17 / 18
第17話
しおりを挟む
ここはとある王国の首都。
王都というだけあり、経済的にも文化的にも王国の中心となっている。
更には下級から上級の迷宮が複数揃っており、大陸中から多くの探索者が集う街でもある。
その人口は大陸でもトップクラスのものだ。
そんな王都のほぼ中心に位置する探索者ギルド。
大陸各地に設置されているギルドであるが、これほど立派なものはそうそうない。
探索者の数に比例してギルド施設も充実させる必要がある為だ。
その王都探索者ギルドには連日多くの探索者が訪れるものだが、ここ数日は以前よりも人口の密度が増していた。
その原因は、今まさにギルド内で見知らぬ男性に話しかけられ、苦笑を浮かべている青年ーーーマコトにあった。
マコトがアークデーモンとの死闘から生還して三ヶ月。
もはや王都でマコトの名を知らぬものはいないと言えるほど、彼の名は本人の預かり知らぬところで広まっていた。
この世界の人々は娯楽に飢えている。
メディアとしてのインターネットやテレビは愚か、新聞さえもないのだ。
民衆に出回る情報は口から口に伝えられる噂話がほとんど。
世紀の英傑の誕生は、彼らにとって恰好の噂の種であった。
若き英傑の勇名は見る間に浸透していった。
若き、とは言ってもマコトはもうすぐ28になろうかという年齢なのだが、異世界の人々から見れば精々が20歳くらいにしか見えていなかった。
誇張された情報ばかりが広まって、そういったところが知られていないのがマコトの悩みである。
曰く、最上級魔物を単独討伐した剛の者である。
曰く、蜥蜴の皮を被った竜である。
曰く、血に飢えた狂戦士である。
曰く、亡国の王族の末裔である。
曰く、地獄から這い上がってきた悪魔である。
などなど、事実とは程遠い情報がまことしやかに囁かれていた。
血に飢えたとか悪魔とかは、恐らくアークデーモンとの戦いから帰ってきた時の血塗れの姿から発想されたのであろう。
マコトは知らないが、噂に出てくる地獄とは、周りの探索者達がクレイグの特訓を言い表したものだった。
ともあれ、その噂は街を超え国を超えて伝播し、ここ最近はその名を聞きつけて遠くから王都を訪れる輩まで現れる始末。
「君がマコトだな?…話には聞いていたが、本当に若いのだな。」
マコトの目の前には身長の高いハンサムな男が立っていた。
爽やかに笑ってはいるが、その瞳は鋭くマコトを見抜いており、よく鍛えられた身体は探索者特有の空気を纏っている。
対するマコトはやや辟易するように苦笑いし、穏やかに佇んでいる。
「はい、私がマコトです。貴方は?」
どことなく気弱そうな雰囲気、探索者らしからぬ丁寧な言葉遣い。
未熟者であればそれだけで侮ってしまいそうな程、マコトはらしくない。
しかし、その男は感じていた。
決して大柄とは言えない目の前の青年から感じる違和感。
やや細身に見える身体は、よく見れば恐ろしいほど鍛え込まれており、実質以上の重量を感じさせる。
にもかかわらず一つ一つの細やかな動きは猫科の動物のようにしなやかで無駄がない。
そしてこの青年、自分をまるで恐れていない。
自慢でも自信でもなく純然たる事実として、男は自らが一流以上の探索者だと自負している。
その身に纏う空気は、同業者をも萎縮させるほど濃いものであると理解していた。
しかしこの青年は平然と佇み、些細な警戒心さえ覗かせない。
まるで、警戒する価値もない、と言われているようであった。
実際にはマコトは「初対面の相手、しかも友好的に接してくる相手に警戒心を見せるのは良くない」という倫理観の元、それを隠しているだけなのであった。
だがそんなマコトの胸中など知る由もなく。
熟練の探索者はマコトが自分より遥かに大きな力を持った存在であると勘違いした。
事実としてはそれは間違ってはいないのだが、認識の違いという意味では間違いである。
咄嗟に言葉を紡げない男に、マコトは探るように繰り返した。
「えっと…お名前を聞いても?」
「あ、あぁすまない…私の名はクリストフ。帝国にて探索者をしている者だ。」
