八百比丘尼の孫は異世界で恋をするか

渡邉 幻月

文字の大きさ
9 / 13

幻想と妄想と①

しおりを挟む
 水の音が聞こえる。揺らめく水の音、波の音が。ひんやりとした空気に包まれる。重苦しい、まるで水の中に居るような。
『嗚呼… ああ、』
波の音に紛れながら、それでも聞こえてくる嘆きの声。知らないはずなのに、聞いたことも無いはずなのに、オレはその声の主を知っている・・・・・。そう、確信している。
 あれは、そうだ。

『オレだ』

 何故だろう。女の人の、泣き疲れたようなしゃがれた声が自分の声だと思うのは。水の中を漂いながら、落ちていく。底の底へと。嘆く声が次第に怨嗟の声になっていく。
 分かる。オレも、ついさっきまでは、この世の全てを恨んでいたんだ。この髪の色が、目の色が、オレの意思と関係なく変化した時から、ずっと。この世界に来て、王子も他のおっさんやじいさん達のテンションがあんまりにも変ですっかり忘れていたけど。
 理由は違うけど、あの声は…

『嗚呼、嗚呼ァ… 口惜しい…』

呼んでいる、オレを。あの声は、オレを呼んでいるんだ。

「行かなきゃ…」
そう思ったのか呟いたのか、自分でもはっきりとしない中、落ちていく速度が上がったような気がした。次第に海の底のような薄暗さになっていく、ように見える。見えている? 泳ぐ訳でも無く、ただ、流されながらオレは… だんだんと自分が…

 オレが消えそうになる。
消えそうになっているのに、多分、今までだったら拒絶したと思うのに、どうしてか今はこのまま消えてもいいのかもしれないとか、そんな風に何もかもを受け入れているような、不思議な感覚になっている。そう考えている間にも、色々なものが希薄になっている。体を包む冷たい水のような感じも今は、水の音もだんだん遠くなって…
 そうして。…そうして。


「ダメ! そっちは□□□!」
だれかがおれによびかけた。
 このこえはしらない。しらないこえだ。

「こっち、こっちよ! 貴方は竜宮こっちに来るために…!」
すごくひっしなこエだ。アれ? なンかへんダ、
「…! 名前! 貴方の名前を…!」
ナまえ? おレの なまえ? オレの、なまえ? なまえは… ゆうと。
「悠斗、 柏木悠斗。」

 バチン、と何かが弾かれる音がした。ガクンと、急ブレーキを踏んだような感じで落下が止まった。ただ、水の中に浮かんでいる状態になって、そうして。一気に体が軽くなったのが分かった。
「良かった…! 悠斗!!」
さっきの声が、オレの名前を呼んだ。とても嬉しそうに。そうして、光が辺り一面に溢れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

処理中です...