百魔の魔法士の伝説

紳士

文字の大きさ
7 / 18

第7話

しおりを挟む
朝、目が覚めたマコトはぼーっとする頭のまま辺りを見回す。

木造の質素な部屋。

見慣れない光景に脳が覚醒する。

「俺、異世界に来たんだよな。」

暫し虚空を見つめた後、顔を洗う為にベッドから降りると、全身に鋭い痛みがはしった。

思わずよろけて再びベッドに座ってしまう。

マコトは激しい筋肉痛に顔を顰める。

ベッドの上で痛みに耐えながらストレッチをすると、ゆっくり歩ける程度には回復した。

洗面所に行くのさえ辛い、いっそのこと洗面所までテレポートしてやろうかと考えたマコトは自らに天眼を使った。



ーーーーーーーーーー
名称:マコト・カガミ

異能:天眼/魔神の加護/魔倣眼/隠蔽

容量:97/100

魔法:ビルドアップ 20/20
   テレポート 10/10
   リカバリー 30/30
ーーーーーーーーーー



「テレポートは1日に10回使えるのか…………ん、何だこれ?」

マコトは見慣れない魔法をいつの間にか覚えている事に気付いた。

新たに覚えたリカバリーという魔法を天眼で視る。

どうやら一定時間、自らの身体を常時回復させる効果を持つようだ。

「いつの間にこんな魔法を…………まさか……?」

マコトは、この魔法はクレイグが使ったものではないかと考えた。

昨日あれだけしごかれたマコトだが、運動不足を自認するマコトが、半強制的にとは言えあれだけ動き続けられた事に、疑問を抱いていたのだ。

昨日は必死に言われた事をこなすので精一杯だった為に気付かなかったが、普段のマコトであれば途中でダウンしているのは間違いなかった。

クレイグがこっそりとこの魔法を使って回復してくれていたのではないか、と考えたのだ。

実際、この推測は当たっていた。

しかしそれは、クレイグが優しいからではなく、マコトが最後まで動き続けられるようにする為である。

彼はどこまでもスパルタであった。

理由はどうあれ、便利な魔法を覚えられた事にマコトは心中で感謝する。

早速リカバリーを発動すると、身体の中が優しい熱を帯びるのを感じた。

これを使えば今日一日でかなり回復するだろう、とマコトはご機嫌で朝食を取る為に一階の食堂へ向かった。





その日は不足している日用品や衣類などを買い、あとは本屋で買った迷宮に関する本を読みながら身体を休めていた。

リカバリーは一度の行使で一時間効果が続いた為、マコトは一日中発動していられた。

お陰で翌朝起きた時には、全快と言って良いほど身体の調子は良かった。

マコトは気合いを入れてギルドへ向かった。

受付にはレイラがいた。

「あ、マコトさん!こんにちは!」

「ええ、こんにちは、レイラさん。今日もクレイグさんに指導していただきたいのですが。」

「えっ、本当ですか?本当に良いんですか?無理矢理来させられたんじゃ……?」

「いえいえ、私の意思ですよ。お願いできますか?」

「は、はい、勿論構いませんが………お身体の方は大丈夫なんですか?」

「ええ、問題ありませんよ?私の身体は回復力が少し高いみたいです。」

「少しどころで治るような状態ではなかったように思いますが………マコトさんが仰るのでしたら止めませんが、無理はしないで下さいね?何かあったら私に言って下さい!父の横暴は許しませんので!」

真剣な表情で言ってくれたレイラにマコトは苦笑する。

「その時は宜しくお願いします。では、練習場をお借りしますね。」

「わかりました。すぐに向かわせますので、お待ち下さい。」

練習場に向かって待機する。

ただ待機するのも暇だった為、マコトは二日前の指導を思い出しながら素振りをして待つ事にした。

30回ほどの素振りを終えて剣を一度降ろすと、すぐ近くにクレイグが来ていることに驚いて、慌てて挨拶をした。

「く、クレイグさん!すみません、気付かなくて……本日もご指導、宜しくお願いします!」

「いや、気にすることはねぇ。なかなか良く集中してたじゃねぇか。素振りも悪くなかった。やっぱりお前は才能あるぜ。」

「ありがとうございます。」

天眼のお陰だと思いつつも、誉められて悪い気はしないマコトであった。

「んじゃ、今日も気合い入れていくぞ!見たところ身体は大丈夫みてぇだからな。」

「はい!」

こうして今日も、厳しい鍛練が始まった。







ーーーマコトが異世界に来て一ヶ月が経過した。

探索者として登録したマコトだが、未だに迷宮に一度も入っていない。

マコトは準備を万全に揃えてから臨みたかったし、指導者であるクレイグは水を吸い込む真綿のように自らの技術を吸収していくマコトに気を良くして、この一ヶ月間あらゆる指導を行った。

指導の度に身体を極限まで虐め、次の日に魔法を活用して回復させる、という生活を繰り返している内に、マコトの身体は様変わりしていた。

肥満というほどではないがたるんでいた腹部は見事なシックスパックを誇り、腕や足の太さは一回りほど大きくなっていた。

おまけに身長まで伸びており、日本人としては平均的であった身長は平均よりやや上となっていた。

相変わらず周りの人間よりは少しだけ幼い容姿ではあるが、鋭い目付きと精悍な顔立ちを見て、彼が新人であると感じる者は少ないだろう。

たった一ヶ月でこれだけの変貌を遂げる程、クレイグの指導は厳しく辛いものであった。

また、クレイグのスパルタ訓練を逃げず隠れずに一ヶ月間受けている新人がいるという事で、ギルド内でマコトはちょっとした有名人となっていた。

特にクレイグの指導から逃げた事のある者やベテランの探索者などは尊敬すらしており、マコトが一流の探索者になると考えて友好な関係を築こうとするようになった。

その為、マコトがギルドに入ると毎度のように何人もの探索者から話しかけられるようになったのだが、それを気に入らない者もいるようだった。

そういった者はマコトにちょっかいをかける機会を伺っていたが、クレイグにバレたら大変な事になるのではないか、と怯えて実行に移してはいない。

自分に友好的でない視線を向ける者達がいる事を感じながらも無視して通い続けていたマコトだが、そろそろ迷宮の探索をしなければ金が底を尽きると思い、ついに迷宮に潜る事を決心していた。