クリストフと名乗った男は必死に戸惑いを隠そうとする。
「クリストフさんですね。帝国の方ですか。宜しくお願いします。」
マコトは朗らかに微笑み、片手を差し出した。
帝国は王国の東に位置する大きな国だ。
以前は王国と戦争を繰り広げた事もあるが、ここ二十年程は友好的な関係を築いていた。
「宜しく頼む。」
クリストフも手を差し出し、二人は軽く握手した。
「それで、私に何か御用ですか?」
質問をしつつも、マコトはクリストフの用件に半ば気付いていた。
何故なら一ヶ月ほど前から、様々な人間から同じように話しかけられていた為だ。
「回りくどいのは互いの為にならんだろう。単刀直入に言うが、私と共に帝国に来ないか?」
クリストフは真剣な眼差しでマコトを見ている。
つまるところ、勧誘である。
この一ヶ月、噂を聞きつけた探索者や貴族等がこうしてギルドへ訪れていた。
新たな英傑を仲間、あるいは護衛として味方につけようという魂胆だ。
マコトは困ったような苦笑を返した。
「すみません。今のところ、ここを離れる予定はないんです。」
いずれは他の都市や迷宮にも行ってみたい気持ちはあるが、まずは王都の上級迷宮を踏破する事が、今のマコトの目標であった。
その上級迷宮も既に8割は探索し終えているのだが、完全に終わるにはあと一月はかかるだろうというのがマコトの考えである。
「そうか…やはり駄目か。これでも帝国では名の知れたクランの幹部なのだが。」
クランとは、ある程度実力を持った探索者達が集って作られた組織だ。
ギルドからクランとして認められるには、それ相応の実力や実績、名声が求められる。
そしてクランとして正式に認められた時、ギルドから様々な恩恵が受けられるのだ。
迷宮の情報を開示してもらえたり、報酬金が上乗せされたりする。
これはギルドが活躍を期待している探索者達への投資ともいえる。
そういった恩恵を受ける代わりに、クランはギルドの許可無しに他の街に移動したりはできないという縛りもあったりする。
「わざわざ来ていただいて申し訳ありませんが…。」
「いや、私が勝手に君に会いに来ただけだ。君が謝る必要はない。…だが、一つだけ頼みがある。」
「はい、何でしょうか?」
ここでもまた、マコトはクリストフの頼みとやらに目星がついていた。
同様の事態になるのは幾度かあった為である。
「それはーーー」
クリストフが口を開いたその瞬間、ギルドの扉が乱暴に開け放たれた。
「おい!ここにマコトとかいうガキはいるか!!」
乱雑な足取りでギルドへ入ってきて大声で怒鳴っているのは、金属の防具を身につけ背に斧を背負った探索者であった。
ギルド内にいた者達が不快そうに顔を顰める。
それに気付く様子もなく、男はキョロキョロと辺りを見渡している。
そしてマコトと話していたクリストフを見ると、ニヤリと笑って近寄った。
「お前がマコトとかいう野郎か?」
「だとしたら何だ?」
クリストフは冷たい眼差しを向けている。
それでも腰が引けた様子がないのは、度胸があるのか気付かないほど馬鹿なのか。
「へっ、こんな優男が化け物並みに強いだって?馬鹿馬鹿しい、そんな噂を間に受けてるんじゃ、王都の奴らも大した事ねぇな!!」
嘲るような言葉に周りの探索者達は激昂ーーーしない。
むしろ無知な男を蔑むように冷笑を浮かべている。
そして一際冷たい笑みを浮かべたクリストフが口を開いた。
「ここは君ごときが来るような所ではない。大人しく田舎へ帰り、農作業でもしていたまえ。」
クリストフの冷言を呆けて聞いていた男だが、徐々にその言葉を理解し、顔を怒りに赤く染めた。
「て、てめぇ!この俺様が誰だかわかってんのか!!俺様はガイル、豪腕の斧手と言われた英傑だぞ!!」
「知らんよ。悪いが動物には詳しくない。野猿と山猿の区別はつかんのだ。許せ。」
「この野郎、ぶっ殺してやる!!」
チンピラ丸出しの恫喝を上げて掴みかかろうとするが、それより早くクリストフが男の顔を鷲掴みにした。
「ショックウェーブ」
