八百比丘尼の孫は異世界で恋をするか

渡邉 幻月

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聖女が均衡を保つ世界はなかなかに歪んでいるようだ@その③

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「あのさ、聖女って女の人がなるんじゃないの?」
正直なとこ、こんな深刻な災厄をどうこうできる力があるとは思えないし、異世界転生?召喚?でスキルが見に付いたとかって感じもしない。さっき、男がなるとか世迷言が聞こえた気がしたけど、幻聴だと思いたい。お願い、否定して。
 何よりオレが聖女じゃないなら、状況が状況なだけにこの歓迎ムードは申し訳無さすぎるし、早いとこ本物の聖女を召喚した方が良い。女の子の聖女を(もはや表現がおかしいけど)。

「基本はそうかな。」
「基本は。」
え? 何それ。例外があるとか聞いてない。やっぱり男しかいない国だから? 例外なの?
「貴方は、おそらく隔世遺伝でご先祖の能力を引き継いでいる。」
とても真面目な表情で、まっすぐオレを見つめる王子。くそう、イケメンオーラ全開とか卑怯だ。すごく負けた気分になる。
「えーと… 先祖の力って言われても… どんな能力か知らないし、その証拠だって…」
ん? 待てよ、そもそもフツーの日本人なんだし何代前まで遡っても特殊能力なんか無くね?
「証拠はその髪と瞳の色かな。」
髪と瞳の色。忌々しい、この色が? これのせいで、どんだけ不快な思いをしたことか。モヤモヤしているオレを気遣いながらも王子は話しを続ける、
「おそらくなんだが、貴方は人魚かウンディーネの末裔なのではないかと。」
「…根拠は?」
「その青味がかった色が、水にまつわる精霊と同じ気配をしている。」
人魚にウンディーネ… どっちも女子のイメージしかない。
 って言うか、あれ? 青味がかってるって何だ? そんなだったっけ。白髪みたいで、目の色も何かバケモンみたいで、そういや最近はもう鏡を見るのも止めたんだった。あ、でも目の色は青っていわれりゃそうかもしれない。冬の海の色、青よりは暗い色。
 …嫌だな。いや、色が変わったのはもう今更だしいいや、むしろ、今心配なのは…

「女体化はしたくない!!」
とオレは思わず口走っていた。いや、なんかこのままいったら人魚ー! だとかウンディーネー! とか言って女体化しそうじゃん。異世界転生とかじゃなくて女体化する系の世界観とか当事者になりたくないヤツ!!
「心配しなくても、その辺りは大丈夫かと思うよ。」
「女装も嫌だ。」
「そうだね。」
爽やかに笑うのやめてくんない? 取り乱してるオレが恥ずかしいわ。
 王子の言葉を信用していいなら、とりあえず女体化とかはしなくて良さそうだ。良かった。心の底から良かった。こうなったら普通に異世界で勇者になりたいとこなんだけど、どうかな。のんびりスローライフとか言える状況じゃないし。

「今は力を取り戻している途中なのでしょう。人魚かウンディーネかは今の段階では不明ですが、どちらにせよ水神の眷属です。水神の色を身に纏えば聖女として覚醒したと言えるでしょうね。」
「なあ、それどうにかなんないの?」
「それとは?」
意味が分からないと、王子は首を傾げた。
「オレ、男なの。聖女とか言われたくないって。」
「ああ、なるほど! 聖女は職業ですしそんなに気にすることではないかと。」
…あーなんだろ、フツーに言葉が通じてたから勝手に脳内変換されてたけど… 『聖女』じゃないのか? せいじょのじょは女じゃないのか、王子のこの反応。ってかオレは今、何語を話してるんだ?
 なんか、この件に関しては抵抗しても無駄なのかもしれないとオレは学びつつある。

「じゃあ、オレはどうしたらいいんだ? つか、災厄がどうにかなったら元の世界に戻れんの?」
と言ってみて、はた、とある考えが過る。オレは元の世界に戻りたいのか、と。このままどころか、より一層色が変わるというなら、両親の態度は今より酷くなりそうだ。友人だって…
「そうですね… その時、貴方が元の世界に戻りたいとお考えなら。」
「この世界に居続けるって選択肢もある訳?」
「もちろんです。救国の英雄ですしね。基本的には王族と婚姻していただきます。つまり、私の花嫁◎◎ですね!」
今までにないほど、爽やか勝つキラッキラなオーラ全開にして何言ってんの? コイツ。

「…アンタ、男だよな?」
「そうですね、王子ですから。」
あ、王子=男の方程式はちゃんと当てはまるのか。
「…オレも男なんだけどな?」
「ええ、この男子のみのエリュシオン王国に召喚されたのです、間違いなくそうでしょうとも。」
あ、なんかさっきのテンション高ぇじいさんと同じこと言ったな、コイツ。
「おとこどうしでけっこんすんの?」
あ、やべ、思わず精神年齢が後退しちゃったわ。
「他に何か?」
え? 何その澄み切った瞳。逆に怖い。
「男同士で結婚して… 子供どうすんの…?」
「コウノトリが卵を運んできてくれますよ?」
ええ… ここ、そう言う世界観なの? これはアレだ、災厄どうにかして元の世界に戻してもらうに限るな。親も友達もどうにかしよう。この世界観よりは受け入れられそうな気がする。
「そうなんだ…」
どこに転がっても、良い事なさそうな展開に、オレは肩を落とした。
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