RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya

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最終篇第五章 “太陽を奪う者”

総てを失った中で

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猛獣達に護られていたロストに漸く近付く事
が叶ったのは其の運命の日から十年の歳月が
経過した日の事だった。

だが、其の日をガズナは忘れる事は無い。

何故なら、遂に邂逅を遂げたロストの心体に
起きた悲痛な後遺症を目にしたからだ。

其れはー。



「ロストはあの時に一度覚えた筈の人間の言葉を忘れておった…まるで獣の様に騒めくかの如くに口を開く奴を…ワシは忘れる事は出来んじゃろう…何かを伝えようとしているのは明白…しかし、理解の及ぶ範疇のモノでは無かったのじゃ……」



そう、胸を締め付けながら話すガズナの背を
眺めながらストラーダ達も心を痛める。

そして、ガズナは無理矢理にでもとロストの
腕を引き自身の家へと招き入れた。

何か、見返りを求めた訳では無い。

汚名を着せられ、奴隷として過ごした自身の
人生の歩みが、きっとそうさせたのだ。

ロストは言葉を話せぬままで、動揺と混乱の
中に居た事も明白だった。

だからこそ、ガズナはロストに対して何一つ
を求めずに、ただ暖かい飯を食させ、暖かい
風呂に入れ、暖かい寝床を与えた。

そして、毎日の様に言い続けた。



『体調は、どうだ?』



其の、一言だけを。



そして、五年が経過したある日、ガズナから
ロストに対してとあるアクションを始めた。

其れは、言語の再修復作業だった。



「樹海の中に捨てられていた乳母車にの…恐らくじゃが…奴の名前…ロスト・ヘルウェイドと…とある日付が彫られていたんじゃ…ワシは勝手に其れをロストの誕生した日であると断定したのじゃよ…」



そう、其れが確かならばガズナがアクション
をロストに対して始めた日こそ、彼が此の世
に生まれ落ちた日から三十年が丁度、経過を
遂げた日であったのだ。



「最初はとてもモヤモヤした気持ちが晴れんかった…簡単な挨拶等も通じんかったからじゃ…じゃがの…焦らせるつもりは微塵も此方にはありゃせん…ゆっくりと当たり前を取り戻して行って欲しい…願いは其れだけじゃったよ…」



ガズナの必死の行動に段々と胸を打たれつつ
ロストもまた必死に言語を覚え直した。

そして、漸く当たり前の“今”に至るのだ。



「………イリーガルの魔獣なんて…狂気に満ちた噂話の正体が…捨て子…だったなんて…」



ガズナの回想が途切れ、真実を知った者達の
中でストラーダが最も心を痛ませていた。

国王という立場の中、余りにも救えていない
命が多過ぎる事を知ったから、だろう。

其の気持ちの揺れを察したガズナから背後の
ストラーダへと一言、言葉が飛ぶ。



「………ロストが本心で何を想いながら戦っているかは正直ワシにも解らん…。心を一度失ったモンが…何を理由に此れだけの再起を見せたのかはな…」



ガズナすらも理解し得ない、ロストの本心の
底には何が眠っているのだろうか。

其れは、ロストにしか解り得ない事だ。
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