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最終篇第三章 “兄弟が背負う哀しき因縁”
調和のチカラ
しおりを挟むアークの一撃がノアへと迫る。
そして、其の攻撃が何とノアの身体の近くで
銀色の風に囲まれ掻き消えた。
驚きを見せるアークの眼前で、瞳を閉じた儘
のノアは緩りと口を開いて呟いた。
「思った通りだ…」
そして、顔を上げて霧の中で目を見開くノア
は続けて、こう発言したのだ。
「見誤っていたんだ…。いや、見誤って居たと言うよりは勘違いをしていた。俺は兄さんが霧の中で俺に近付き鎌を振るって居るのだと…。しかし、そうじゃなかった…。速度で劣る兄さんがわざわざ俺に近付く筈は無かったんだ……」
当初のノア視点はこうだった。
しかし、実際にノアに届いて居たのはアーク
が離れて放っていた鉄鏡の飛ぶ斬撃。
其れも、斜めから身体を掠めて通り過ぎる様
な型の攻撃だったのだ。
斬撃が身体を掠めて通り過ぎるとノアの観点
からすれば霧の中で自身と同じ戦い方である
ヒット&アウェイを取ったのだと錯覚をする
事は致し方無かった。
だが、仮に此れが飛ばされた斬撃をアークが
鉄鏡のギフトの特性“硬化”で固め上げ実際の
斬撃に近付けたモノだったとしたら。
どんなに早く振り向いても其処にアークの姿
が無かったという事の証明になる。
そして、其の賭けに勝った瞬間、ノアの覚醒
に秘められたチカラが発揮される舞台が此処
に出来上がる事を意味していた。
「ヒャハハ……勘違いは解ったが…今のチカラは何だ…?説明が足りてねェぞ……」
「対人戦のただのぶつかり合いなら意味を為さない俺の固有特性さ…放たれた波動を起点とする攻撃なら解り易く言えば…無効化出来るチカラだよ」
ノアの覚醒、其の固有特性“調和”。
相手から放たれた波動、ギフトに依る攻撃に
同じ性質をぶつける事で無効化し掻き消す事
が出来るチカラである。
「ヒャハハ…て事はだァ…。距離を開けて安全な位置からの攻撃はテメェには通用しねェって訳だなァ…」
「ああ…正々堂々とぶつかって来るしか俺を殺す術は無い…兄さんにはね」
「……チッ…。そしたらテメェの速力が活きる…めんどくせェ固有特性を備えてやがったなァ……テメェ……」
「霧を解けとも言わない…其の代わり、近付いて来い…目を背けずに俺の元へ…後はカウンターで兄さんを倒す…ッ!!」
ノアの足元から銀色の風が吹き荒れる。
其れはまるで小さな嵐となって其の身を包み
如何なる攻撃をも跳ね返そうとノアの気概が
見え隠れしている様にも見えた。
互いに息を呑む暇すら与えない。
一瞬の波動の上下が生まれた瞬間に此の戦い
は決着の刻を迎えるという事を互いに悟る。
アークはノアの成長を目の当たりにして不敵
な笑みを途切れずに浮かべる。
全身に浴びせられる此の高揚感、ヒリヒリと
した震えが此の戦いの激しさを物語る。
いざ、決着の時へ、戦いは加速する。
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