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第十六篇第八章 天下分け目の大戦・漆
誓いを胸に
しおりを挟む帝国軍本部内、地下檻牢殿。
此処に捕らえられるは、今回の戦争の火種と
なった第十五代ケーニッヒ王家、其の国王を
冠するストラーダ・ケーニッヒ。
そして、其の最愛の妻、サーラ・ヘヴンリー
の両名で在るが此の二人を監視する政府軍の
体制には大きな変化が生じていた。
其れは、宰相警護特命衛士を冠し此の二人の
監視を任されていたアダムとイヴの両名の姿
が其の場から消えていた事。
其の理由は、明らかであった。
帝国軍本部内、地下檻牢殿前、右龍の回廊。
「久方振りですね…。貴方の顔を見ると父の言葉を思い出します…謙虚にして聡明…そして民を立てる其の姿勢は…誰しもが見倣うべきであると……良く、褒めていましたよ。ねぇ?ガスタ殿……」
宰相警護特命衛士の女性を前にして遂に右龍
の回廊に迄、辿り着いたガスタは口を開く。
「イヴさん…。見違える程、お綺麗になりましたね……貴女と相見える事になるとは…人生とは正に奇なり…と言った所でしょうか」
宰相警護特命衛士が檻牢殿を出払った理由。
其れ即ち、国王奪還の槍が其の喉元迄に迫り
動かざるを得なくなった事。
シンメトリーに造られた帝国軍本部の城廓は
地下に迄、其の流れを受けている。
右龍の回廊が存在する以上は、左龍の回廊も
此の城廓には存在しているのだ。
「一つ、お聞きします…。宰相警護特命衛士…其の任を受け賜るのは貴女ともう一人…アダムさんが居る筈です。彼は今、何方にいるのですか?」
「解ってて聞いているのでは?安心したいだけとも取れますが……もう一人の侵入者を捉えに左龍の回廊へ…向かいましたよ」
イヴの言葉を聞いて、ガスタはホッと一息を
吐くと言葉通りに安心した表情を見せる。
「(ランス…入り口で別れましたがやはり貴方も眼前迄は辿り着きましたね。さあ、後は最後の砦を破って檻牢殿へ踏み入れるだけですよ…)」
ガスタは、そう心の中で呟くと腰元から鎖の
ジャラジャラとした音を響かせて鎖鎌を手に
して亜麻色の疾風のギフトを纏う。
其れと同時にイヴも矛の様な形状の槍を構え
雌黄色の迅雷のギフトを纏った。
「迅雷覚醒…」
「疾風覚醒…」
ガスタの身体に隼の翼が宿る。
そして、腕と足が其の隼をモデルとした形状
に鋭く変化を遂げると全身に鎖が巻かれる。
イヴの身体は雌黄色の雷を宿した。
そして、額から枝分かれした二本の角を宿し
首元から背中に霊獣・麒麟の立髪の様な嶺美
なファーを身に付け、右腕が所持していた槍
と同化し雷電を帯電している。
「 鎖丈隼毅…ッ!」
「 幻想麒麟ッ!!」
帝国軍本部内、地下檻牢殿前、右龍の回廊。
尽くすべき国王ストラーダを生かす為、奪還
を志した男が其の誓いを胸に、決戦の舞台へ
其の翼、翻し、舞い上がる。
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