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第十三篇第二章 鳳凰殿への来客
龍と成る逸材 “失望”
しおりを挟む伝説と謳われるガルフ・ジャッククォーツの
実子アビス・ジャッククォーツが帝国軍への
入隊を決めてから三年が経過した。
アビス・ジャッククォーツが十八歳となった
とある日に青天の霹靂とも言える事件が政府
へと舞い込んで来た。
其の事件とは『大将ガルフの離反』。
大将ガルフが六撰将へと転身するキッカケと
なった此の事件にどんな経緯があったのかは
未だ不明のままだが、大将ガルフが政府への
退職届を投げ打って帝国軍から離隊した。
当然、政府は事の経緯から此の事件を苛烈に
批判しガルフを裏切り者と呼称し始める。
だが、其の大事件を受けて唯一人だけ政府と
また違った感情を抱いた者が居る。
其れこそ、ガルフの実子にして現在ガルフ隊
からガルフの元部下の隊へと移籍をし着実に
出世コースを歩んでいたアビスだった。
「父さん……何故、此の様な真似を……。そして、何故……俺に一言も言ってくれなかったんだ……俺は…父さんにとって大事な息子じゃ無かったのか……?」
アビスもまたガルフの此の事件を他の隊士達
と同じ形で知らされる事となった。
アビスは失意の底へと堕ちる。
何故、父は自身に何の相談も報告も無く此の
様な道を選んでしまったのか。
アビスの悩みは段々と怒りへと変貌する。
其の発端となったのが此の様な声。
『親の七光りで特別待遇で入隊した癖に…父親が裏切り者かよ……』
『何でアイツは帝国軍にいれるんだ…?』
『誉れ高き帝国軍から裏切り者の血を一掃すべきだ……ッ!』
アビスもまたガルフの決断に因って生じた
此の問題の中で裏切り者と侮蔑されたのだ。
何故、自分が?
俺は何もしていないのに。
此の様な感情に苛まれ、別れの言葉すら無く
政府への裏切り者となった父に深い怨恨の情
を抱く事となったアビスは変わって行く。
自身のチカラをジャッククォーツという名が
持つ輝きを凌駕する程に磨き上げる。
そして、自身の運命を狂わせた父親、ガルフ
を自身の刃で裏切り者として処断する。
アビスは此れが自身を周囲に認めさせアビス
自身の価値を知らしめる方法だと悟る。
「…………奴に伝えてください。今回だけは見逃してやる……だが、しかし……貴様の首を奪るのは此の俺、アビス・ジャッククォーツだと……!」
瞳を開けたアビスの動向と刻を同じくして彼
の記憶の奔流から抜け出して行った。
「ホッホッホ……言伝は預かった。私の顔を立ててくれてありがとうよ…アビス」
「フン……精々、感謝して下さいよ……」
アビスからの言伝は元帝国軍元帥テイラーに
預けられ、アビスは踵を返す。
そして、緩りと静かにヒールブーツの音を
鳳凰殿内部へ鳴らして其の場を去り行く。
テイラーもまた今は意識を失い療養中である
ガルフの元へと緩り足を向けて行った。
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