『朱里ちゃんの戯言』短編小説集

健野屋文乃(たけのやふみの)

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17 あいよりあおい章

500年前の復讐と美少女と・・・【下】

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颯先輩は、村正を箱に仕舞うと俺の部屋を見渡した。

颯先輩は、青のワンピースを着ていて、平和な時代の女子を楽しんでいる感じが伝わった。
まるで男子の部屋に始めてきた女子の様に、嬉々としていた。

しかし深夜に、こんなに綺麗な顔立ちの女子が、部屋に来てるって、家族に知れたらどうしよう。


「彼女ですって?」紹介するのか?
そもそも、どうやって入って来たんだ?
窓かな?
城攻めに比べたら、2階建程度の部屋に登るのなんて容易いか。


「あっ千代吉に、もう1つ言っておきたいことがある」
「何でしょう」


颯先輩は、机に座り、生足を揺らした。
まるで美少女の様に。まあ美少女なのだが。

【疾風迅雷の颯】
と、畏怖の対象だった前世を知らなければ、普通の美少女だ。
こういう時は、前世の記憶が邪魔になる。


「あのわたしと一緒にいた幸薄そうな子いたでしょう」
「うん」
「あの子、幸薄いのに、さちって言うんだ」
「うん」
「あの子ね、実は前世、殿なの」
「えっ!俺&お前の?」
「そう。前世の記憶はないみたいなんだけど」
「ない方が良いバージョンかも」


颯先輩は、机に置いてあるオレンジジュースを手にして、

「飲んでいい?」
「どうぞ」

俺の飲み掛けの!ラブコメだと大変な事件だぞ!
でも相手は、【疾風迅雷の颯】複雑だ。

そりゃ500年前は生死を伴にして戦場を駆け巡った仲だが。

「千代吉が処刑された後、殿がどうなったか知ってる?」
「知らない」
「首が城下で晒されたの」
「あぁぁぁぁぁ」
「だから生まれ変わっても、あんなに幸が薄い顔してるんじゃないかと、生まれ変わっても消せない怨念のようなものだね」
「あぁぁぁぁぁ、忠臣と思ってた家臣にも裏切ららたし」
「それはまあ、わたしにも言いたいことはいっぱいあるけど・・・」
「何?」


颯先輩は、机に置いてあるピザまんを手にして、

「いい?」
「どうぞ」

と言ったものの、それは、俺の夜食のお楽しみだが・・・

察したのか颯先輩は、ピザまんを半分に分けて、半分を俺に手渡した。
そういう気が付くのは、昔と変わらない。

「結局、わたしの方が正しかった。あの時、早めに恭順を示すべきだった」
「・・・」
「わたしにだって、当主として守るべき一族郎党がいた」
「・・・」
「いや、良いわ。今言っても仕方ないし」
「・・・」


颯先輩は、ピザまんをもぐもぐしながら、俺の沈黙の意味を探った。
知略に満ちたその目は、500年前と同じ、敵にしたくない視線だ。

「でね、千代吉も揃った事だし、サチも含めて戦場跡とお城に行って見ない?」
「えっ殿の首を晒された城に行くの?」
「そう」
「いやいやいやいや、前世の記憶は100%消えた訳じゃない訳だし。
魂のどこかでそれは覚えている訳だし、それは・・・」
「でもわたしの魂がそれを求めているの、何か結論を出さないとって」
「言ったら結論が出ると?」
「根拠はないけど、でも、サチの心の奥にある怯えを取り除けるような気がする」
「勘?」
「そう」


俺は戦場での颯の勘の鋭さを幾度度なく体験していた。

その颯先輩がじっと俺の目を見ているもんだから、俺も颯先輩の目をじっと見つめた。

500年前もそんな事が合った。

あの頃は、颯とは、違う道を進んだ。
そして俺や殿は死んだ。
でもあの時俺は、心のどこかで颯が、正しいと感じていた。
楓を信じてあげられなかった。

俺は颯より、周囲の大多数の人間に従った。
心の奥で颯だけが、真実を見つめていると理解したのに。

颯先輩の目は、あの頃と変らず澄んだ目で、真実を見つめているように思えた。


颯先輩は俺と腕を組んで、
「ねっ、一緒に行こう」
と囁いた。

俺の腕に綺麗な顔立ちの少女に生まれ変わった颯先輩の、柔らかな胸が当たり、俺の気持ちは揺さぶられた。

あれ?

