RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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最終篇第三章 “兄弟が背負う哀しき因縁”

想いを遺す日記 “方舟”

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精神は完全に壊れた。

もう後戻りの出来ない所迄、来てしまった事
を感じたアークの頭からノアが抜け落ちた。

度々、思い出す弟の顔。

だがもう、謝罪の言葉を失ったアークは自身
の気を鎮めるかの様にきっと既に弟は此の国
の何処かで野垂れ死んだのだと決め付けた。

彷徨いながら辿り着いた落人群。

其処は闇の街ヘルカイウンに点在する生きる
意味を失った者達の集合地。

其処で無駄に脈打つ心臓の音が消える其の日
をひたすら待っていたアーク。



あの運命の歯車が壊れた日から約三年。

アークにとって、運命の日が訪れる。

其れは、近隣で起きた事件を調べに来ていた
とある帝国軍隊士との出逢いだった。

其の男は、此の国に蔓延る落人群の現状にも
目を向けようと土地へと足を踏み入れた。

騒つく落人群の中で、其の隊士の男はボロ屋
の壁に背中をもたれて座り込むアークを目に
して足を止めた。



「まだ若いな…。貴様は何故、其処で落ちぶれた儘、世界の流れに身を委ねる?」



アークは其の言葉に、返答をしない。

というよりも此処数年、言葉を発して会話を
していなかったツケだろう。

口が上手く動かない。



「俺は帝国軍中将カロス…。今、貴様に問い掛けているのだがな」


「……っ…る…せぇ……」



苦しそうに口を開くアークを見て当時の中将
カロスは、言葉が上手く発せないのだと悟り
アークの下に膝を付いて近寄った。

其のカロスに顔をジワリと上げて鋭い睨みを
利かすアークを見てカロスは安心していた。



「何だ、まだ生きる気力は失っていないな。此の場所から這い出て何か成し遂げたい事、叶えねばならん事は無いか?」



其の言葉に、アークの表情が少し歪む。

目が泳ぎ何かの過去と戦っている様な表情を
悟ったカロスはこう、次に繋げた。



「もし、犯罪に繋がる復讐や何かの手引きで無ければ喜んでしよう。貴様が再度立ち上がり成し遂げたい事が何か等は問わん。だから、話す必要も無い…」



アークは、何かを揺さぶられた様な瞳で眼前
のカロスを見詰めながら震え始めた。



「人類総てを救う神話の様な方舟にはなれん。だがな、目の前で苦しんでいる者達をほっとける程、野心が無いつもりも無い。俺は山程の人は救えなくとも手の届く範囲の人を救える男で在りたいと願っている。手を伸ばせ、然すれば握り返すぞ…」



カロスから伸ばされた手のひら。

アークは縋る様に手を伸ばした。

其の震える手をカロスは強く握り返しアーク
を引き寄せ、強く抱き締めた。

身体中の体温が、跳ね上がって行った様にも
感じたアークはカロスの元で再出発を果たし
贖罪の為に帝国軍へと特例で加入した。

そして、アークの元にも其の数年後に急報が
舞い込む事となる。



ノア・クオンタムを中心とし独立師団革命軍
という名を冠して組織と共にまた兄弟の因縁
が強く動き始めたのだ。

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