八百比丘尼の孫は異世界で恋をするか

渡邉 幻月

文字の大きさ
10 / 13

幻想と妄想と②

しおりを挟む
「ここは?」
目の前にあったはずの祭壇も、その奥にあった精霊石も見当たらない。と言うか、枢機卿も王子の姿も見当たらない。そもそも何もない。床も柱も天井も。辺り一面、綺麗な水で満たされているみたいだ。みたいだ、ってのは、息ができるし冷たさも感じないからだ。でも、水中にいるような重さは感じる。
「ここは水神様の領域、その入り口だよ。」
さっきの声がまた聞こえて、オレは反射的にそっちを向いた。子供の人魚、って言えば分かるだろうか。三頭身っていうの? 全体的にふっくらとした体形の人魚がいた。幼児体系だし下半身魚だし、正直男か女か分からない。でもこの国男しかいないって言ってたから男なのかなあ? 可愛いのになあ。
「オレなんでここにいるの?」
「? 覚醒の儀式したよね?」
「うん、したわ。それ。」
「それでね、水神様が直接キミとお話したいんだって。」
そっかー、とオレは答えた。見た目通り子供だからなのか、オレの質問の仕方が悪いのか分かんないけど、このまま話しても遠回りな気もする。でもなんか可愛いからいいや。多分水神様とやらに直接聞いたら色々分かるんだろうし、案内してもらおう。
「じゃあさ、水神様のとこに連れてってくれるか?」
うん! とめっちゃくちゃキラキラした笑顔で人魚の子供は返事をして、オレの手を引いて泳ぎ出した。

 さっきは気が動転していたのか、こんなにでかい建物が目に入らなかったみたいだ。人魚の子供がオレの手を引いて向かうのは、白と青で彩られた絵本で良く見る竜宮城みたいな建物だ。木の代わりに珊瑚が生えてる。やっぱり水の中、っていうか海の中とか何だろうか。少し浦島太郎の気分だわ、これ。…全部夢ならいいのにな。髪の毛が白くなった辺りから全部。そうなると随分痛々しい夢を見てるってことになる訳なんだが。近付いてくる竜宮城を眺めながら、オレは現実逃避していた。

 竜宮城の大きな入り口を通り、長い廊下を通り過ぎて、大広間って感じの場所に連れてこられた。人魚の子供は、あそこにいらっしゃるのが水神様だよ、頑張って! とか言ってどこかに行ってしまった。オレを置いていくなよ、と思ったけど子供だしな、しょうがねぇよな、と思い直した。
 正面の玉座には全体的に薄水色って感じの人?神サマ?が座っていた。長い髪が水の中に揺蕩っている。整った顔、ひらひらとした衣、あと、胸。女神様なんだなーとちょっとだけ感動した。

「悠斗、良く来ました。」
玉座の女の人、状況的に水神様なんだろう、その人じゃないや神様がオレに声をかけた。聞いてて落ち着く、大人の女の人の声だ。さっきまで妙にテンションの高いおっさんばっかりだったから、ホントに安心する。
「あ、はい。」
安心しきってうっかり間抜けな返事しちゃったわ。でもそれに怒ったり、不機嫌になったりした様子は無く、水神様(推定)は、
「いきなりのことで戸惑うことも多いでしょう。」
と、オレに理解を示してくれた。好きになりそう。
「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は水神。世界の一角を担う、水に纏わる者を支配し司る者です。」
水神様はそう言ってにこりと笑いかけてくれた。めっちゃ美人。

「あなたは、遠い昔に人魚と人間との間にできた子の末裔です。いきなりこんなことを言われても受け入れられないかもしれませんが。」
眉を下げて、水神様は言った。王子が言ってたことと同じだ。向こうは仮定って感じだったけど。
「それじゃあ、オレはホントはこっちの世界の人間だったってことですか?」
「いえ、少し違います。あなたは遠い昔に分岐した世界の存在です。あなたの生まれた世界とこの世界は、所謂平行世界パラレルワールドという関係性です。」
水神様の説明になるほどと思いつつ、ふと疑問に思う。パラレルワールドっていう割に、元の世界には魔法とかそう言うの無いよなと。
 あったら良かったのにな。人生楽しくなりそうなんだよな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

処理中です...