百魔の魔法士の伝説

紳士

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第5話

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「探索者として登録した人は、いきなり迷宮の探索に挑むんですか?」

「そういう方も多いですね。ですが、そういった方は大抵既にある程度の訓練をされている事が多いです。失礼ですが、マコトさんは何か武術などの経験はありますか?」

「いえ、ありません。」

「それでは、魔法は?」

「まだ一つも覚えていません。」

「そうですか。であれば、まず最低限の戦い方を身につけるのが無難かと思われます。金銭に余裕があれば、ですが。」

「今のところ金には困っていませんね。」

「ギルドでは有償でそういった指導も行っておりますよ。」

「どなたが指導して下さるんですか?」

「引退された元探索者などがほとんどですね。引退されたとは言え、腕は確かな方ばかりですよ。」

「いくらかかるんですか?」

「一時間で1000セルとなっています。」

「安くないですか?」

「彼らにはギルドからも報酬を出していますから大丈夫ですよ。新人の探索者が無謀な冒険に出るのを防ぐ目的もあるのです。」

「なるほど、訓練という名の扱きで現実を教える訳だ。」

「そういった面がある事は否定しません。その指導はマコトさんには必要ないかもしれませんが。」

「だと良いんですけどね。………その指導を受けるに当たって、必要なものはありますか?」

「そうですねぇ………ギルドでも練習用の武器は貸し出しますが、できれば自分の武器も持っていた方が良いかもしれません。それによって指導の仕方も変わるでしょうから。」

「なるほど……なら先に武器を調達しないといけませんね。」

「ギルドと提携している鍛冶屋があるので、行かれるのでしたら紹介状をお渡ししますが?」

「宜しくお願いします。場所も教えていただきたいのですが。」

「勿論です。あと、マコトさんは宿泊先は決まっているのでしょうか?」

「あっ………いえ、まだ決めていません。」

「でしたら、そちらもギルドと提携している宿屋をご紹介しましょうか?新人向けの宿屋もありますよ?」

「何から何までご迷惑おかけします。そちらも宜しくお願いします。」

「はい、任せて下さい!」

元気に頷いた受付嬢が裏に行き、すぐに戻ってきた。

机で何やら書き足した二通の紹介状をマコトに渡す。

「こちらが鍛冶屋で、こちらが宿屋の紹介状になります。それと、簡単な地図ですが、分かりやすい道なので大丈夫だと思います。」

「ありがとうございます。助かります。」

「いえいえ、お気になさらず。それでは、行ってらっしゃいませ。」

受付嬢の一礼を背に、マコトはギルドを後にした。





ギルドを出たマコトは地図通りに進む。

途中で身の丈以上の大荷物を運ぶ男を見つけた。

鍛えられてはいるが見た目からはそんな怪力を有しているようには見えない。

見るからに重そうな大きな袋を複数抱えて歩くその姿に驚いたマコトだが、その理由はすぐにわかった。

その男を見ていると、彼の脳内に一つの魔方陣が浮かび上がった。

その魔方陣はマコトの心に吸い込まれるようにして消えていった。

マコトは慌てて天眼を使う。



ーーーーーーーーーー
名称:マコト・カガミ

異能:天眼/魔神の加護/魔倣眼/隠蔽

容量:99/100

魔法:ビルドアップ 20/20
ーーーーーーーーーー



どうやら魔倣眼が発動したらしい。

あの男性が使っていたのはビルドアップという肉体を強化させる魔法のようだった。

制限回数は20という事は元は10だったのだろう。

消費された容量は1だ。

魔導書なしでこんなにも簡単に魔法が使えるようになってしまった事に軽く罪悪感を抱くも、何とか頭から振り払う。

そして、とりあえず試しに人生初の魔法を使ってみる事にした。

「ビルドアップ」

マコトがそう唱えると、彼は自らの身体が明らかに軽くなったのを感じた。

力が沸き上がり、今なら車の一台くらいなら持ち上げられそうな気がした。

