RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

文字の大きさ
676 / 954
第十五篇第三章 同盟軍〜維新誓心譚〜

二十年物の因縁

しおりを挟む





縁日には繰り出さず、一人和室の窓際の椅子
に腰掛けて風を浴びる貫禄在る大男。

其の者が瞳を閉じて心安らかに座り込む背後
からアフロヘアーの大男が慌ただしく横開き
の襖を開けて入り込んで来た。



「ようッ……何を一人で黄昏てやがんだ?アドラスよォ…」


「………ウォッカか。テメェは昔っから気配だけで解っちまう」


「そいつァ…俺っちも同じだっての」



目を見開いたアドラスが緩りと背後へ視線を
向けるとガチャガチャとぶっきらぼうに何か
を準備しているウォッカを見遣る。

だが、アドラスは直ぐに其の理由を察する。

そして、多少其のテーブルを窓際へと引いて
反対側に一つの椅子を用意すると互いに目を
合わせてニヤリと笑い席に着く。



「足を洗って五年……ヤクザからまさかの国家自警団に加入し…ヒーローと持て囃された事もあった」


「人生はよォ…ホント何があるかわかんねぇよな…俺っちとアンタがこうして酒を囲むんだからよ」


「グハハハ……チゲェねぇわ。オイ、ウォッカ…儂はストレートでいい」


「ワハハハ…ストレートかよォ。やっぱり漢だねェ…アドラス…俺っちはロックで行くぜェ!!」



ウォッカが用意したウィスキーをアドラスと
ウォッカ、此の二人が酌み交わす。

二十年程の間、顔見知りだった筈の二人には
此れが初めての酒の席だ。

東西の極道組織の金看板同士。

互いのメンツを懸け続けて来た極道界の猛者
は裏社会から同時期に足を洗い白と黒の軍団
反乱軍と革命軍に別れた。

此の二人が交わる事は運命として無い。

互いに其れを理解した後に訪れた転機。

誰よりも此の感動は大きいのかもしれない。



流石のハードボイルドな二人だけあって酒を
注いでグラスを手にした後は目を逸らし星が
煌めく夜空を眺める。

そして、阿吽の呼吸。

同タイミングでグラスを差し出してグラスは
触れ合わぬまま、空中で乾杯を果たす。

更に、酒で唇を潤した次の瞬間にお互いに胸
の内ポケットから出したのは何ともイカつい
ジッポ型のライター。

差し出し合った二人は葉巻を咥えてお互いに
笑みを浮かべながら火を灯しあう。



「ワハハハ……不思議なモンだ。どうやろうとも合っちまう」


「グハハハ…儂等は初めて酒を酌み交わしてるんだがのォ……ホント…不思議なモンだ。なあ?“兄弟”…ッ」


「おうよ…いつにも増して煙も酒も…ロックに美味いぜ…“兄弟”…ッ!」



足を洗った二人。

しかし、どうしても互いに面を突き合わせる
時だけは極道の慣習が抜けない。

だからこそ、此の酌み交わされた酒は極道の
“盃”と同じなのだろう。

其の姿に歴戦の傷を宿す東西の極道達の永い
因縁は結末を迎え新たに次世代を後押しする
義理人情で繋がれた“兄弟”の誕生。

酒の匂いと味に飲まれて、二人の夜は緩りと
更けて行く事だろう。
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

『未来郵便局』

月影 朔
キャラ文芸
故人が未来の誰かへ宛てた手紙を届ける、少し不思議な「未来郵便局」。 配達人は、古い制服に身を包んだ寡黙な青年、時雨(しぐれ)。 「この手紙が、あなたの未来を照らしますように」 二十年前に亡くなった祖父から届いた、結婚を祝う手紙。 若くして逝った親友が、残された夢を託した手紙。 伝えられなかった「ごめんね」と「ありがとう」を載せた、最後の手紙。 届けられるのは、過去からの温かい想い。 手紙をきっかけに、残された人々の心が解きほぐされ、止まっていた時間が再び動き出す。 これは、時を超えて繋がる人々の絆と再生を描く、優しくて、どこか切ない物語。 配達人・時雨が胸に秘めた、彼自身の「手紙」の秘密とは――。 読後、あなたの心に温かい光が灯る、感動の連作短編集。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

詩歌官奇譚(しかかんきたん)

三塚 章
ファンタジー
旅をして民の歌や詩を収集する詩歌官、楽瞬(らくしゅん)。今度の村には幽霊が出るらしい。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

処理中です...