まっていなかった。覚悟がなんなのか分かっていなかったのかもしれない。そう言う意味では、今も分かっているのかは分からない。
「行こうか。」
カインはリリンに声をかける。

初めての飛行系の怪物になる、ホーネット戦にカインは苦戦していた。森の中でも少し開けて花が咲いている場所にホーネットは居た。広い空間を自在に飛び回るホーネットは、毒針を飛ばして攻撃してくる。猫の成体ほどの大きさのホーネットは的として決して小さい訳ではないのだが、本体も飛び回るし針も飛んでくるでカインは攻めあぐねていた。
初日の今日はリリンが久しぶりにフォローしてくれいるが、それでもコツを掴めないまま一日が過ぎていった。
「難しい?」
帰り際、リリンがカインに問うた。
「うん… …。オレ、レイピアで攻撃することしか頭になかったけど、魔法を使えばよかったのかな?」
「そうだねぇ… ただ、キミが今使えるの炎だけだし、やたらに使うと火事になっちゃうし悩みどころだよね。」
「そっか。うん、明日また色々試してみるよ。」
八日目の修行は苦戦したまま終了した。

 明けて九日目。晴れ渡ってはいるが、北の空に薄っすらと雲が漂っている。風向き次第ではこちらに流れてくるかもしれない、と空を見上げたカインは考えていた。
 今日もホーネット戦である。カインは昨日の反省も踏まえたうえで、リリンには手助けは必要最小限にして欲しいと依頼していた。格好つけている訳ではなく、ただアベルや兄・ヨナタンがどうしているのかと思ったからだった。メサイアのヨナタンなら、ホーネットくらい手こずることは無いだろう。それは今さらだし、嫉妬も焦りも感じないけれど。…じゃあ、アベルは。きっと、アベルも勇者としての訓練を受けているはずだ。あの、メサイアの総本山で。別に今の境遇に不満があるわけじゃないけれど、だけど…
 ほんの少し、羨ましくも感じている。あの時の、アベルだけが選ばれたという、その事実が。
カインは緩く首を振った。良くない考えを追い出すように。だから、今は。地道でも実力を付けなければ。

迷いがあるからなのか。それともこれが今の限界なのか。ホーネットを上手く捉えられず、カインは苦戦していた。それでも昨日の初戦よりは見られたものだと判断したのか、リリンは横からアドバイスをするだけだ。補助の魔法も無い、カインは無意識に笑みを零していた。昨日よりは良くなっていると、僅かばかりの自信を得る。
 結果は、終始苦しい戦いだった。リリンのサポートを必要としなかった分昨日より成長があったと言えるだろうか。
「もう少しだと思うんだけど。」
溜息交じりにカインが言うと、リリンはそうだね、と一言だけ答えた。弱音も吐かないならリリンは必要以上に干渉してこないスタンスなのは、カインももう理解していたのでそれ以上何も言わなかった。リリンが何も言わないのなら、少なくとも方向性は間違っていないのだ、と拳を握った。

 気持ちも新たに、ホーネット戦の戦略を練って臨んだ十日目は生憎の雨だった。
「あちゃ~、雨だねぇ。今日はお休みだね。」
「休み?」
「雨の日はホーネットとエンカウント出来ないからねぇ。あ、飛行系全般雨の日は出現しないね。」
そうリリンに言われ、ああ、とカインは呟いた。怪物も普通の鳥とか虫とかと変わらない部分もあるんだな、と新たな発見に少しだけ胸が躍ったカインだった。
「じゃあ、今日は筋トレとかしとこうかな。」
急にすることが無くなったカインはそう呟くと、朝食を取るために食堂に行こうとリリンを誘った。

「ホント、休日の使い方に関してはアドバイスも何もいらないなあ。」
リリンは嬉しそうに独り言ちて、カインの後を追って食堂に向かった。

 この日は一日雨だったこともあり、カインは筋トレと霊力のトレーニングに時間を費やした。リリンは、室内でのトレーニングなら一人にしても問題ないだろうと判断し、アイテム補充に魔界に行ったり進捗状況の報告をしたりして過ごす。十日目はこうして過ぎていった。
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