百魔の魔法士の伝説

紳士

文字の大きさ
14 / 18

第14話

しおりを挟む
「ーーーっはぁ……」

10時間程こもっていた迷宮から出たマコトは、大きく深呼吸をした。

白い吐息がこぼれた。

「久々に入り過ぎちゃったなぁ。またクレイグさんとレイラさんに心配されちゃうかも。」

一人でそんなことをぼやきつつ、ギルドへと足を向けた。


季節は冬。

マコトがこの世界に来て、半年が経過していた。

レイラと大商市でデートをしてから二ヶ月である。

あれからレイラはマコトへの好意を隠したり否定したりする事がなくなり、周りから囃されても嬉しそうに顔を赤らめるに留めるようになっていた。

マコトはその度にどうして良いのかわからなくなるが、嫌だと感じる気持ちは全くなかった。

むしろ、マコト自身もレイラに対する気持ちが以前より強くなっているのを自覚しつつあった。

それでも手を出そうとしないのは、ひとえに日本で培われた倫理観がある為だろう。

そんなものはやがて時間が解決してしまうものだという事はマコトもわかってはいるが、それでも未だ答えは出せずにいた。

この二ヶ月間、自分に対して素直な好意を寄せてくれるレイラを好ましく思いつつも、マコトは自分の優柔不断さや情けなさを感じていた。

やるせない感情を迷宮で魔物にぶつけ続けていた。

既に王都に二つある中級迷宮はどちらも攻略し終え、未だ攻略され尽くしていない上級迷宮へと挑んでいる。



「上級迷宮にも慣れてきたけど、やっぱり中級までみたいに上手くはいかないなぁ…。」

マコトは再度溜息をこぼした。

中級までは殆どの魔物を一掃していたマコトであるが、上級ではそうもいかなくなっていた。

中級と上級の壁はそれだけ大きいのだ。

複雑な構造、悪辣で緻密な罠、そして強大な魔物。

どれも中級とは一線を画するものであった。

殆どの探索者は上級迷宮でまともに探索する事ができない、と言われているが、それも仕方のないことだとマコトも感じていた。

3mほどの巨大な体躯とそれに見合った怪力、そして再生能力を併せ持つトロール。

上空から高温の火を吹き、鋭い爪と牙で大岩をも噛み砕くワイバーン。

高硬度の金属に覆われた巨躯で暴れ回るゴーレム。

それらは生半可な探索者では太刀打ちできない程強く、恐ろしい魔物達だ。

このレベルになると流石のマコトでも鎧袖一触とはいかず、様々な魔法とクレイグ譲りの剣術を駆使して戦うようになっていた。


そもそも上級迷宮を一人で攻略しようというのがおかしな話なのだが、魔法を使っているところをあまり見られたくないが為に、マコトは未だに一人で活動していた。

探索者は手の内を暴くような事は御法度であるため、他の探索者も表立ってマコトを探ったりはしていないが、この若さでたった一人で上級迷宮を探索しているマコトを気にならない者などいなかった。

余程特殊で強力な魔法を持っているのだろう、と噂されているが、どんな事情があれ、マコトが超一流の探索者である事は疑いようのない事実である。

王都の探索者は、既にマコトを自分達とはかけ離れた才能と素質を持った人間であるという風に位置付けていた。





「あっ、おかえりなさい!マコトさん!」

ギルドに入ったマコトにいち早く気付いたレイラが満面の笑みを浮かべた。

心まで暖まるような気がして、マコトも笑い返す。

「ただいま戻りました、レイラさん。ちょっと遅くなってしまいましたね。」

「なかなか戻ってこられないので心配してたんですよ?」

やや咎めるような目を向けるレイラに、マコトは苦笑を浮かべた。

「すみませんでした…ちょっと集中し過ぎて。」

本来であれば何時間迷宮に篭ろうとも咎められる謂れなどないのだが、レイラの純粋に心配する気持ちを察して謝るしかないマコトであった。

「まぁ、無事ならそれで良いんですけど。…急にいなくなったり、しないで下さいね?」

綺麗な瞳を湿らせるレイラに息を飲む。

「…そんなことしませんよ。私は必ず帰ってきますから。……でも、確かに今回は潜り過ぎました。反省してます。」

誤魔化すように頭を下げるマコトに、レイラは涙を拭いながら微笑んだ。

「…いえ、マコトは別に悪くないですから、謝らないで下さい。私こそ、我がままを言ってすみませんでした。」

「心配してくれるのはほんとに嬉しいですから。レイラさんも気にしないで下さい。」

泣き止んだことにホッとしたマコトも笑みを返す。

甘い空気を出す二人に、すかさず周りの探索者が野次を飛ばした。

マコトとレイラは二人して照れるようにはにかんだ後、思い出したように魔石の売買をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...