「これが魔法か………凄まじい力だな。」

本来はここまで肉体が強化されたりはしないのだが、彼の場合は魔神の加護の効果で、魔法の効力に補正がかかっているのだ。

マコトは不思議な感覚に笑みを浮かべて握り拳を作ったりするも、発動から数分が経過し、魔法は効力を失った。

「なるほど、時間経過で魔法は消えるのか。」

他にも色々と試したい欲に駆られるが、ここは人目が多すぎる為、断念した。





マコトは地図通りに進み、小綺麗な宿屋に到着していた。

受付で紹介状を渡す。

あの受付嬢は一般的な紹介状に自らの名前を署名してくれていたらしく、部屋や料金で色々とサービスしてくれた。

あの受付嬢の名はレイラというらしい。

部屋に案内されたが、特に置く荷物もない為、すぐに鍛冶屋へ向かう事にした。

受付に鍵を渡し、宿屋を後にする。

また地図を見ながら移動しつつ、ついでに魔法を覚えられないかと辺りを見渡していたが、そう簡単に魔法を目にする事はできなかった。



20分ほど歩いて鍛冶屋にたどり着いた。

店長らしきムキムキのハゲ男に紹介状を渡す。

「む、紹介状か。お、これは…………レイラの署名入りじゃねぇか。珍しい事もあるもんだな。」

ハゲ男は厳つい顔を弛めて笑みを浮かべた。

「よし、レイラのお気に入りとありゃ手は抜けねぇな。お前さん、武器は何を使う予定なんだ?」

鍛冶屋の問いかけにマコトは答えられなかった。

この道中、何を使うかを考えていなかった事を反省した。

「特に決めてませんね。一般的に何が使われるんですか?」

「……貴族みてぇな喋り方する奴だな。…まぁ良い、やっぱり一番多いのは剣だろうな。狭い迷宮だと槍は使い難いし、短剣はリーチが短すぎて、人相手ならともかく魔物を相手にするには向かねぇ。魔物の身体能力は人間より上だからな。」

「ならとりあえず剣を使ってみます。合わなければ他のを探しますよ。」

「おう、わかったぜ。なら、とりあえず片手剣を見てみな。こっちだ。」

店内を案内され、片手剣が並ぶ区画に来た。

「重さや大きさなんか、持ってみてしっくりくるのを選んでみな。」

そう言われあれこれと試してみるマコト。

片手剣を使えばもう片手が空く事になるが、今のところ盾などを使うつもりもない為、両手でも振るう事のできる片手半剣を選ぶことにした。

いくつか使いやすいものを候補として挙げた上で、天眼を使って候補の中で最も質の高い剣を選んだ。

「ほう、こいつにしたか。なかなか見る目あるじゃねぇか。気に入ったぜ!」

マコトは「そりゃ劣化とはいえ元は神の眼ですから。」と言いたいのをぐっと堪えて肩を竦めた。





武器と合わせて革製の防具も購入したマコトは、ギルドで指導を受ける為にギルドへ戻ることにした。

ギルドへ戻ったマコトは受付に行こうとするが、彼の目に驚く光景が映った。

目の前に突然男が現れたのだ。

見えていなかったとか気付いていなかったというのではない。

文字通り、のだ。

マコトが目を丸くしていると、その男はマコトにきずいて小さく頭を下げた。

「すまない、驚かせてしまったようだな。」

「あ、あぁいえ、大丈夫です。……それにしても今のは……?」

「今のは私の魔法だ。テレポートという魔法でな。一度でも行った事のある場所に転移する事ができるのだよ。私に触れてさえいれば他人も転移させる事ができる。私はこれを使って稼いでいるのだよ。」

「そんなに軽く教えて良いんですか?」

「なに、自分で言うのもなんだが、私はそこそこ有名なのでね。テレポートを覚えている魔法士は非常に少ない。この王都で転移屋と言ったら私の事だ。今更隠すような事でもないさ。」

彼はそう言って立ち去っていった。

マコトはその背を見送り、おもむろに自分に向けて天眼を発動した。



ーーーーーーーーーー
名称:マコト・カガミ

異能:天眼/魔神の加護/魔倣眼/隠蔽

容量:98/100

魔法:ビルドアップ 19/20
   テレポート 10/10
ーーーーーーーーーー



マコトは期せずして便利な魔法を覚えられた事に、人知れず笑みを浮かべた。
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