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災厄と聖女と覚醒と①

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「…覚醒、ってどうしたら良いんだ?」
取り敢えず、この悪夢から逃れるためには災厄をどうにかしないといかんことは分かった。災厄をどうにかするには、不本意だが聖女ならなければならんようだ。不本意だが(2回目)。聖女になるためには覚醒する必要があるらしい。
 と言うことを弾き出して(ちょっとばかり時間がかかったのは秘密だ)、オレは王子に質問した。
「そうですね、手っ取り早くと言うことなら神殿で強制的に覚醒でしょうか。」
少し考えて王子が答えた。
「状況的に手っ取り早い方がいいよな、お互い… ちなみに手っ取り早くないと?」
「普通に修行ですね。要は聖女としての能力を使いこなせるようになることが目的ですから。どれくらいの期間になるかは、本人次第でしょうか。」
うん、そんな悠長なこと言ってられんな。正直、貞操の危機を感じ始めてるし、それ以前にガチの戦争になったら生き延びられる自信が無い。

「神殿の覚醒って… 痛かったりしんどかったりする?」
取り敢えず心の準備だけしておこうと質問してみる。他意はない。
「集中力が必要なだけだと思いますよ?」
「なんで疑問形なんだ?」
「申し訳ありません、この国の民は幼い頃からある程度の修行は義務付けられているので、神殿で能力覚醒と言うのは本当に稀有で。」
「ああ…」
そう言われればそうか。魔法が使えるったって、子供がいきなり使えたら危険だよな。特に攻撃魔法とか。やっぱり順を追って身に付けるのが本人にとっても周囲にとっても安全だよあ。
「たまに体が弱く修行ができない者が神殿で能力覚醒させますね。それで健康になる場合もあるので。」
どんな状況だ? と思ったら、バフ系の魔法適正持ちだと自分に体力関係のバフをかけるとか。その場合は魔力を日常生活全部に持っていかれるから、騎士団とか冒険者とかにはなれないそうだ。まあ、本人は通常の生活ができるようになるから満足している場合が多いとか。或いは回復系能力の場合は病気を治すってこともあるそうだ。やっぱり回復術も有料で、高価だからご家庭によっては利用できないケースもあるとか。
 そうか。修行が出来ないほどってことは、相当だもんな。治療するにも先立つモノはたくさん必要なんだな。

「神殿での覚醒で問題ないですか?」
「あ、まあ、そうだな。」
「実際の能力で多少変更は出るかもしれませんが、覚醒後の計画まで立ててしまいましょう。聖女の覚醒で、神官たちも大臣たちもまた盛り上がってしまうでしょうから。」
と、王子が苦笑する。すごく想像できる。あのじいさん達、災厄そっちのけで宴会とかしそうだもんな。仕事しろ。
「ちなみに計画って?」
「災厄についてです。あなたの能力でルートは変わると思うのですが、ざっくり言うと、このエリュシオン王国内の各神殿を巡って災厄に対抗する結界を張っていただきます。その後、国外も回って重要地点に同じように結界を張って、最後に大陸中央の大神殿で災厄を封印する。或いはあなたの能力如何では、災厄そのものを消す。」
うん。ホントにざっくりだな。結界ってどうすんだ。覚醒したら分かるんかな? 異世界系の話しだと、スキルに目覚めたりするとすぐ使えるパターンが多い気がするしな。
「不安ですか?」
オレがうんうん唸っていると、王子が心配そうにオレの顔を覗き込んできた。そう言う捨てられた子犬みたいな顔でこっち見ないでくれるか。うっかり絆されたらどうしてくれるんだ。
「いや、不安って言うより… 結界もだけど、各国回るとか結構時間かかるよな? そんな悠長なことして大丈夫なのかなって思っただけ。」
「今のところ小競り合いくらいで済んでいますからね。それに周囲の災厄の種を少しでも封じていた方が、大神殿で楽になるかと思います。前回の戦の災厄が千年以上前ということもあり、資料が乏しく憶測でしかありませんが。」
「ふうん? でも。良く分かったな。今回がその戦の災厄だって。」
「これも憶測ではあります。災厄は国を順に巡ります。今回はこのエリュシオンが災厄に見舞われる番なのですが… かつて戦の災厄の発信地となった国と同じ兆候が見られたのです。乏しい資料と符合しただけなので、はっきりと断言はできない状況ではあるのですが…」
いつになく深刻な表情だ。そんな場合じゃないけど、イケメン具合がアップしているように見える。オレが女子だったら完全に落ちたかもしれない。男で良かった…のかは分からない。
「枢機卿たちも警戒に値すると判断されました。それ以降、我が国は戦の災厄に対処する方向で政策を進めています。」
「分かった。取り敢えず、聖女としてどうするかはアンタの指示に従うことにする。説明してもらったけど、オレ、正しい判断できる自信ないしな。」
法律だとかもそうだけど生活習慣とかそう言う細かい事も日本と違いそうだし、我を通すとトラブル発生しそうだし。オレは帰れるものなら元の世界に帰りたいので、牢にぶち込まれたり処刑されたりは是非とも避けたい。王子に従っとけば大丈夫だろ。聖女みたいだし、オレ。

「分かりました。あなたに危険が及ばないよう尽力しますね。」
「それもだけど… 全体的に被害が出ない感じで。」
と、オレが言うと王子は嬉しそうに笑った。
「では、神殿に向かいましょうか?」
そう言って王子はオレに向かって手を差し伸べてきた。これってあれか、エスコートってやつか。
「いや、オレ男だから。エスコートとか良いから。普通に歩こう。」
と、オレは王子のエスコートをはっきり断って、この庶民には居心地の悪い部屋からそそくさと出た。
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