百魔の魔法士の伝説

紳士

文字の大きさ
15 / 18

第15話

しおりを挟む
前方を横切る巨大を柱の影から盗み見る。

その姿は獲物を追う狡猾な狩人のようであり、その瞳は地を睥睨する猛禽類のように鋭い。

普段の彼の姿からは想像できない程に張り詰めた空気は、紛れも無く一流のそれである。

彼ーーーマコトは、現在上級迷宮にて探索を行なっていた。



異世界に来て早半年。

その身に宿す異能によって数多くの魔法を会得してきたマコトであるが、それら全てを常用するかというと、そうではない。

潜る迷宮の環境や、対峙する魔物の種類によって使う魔法が変わるのは勿論であるが、この半年でマコトが得意とする魔法というものも出てきた。

それはマコト自身の好みであったり、戦闘スタイルに合致するものであったり、単純に初期に会得したが為に信頼値が高く使い慣れているものであったりする。


特にマコトが重用しているのは、以下の魔法だ。

ラウンドサーチ:周囲の索敵。

ハイディング:自身の気配を希薄にする。

ビルドアップ:身体能力の強化。

マジックブレイド:刃物の斬れ味を向上させる。

パラライズ:対象を麻痺させる。

リカバリー:一定時間、身体を持続的に回復させる。

ヒール:身体の傷などを癒す。

アイテムストレージ:物体を異空間に保管する。

テレポート:空間を転移する。


これらの魔法を特に多用し、マコトは迷宮を探索しているのだ。

ラウンドサーチにて魔物を探し、ハイディングを使って近付く。

パラライズによって敵の動きを封じ、ビルドアップとマジックブレイドによって強化した剣撃にて、敵を屠る。

もちろん全ての敵にパラライズが通用する訳ではない。

特に上級迷宮に出没する魔物は状態異常への耐性を持つ者が多く、一方的に攻撃できる事は少なかった。

それでも魔神の加護によって強化されたマコトの魔法は、数秒程魔物を麻痺させる事ができる。

その数秒でマコトは魔物を斬り、麻痺が解ければ駄目押しの攻撃魔法によって撃破していた。

そのような戦い方をしている為、マコトが傷を負う事は滅多にない。

しかし迷宮という特異な空間で、一撃でも食らえば負傷は免れないという緊張感の中で戦い続ける事は、体力的にも精神的にも簡単な事では無かった。

だが、マコトはそういったものをリカバリーによって常時回復させ、たまに傷を負ってはヒールで回復させる。

たまった魔石をアイテムストレージで保管し、時間が経てばテレポートによって帰還する。

一人で探索しているにも関わらず、他の探索者達より長く迷宮に篭り、多くの魔物を駆逐し、無傷で生還するのは、こういった要素がある為であった。



もちろん、魔法さえあれば誰でも同じ事ができるかというと、そうではない。

いかに強力な魔法を持っていても、指先ほどの油断も許されない程、魔物は強靭な肉体や特殊な攻撃をするものだからだ。

トロールの振るう棍棒、ワイバーンの息吹、ゴーレムの踏み付け。

それらを一度でも真面に喰らえば、いかに魔法で身体を強化していようと、骨の数本は簡単に砕け、皮膚は溶けてしまうだろう。

それらに対処できるのは、ひとえにマコトがこの半年で身につけた技術に他ならなかった。

クレイグに課される地獄のような訓練。

助けてくれる者は何もないたった一人での死闘。

そういった経験の中で、マコトは自らの戦い方、生き方というものを開拓していた。

巨大な棍棒を繊細な剣撃で受け流し、猛烈な火の嵐を魔法で防ぎ、あらゆる物理的な攻撃を洗練された体捌きで避けていく。

もはやその技量だけでも一流というに相応しく、それでも尚警戒を怠る事が許されないのが迷宮だ。



前方を鈍重な動きで歩く巨人の背を見つめ、マコトは己の背が恐怖と緊張でひりつくのを感じていた。

ーーー何度やっても慣れないな。

それはマコトの偽らざる本音である。

トロールなど既に何度も討伐してきた。

それでも油断が許された事など一度として有りはしない。

それは今回も一緒だった。

音が出ないよう静かに、それでいて深く深呼吸をする。

頭の中で戦闘のプロットを組み立て、心を落ち着かせ、息を吐いた。

「ビルドアップ。マジックブレイド。」

意を決したマコトは、魔法を行使する。

身体と剣が光を纏い、獲物を屠らんと剣が鳴動している気がした。

彼が手にする剣は意志など持たない只の無機物だ。

すなわち、震えているのはマコトの身体。

それは恐慌か武者震いか、あるいはその両方か。

答えなどわからぬまま、マコトは一歩を踏み出した。

魔法によって強化されたマコトの駆け出しは、たった一歩で数メートルを詰める。

「パラライズ!」

愚鈍な巨人がこちらに気付く前に、マコトの魔法によってその巨体は動きを止めた。

トロールは混乱している。

普通に歩いていただけなのに、急に身体が痺れて動けなくなったのだ。

そして不意に感じる後方の気配、そして濃密な戦意と殺気。

気付いた頃には遅かった。

強烈で、それでいて恐ろしく鋭い斬撃。

巨大な棍棒を担ぐトロールの右腕が半分程も切られてしまった。

麻痺が解けたトロールは醜悪な顔面を怒りに染めて振り返る。

そこには袈裟斬りに剣を振り抜いたマコトの姿があった。

予想より遥かに小さく、そしてたった一人の襲撃者の姿にトロールは驚きを隠せない。

驚愕するトロールを尻目に、マコトは逆袈裟に剣を振り上げる。

半ばまで斬られていたトロールの腕が宙を舞った。

痛みに呻きつつ、左手を振って反撃しようとするトロールだが、素早い身のこなしでマコトは再度トロールの背後に回る。

「サンダーアロー!ストーンアロー!」

威力はやや低いものの、発動が早く扱いやすい魔法を駆使してトロールを攻撃する。

更に、マコトはただ適当に魔法を放った訳ではなかった。

背後に回ったマコトを、逃しはしないとばかりに素早く振り返ろうとしたトロールに雷の矢を放ち、一瞬動きを止める。

中途半端に止まってしまったトロールの片目に、狙い澄ました石の矢が突き刺さった。

片手に加えて片目まで失ったトロールは怒りの咆哮を上げるが、振り向いたそこにマコトの姿はなかった。

片目を潰すと同時に再び身を動かし、たったいまできた死角に入ったのだ。

マコトの姿を見失ったトロールだが、次の瞬間、左足に異変を感じ、膝を折った。

マコトがその鋭い斬撃で足の腱を斬ったのだ。

トロールは咄嗟に立つ事もできず、自慢の棍棒は斬り飛ばされた片手とともにあり、振るう事もできない。

随分と狭くなった視界で、トロールはその首を斬り落とさんと剣を振り上げるマコトを呆然と見つめる事しかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

 社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。

本条蒼依
ファンタジー
 山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、 残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして 遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。  そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を 拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、 町から逃げ出すところから始まる。

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...