八百比丘尼の孫は異世界で恋をするか

渡邉 幻月

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聖女が均衡を保つ世界はなかなかに歪んでいるようだ@その②

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願っても無い事だ。
 正直、今の状況は何一つ理解できることがなくて、心が折れそうだった。聖女って何。聖女って変換してるからいかんのか? 他になんかあるか? 『せいじょ』って聞いて『聖女』に変換されたオレって、ラノベと漫画の読み過ぎかな!?(ヤケクソ)

「この国の名からいこうか。」
オレが頷いたのを確認した王子がそう言って、順番に説明してくれた。

 エリュシオン王国。まあ、王子のフルネームでなんとなく予想はついてた。って言ったら話の腰が折れそうだから黙っておく。王子の説明だと魔法工学が発達した国だそうだ。やっぱり魔法はあるんだなあ、異世界から人ひとり召喚するくらいだしなあ。っていうのが第一の感想。あと、魔法工学が何か説明してくれそうな雰囲気だったけど、難しそうなので丁重に遠慮した。深くかかわりたくないというのもある。
 大陸の東側にあるのだそうだ。領土はそこそこ広いなあ、と言うのが見せられた地図からの感想。大陸中心にはどの国にも属さない聖地があるのだとか。高い山脈に囲まれ、聖地に行くには長いトンネルを通っていくことになるそうだ。
 南には軍事国家、西には飽食と娯楽の国が、北は学問と芸術に秀でた帝国がある、と言うのはまあ理解できた。大陸の周辺に島国が幾つかあって、獣人の町やエルフやドワーフの集落があったり、幻獣や妖精の村があったりするそうだ。それは良いんだ、それは。剣と魔法の世界なら、そんな町や村がある方が納得できる。問題なのはこの国もある大陸だろう。
 南と西は女だけの国、北と東は男だけの国… って何それ。北と東は地獄かなんかなの? むさくるしいだけの国ってなんなの? どうせ召喚されるなら南か西の国が良かった…

「そして聖女についてなんだが… 続けて大丈夫だろうか?」
オレの百面相に、笑いを堪えてるのか何なのか口元を片手で隠しながら王子は言った。
「あー… うん。一番知りたいやつだし。」
それでは、と言って王子はまた説明を始めた。

【聖女】
一言で言うなら、100年周期で起こる災厄を唯一押さえ込める存在、だそうだ。
 うん。漢字で書くならやっぱり聖女かな。オレ男なんだけどな。
 そして災厄と言うのは、その時々で姿が違うそうだ。病だったり、魔物の大量発生だったり、人心の乱れで戦争がおこったり。
「人間同士の戦争も災厄な訳?」
「普通の戦争は人災かな。普通って言うか、どんなにバカバカしくても理由がある戦争。」
「あー… 侵略戦争とか?」
ちょっと考えてから、思い付いたのがそれだった。他になんかあったっけ?
「あとは後継争いとかクーデターからの内戦とか。」
王子がそう言って、ああ確かにそれも戦争だよなって思う。でも、それも普通の戦争に入れるなら…
「理由が無いのに戦争なんかする?」
そうオレが聞くと、ちょっと苦笑して(それもサマになってるとこがまた腹立つけど)王子は説明してくれた。
「災厄の場合は、本当に何故争うのか分からないまま、ひたすら殺し合うんだ。最初は身近な誰かとの小競り合い、次に一族郎党を巻き込んで、気が付いたら国家間戦争になってる。ある意味一番質の悪い災厄と言える。」
殺し合うんだからそりゃまあタチが悪いよな、って考えてたらそれだけじゃないらしい。
 他の災厄は各国をぐるりと回るから、100年周期とは言え周り巡ってくるのは国単位で見れば400年後になる。聖女が現れなくて災厄に対処できなかったとしても、災厄に見舞われなかった国が援助することもできる。
けど、この戦争の場合は全ての国が入り乱れて争うから…
 ゾッとした。それって人類滅亡するしか無いんでは?

「そして、どうも今回の災厄が…」
言葉を濁す王子の顔には苦渋が満ちている。流石に察した。
 これ、あれだ。一番最悪なの来ちゃった感じだ。
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