綺麗な顔立ちの少女の胸が当たって、気持ちは揺さぶられて「うん」って言ったら、俺、クズじゃねぇ?
「500年の恨みは、なんだったんだ」って事になるよな。「武者としてどうなん?」
と思ったが、

「う、うん」
と柔らかな胸の感触には逆らえず、俺は答えてしまった。

颯先輩は、素早く
「クズめ」
と囁いた。


         ☆彡





その城は、駅からバスで30分くらいの場所にあった。

今や観光地に過ぎないが、前世で戦った俺の心に戦場の匂いが甦って来た。
俺と颯先輩は、同時に深い深呼吸をした。

「ねえ2人は、いつからそんなに仲良くなってたの?」
幸が薄いサチ先輩は言った。

「えーと」
颯先輩は焦った。


俺と颯先輩の関係は、カツを貰っただけの関係に過ぎないし、さらにサチ先輩に、前世の事を話す訳には行かないのだ。

颯先輩は、俺に助けの視線を投げかけた。

俺は仕方なく
「先週、颯先輩が、突然、俺の家に突然やってきて、3人でお城見学とかしたいな~って言って来て~」
と事実を話した。

「えええ!すっごい急転回なんだけど!どういう事?
愛衣は、肉食系じゃなくて、おしとやか系だと思ってたのに!
先週って言ったら、カツ上げた日だよね。その日に家に行ったの?」

サチ先輩は、かなり驚いたようだ。
そう颯先輩は、ぱっと見は清楚なおしとやか系に見える。

そのぱっと見は清楚なおしとやか系の、颯先輩の蹴りが、サチ先輩に知られずに、俺のお尻に入った。
それは明らかに【疾風迅雷の颯】の蹴りだ。

現代人が冗談で蹴る蹴りではない。


「いや違うのサチ、学校の食堂でこの子が携帯忘れててね。
それを届けに行っただけだよ。そしたらこの子が玄関先で、
『僕は前世でお城で処刑されたんです。こんど先輩たちとそのお城に行って見たいです』
って痛い事言ってきたの」


さすが【疾風迅雷の颯】頭の回転が速い!
次から次へと嘘八百が出て来る!


「それは痛いね」
「でしょう、でも折角うちの高校に来て知り合った訳だし、先輩としてほっとけないでしょう?
それにサチは心理学に興味が合ったじゃない。
サチならこういう痛い子の対応が出来るんじゃないかと思って」

サチ先輩は、ものすごく痛い子を見る目で、俺を見て

「そうだね。陽翔くんだっけ?大丈夫だよ、わたしが話を聞いてあげるから」

そう言うとサチ先輩は、俺の頭を撫でてくれた。
そう言えば、殿は優しい人だった。俺は思い出した。

でも、そう言う痛い子設定なら、なんとかあの頃の事を話せそうだ。


500年前、殿の首が晒された場所の前に来た。
「ここで俺の殿の首が晒されたんです」
俺はサチ先輩に告げた。

サチ先輩は、ちょうど晒された首があったであろう場所を見つめた。

今は何もない場所なのに。
「なんだろう・・・・凄く、心が締め付けられるんだけど」

一度消された前世の記憶を、思い出す事なんて事はないし、例え思い出したとしても、それが自分の事だと解る訳がない。

その場所をじっと見つめると、サチ先輩は涙を流し始めた。

颯愛衣は、サチ先輩の肩を抱きしめると、
「大丈夫だよ、ずっとわたしが側にいるから」
と囁いた。

「ずっとわたしが側にいるから」の言葉の後に「もう裏切ったりはしないから」と言いたかったに違いないと俺は思った。


「ありがとう」
サチ先輩は、そう言うと涙を拭いた。
そして、さらに言葉を続けた
「でも、もう裏切らないでね」
と。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
颯愛衣は絶句した後、1時間程話すことも出来なかった。
      

           
        
        完





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