八百比丘尼の孫は異世界で恋をするか

渡邉 幻月

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聖女が均衡を保つ世界はなかなかに歪んでいるようだ@その①

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「召喚の儀は成功した!」
誰かが嬉しそうに叫んだ。みんなテンション高ぇな、完全にオレは置いてきぼりだ。

「よくぞお出でくださいました。」
真っ白い、長いひげの老人が一歩前に出たかと思うと、こちらを向いてそう言った。白地に金の糸で刺しゅうの施されたローブに、なんて言うかあれだ、某ゲームの僧侶が被っている長い帽子? 偉い司祭なんだろうな、とオレはどこか人ごとのように聞いていた。
 だってそうだろ? まさか、このおっさん達が盛り上がっている聖女が男のオレな訳ない。身長は180㎝あるし、部活でそこそこ鍛えられてたから筋肉だってあるし。女子に間違われるような顔つきでもないしな。自慢じゃないけど、女子にはそれなりにモテてたんだからな!
と誰に対してか分からない言い訳をしつつ、もう一回、オレの横とか後とかを確認してみた。

うむ。誰もいないな!

「お加減がすぐれませんかな? 聖女様。」
心配そうに、オレの顔を覗き込んでくるの、やめてくれねぇかな。オレが聖女みたいじゃないか。
…。
「…てか、その、聖女、とかって… オレに言ってる?」
考えたくないけど、収拾もつかなそうな雰囲気に折れたのはオレの方だった。
「他に誰が居ましょうか!」
嬉しそうに司祭だとオレが勝手に思っているじいさんがにっこりと微笑んだ。ああ、すげえイイ笑顔だ。

「あの、盛り上がっているとこ悪いんですけど、オレ、男なんで…」
こんなに盛り上がってんのに悪いと思いつつ、どうしても我慢できずそうオレは真実を告げた。いや、そんな大それたことじゃないはずだ。今まで女子に間違われたとこなんか1度もないんだ。むしろ、このおっさん達は何をもってオレを聖女って思って盛り上がってるんだろう。
と、ここまで考えて『聖女』じゃなくて何か別の意味っつうか漢字を当てるのかもしれないと思い至った。あれ、ちょっと恥ずかしいわオレ。

「ええ! もちろん存じております。ここは男子のみの国、聖女も男子がなりますからな!」
うん? なんつった?
ココハ男子ノミノ国。
聖女モ男子ガナリマス
爽やかな笑顔で何とんでもないこと言ってんの? このじいさん。
って言うか、女の子がいない国とか何それ地獄かなんかなの?

「クローヴィス枢機卿、聖女は混乱しているようだ。少し休んでいただく方が良いのではないか?」
オレとじいさんの(あんまり成立していない)会話に割って入ったのは、金髪碧眼の美青年って女子が喜びそうな男だった。
 身なりは… なんだろう。騎士… よりは、やっぱり王子っぽいな。なんかキラキラしてるしな。とか考えていると、
「ふむ、アーサー王子の仰る通りかもしれませんね。」
クローヴィス枢機卿と呼ばれたじいさんが、ふむふむと納得した様子で頷いている。つうか、やっぱり王子だったんだな。
「聖女のお相手は私がしましょう。」
「さようでございますな。お年もアーサー王子と近いようですし、お相手は王子にしていただいた方が聖女も落ち着かれましょうな。」
王子と枢機卿が、オレ抜きでオレのことを話している。
 誰が相手でも落ち着けるか。こんな訳の分からない状況で。

結局、オレは王子に(侍従とか護衛も一緒にいるけど)案内されて、広間から別室に案内された。
ヨーロッパの城の一室とかファンタジー世界の城の一室とか表現すればオレが連れられた部屋をイメージしてもらいやすいんじゃねえかな。緑を基調としたその部屋は、その色の効果もあるのだろうけど気分を落ち着かせた。調度品とかを視界に入れたら別の意味で落ち着かなくなりそうので、オレはすぐに視線を逸らした。

「私はこの国の第1王子のアーサー・メデイア・エリュシオン。名前を伺っても?」
オレをソファに座らせ、王子は名乗った。侍従が茶やら菓子やらテーブルに並べているのを、視界の片隅に入れながらオレは王子の顔に既視感を感じていた。
 金髪碧眼の知り合いは居ない。でもどこかで見たことがある顔だ。漫画とかのキャラでもなさそうだし。
「聖女殿?」
こてん、と首を傾げ王子がオレの顔を覗き込んだ。
「あ、悪い、つい… なんか、見たことある顔だなって思ったら…」
「…。ふふ、そうでしたか。」
敬語も中途半端なオレの言葉に気を悪くした様子も見せず、王子はそう言って微笑んだ。
「あ、ええとオレの名前だっけか。悠斗、柏木悠斗って言うんだけど。…ゆうとって呼んでくれたらいいかな。」
オレは何で照れてるんだ。王子相手に。
「じゃあユート、私のことはアーサーと呼んでくれていい。そして、いきなり知らない国に呼び寄せられて戸惑うことも多いと思う。」
王子の顔からは笑みが消えたけど、視線は優しくオレに向けられている。うん。なんか… こそばゆいと言うか、その視線は照れる。

「まずは、この国と聖女について説明させてくれ。」
と、王子が申し出てくれた。
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