いつものように受付に向かうマコトに顔見知りの探索者が話しかけてくる。

彼らと挨拶を交わし、適度に会話しながら受付に行くと、すっかり専属のようになったレイラが笑顔で出迎えた。

「こんにちは、マコトさん!今日も指導をご希望ですか?」

「いえ、今日は迷宮に行ってみようかと思いまして。」

「なるほど、ついにですか。……その旨、父には伝えていますか?」

「いえ、今日行くとは言っていませんが、近々予定しているとは伝えています。けど今日は訓練できそうにないので、一応伝えておこうかと思いまして。」

「畏まりました。それでは呼んできますので、少々お待ち下さい。」

一礼したレイラが裏へ向かう。

数分後、レイラがクレイグを連れてやってきた。

「おうマコト、迷宮に行くんだってな?」

「はい、そろそろ稼がないときつくなりそうなので。」

「そうか………まぁ、お前なら大丈夫だろ。今のお前なら、一人前以上には戦えるはずだ。だが、油断するなよ。」

「はい、わかりました。……この一ヶ月間、ありがとうございました。」

「おう。自分で言うのもなんだが、新人の身でよくあの訓練に食らいついてきたもんだ。自信を持て。お前はやれる人間だ。」

「ありがとうございます。」

マコトは深く頭を下げた。

辛く厳しかった一ヶ月間の努力が報われたような気がして、思わず涙腺が弛みかけるが何とか堪える。

「これまでみたいに定期的に来るってのは無理だろうが、また鍛えたくなったら来い。怠るんじゃねぇぞ。」

「はい、勿論です。」

「マコトさん、気を付けて下さいね。くれぐれも無理はしないように。」

レイラが心配そうに瞳を揺らす。

「心配して下さってありがとうございます。無理せず頑張って来ます。」

そう言った後、マコトは再度二人に頭を下げて、ギルドを後にした。





ここ数日で迷宮探索の計画を立て、準備を終えていたマコトはそのまま迷宮へ向かう事にした。

迷宮へ向かいながら自らを天眼で視る。

この一ヶ月で魔法の数もかなり増えた。

下級の迷宮に出る魔物くらいならば、大丈夫だろうと自信を持って言える程、彼は強くなっていた。



ーーーーーーーーーー
名称:マコト・カガミ

異能:天眼/魔神の加護/魔倣眼/隠蔽

容量:90/100

魔法:ビルドアップ 20/20
   テレポート 10/10
   リカバリー 30/30
   クリーンアップ 30/30
   ファイアボール 30/30
   ヒール 20/20
   ウィンドカッター 30/30
   ウォーターショット 30/30
   クリアウォーター 40/40
   ストーンアロー 30/30
ーーーーーーーーーー



マコトが使える魔法は10個になっていた。

この時点で既に超人的なのだが、彼の場合は全ての魔法の制限回数が倍になっている。

魔神の加護がいかに反則的な効果を持っているのか、マコトは決して他人に話してはいけないなと心底思うようになった。

ちなみに、ほとんどの魔法は自分に友好的な探索者にお願いして見せてもらったものだ。

どういった魔法があるのか、興味があると言えば自慢したがりな探索者達は簡単に見せてくれた。

罪悪感を忘れる為に、見せてくれた探索者達には酒を奢ったりしていると、更に仲良くなる事ができた。



それぞれの魔法を説明すると、以下のようになる。

クリーンアップ:物体の汚れやちょっとした錆びなどを消す事ができる。マコトの場合小さめの部屋くらいなら全体にかける事ができる。

ファイアボール:バスケットボール程度の火の弾を打ち出す。マコトの場合はバランスボール程度の火の弾になる。

ヒール:切り傷や打撲を治す事ができる。マコトの場合は骨折していても治す事ができる。

ウィンドカッター:革鎧に切り傷をつける程度の風の刃を打ち出す。マコトの場合は金属鎧に切り傷をつけられる。

ウォーターショット:高速で水を打ち出す。直接的なダメージを与えるというよりは目潰しなどに使われる。マコトの場合は子どもくらいなら吹き飛ばすほどの勢いが出る。

クリアウォーター:清潔な飲料水を生成する。マコトの場合はミネラル豊富な美味しい水が生成される。

ストーンアロー:革鎧に刺さる程度の速度と硬度の石矢を発射する。マコトの場合は金属鎧に刺さる程度の速度と硬度を持つ。



これ以上に強力な魔法ともなると簡単には見つからないらしい。

しかし、それでも魔法とは強力なものであるのに違いはない。

ましてやマコトの場合は魔神の加護で強化されているのだ。

魔物にどの程度通用するのかわからないが、全く効かないという事はないだろう、とマコトは考えていた。

だが、この時マコトは知らなかった。

否、予想外だったのだ。

この世界における魔法というものが、どれほど強大な力を持っているのか。

更に強化されたマコトの魔法が、どれほど反則的なものなのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...