冷静に魔法を唱えると、男の身体が痙攣したように震え、次の瞬間には地に沈んでいた。
周りから小さな歓声が上がる。
ショックウェーブとは衝撃を波のように放って攻撃する魔法らしい。
言葉にするのは簡単だが、かなり強力な魔法だ。
鋼鉄の鎧を着ていても、それを無視して肉体に衝撃を放つ事ができる。
魔倣眼によって会得したマコトは、これは使えそうだとほくそ笑んだ。
そうとも知らずクリストフはマコトに振り返って口を開く。
「さて、これで邪魔者はいなくなった。改めて言おう。マコト、私と戦ってはくれまいか。」
ーーーあぁ、やっぱり。
それがマコトの、率直な感想であった。
決着は一瞬であった。
ギルドに併設されている訓練場にて、探索者達に囲まれてクリストフと対峙する。
審判を買って出たクレイグの掛け声で試合開始。
次の瞬間、クリストフの目の前にはマコトの姿があった。
歴戦の強者であるクリストフはすぐに対応しようとするが、あるかないかの一瞬の隙。
マコトはそれを見逃さない。
素早くパラライズとサンダーアローを放つ。
しかし特殊な魔道具を身につけているのか、パラライズは不発する。
更にサンダーアローをショックウェーブで迎撃する。
緻密な攻防であるが、全てはマコトの想定通りであった。
マコトが魔法に重ねるように剣を振るい、クリストフが咄嗟に下がろうとするが、それは不可能であった。
クリストフの足は、いつの間にか発動されていたクレイシャックルという魔法によって拘束されていたのだ。
それに気付いた時は既に手遅れであった。
「そこまで!この立ち会い、マコトの勝ちだ!」
マコトの剣はクリストフの首に添えられ、クレイグが判定を下した。
クリストフは悔しそうに、しかしどこか清々しい様子で肩を竦めた。
「……文句のしようもない。完敗だな。」
「いえ、これはただの作戦勝ちです。次があればどうなるかはわかりません。」
それはマコトの本心であったが、他ならぬクリストフが己の敗北を悟ってしまった。
ーーー次があったところで、果たしてまともに戦えるだろうか。
偽らざるクリストフの本音であった。
結果的にはマコトの圧勝ではあるが、目を見張る攻防が繰り広げられたのは見ている全員が理解していた。
再度握手を交わす両者に、誰ともなく万雷の拍手と歓声を送ったのであった。
王都というだけあり、経済的にも文化的にも王国の中心となっている。
更には下級から上級の迷宮が複数揃っており、大陸中から多くの探索者が集う街でもある。
その人口は大陸でもトップクラスのものだ。
そんな王都のほぼ中心に位置する探索者ギルド。
大陸各地に設置されているギルドであるが、これほど立派なものはそうそうない。
探索者の数に比例してギルド施設も充実させる必要がある為だ。
その王都探索者ギルドには連日多くの探索者が訪れるものだが、ここ数日は以前よりも人口の密度が増していた。
その原因は、今まさにギルド内で見知らぬ男性に話しかけられ、苦笑を浮かべている青年ーーーマコトにあった。
マコトがアークデーモンとの死闘から生還して三ヶ月。
もはや王都でマコトの名を知らぬものはいないと言えるほど、彼の名は本人の預かり知らぬところで広まっていた。
この世界の人々は娯楽に飢えている。
メディアとしてのインターネットやテレビは愚か、新聞さえもないのだ。
民衆に出回る情報は口から口に伝えられる噂話がほとんど。
世紀の英傑の誕生は、彼らにとって恰好の噂の種であった。
若き英傑の勇名は見る間に浸透していった。
若き、とは言ってもマコトはもうすぐ28になろうかという年齢なのだが、異世界の人々から見れば精々が20歳くらいにしか見えていなかった。
誇張された情報ばかりが広まって、そういったところが知られていないのがマコトの悩みである。
曰く、最上級魔物を単独討伐した剛の者である。
曰く、蜥蜴の皮を被った竜である。
曰く、血に飢えた狂戦士である。
曰く、亡国の王族の末裔である。
曰く、地獄から這い上がってきた悪魔である。
などなど、事実とは程遠い情報がまことしやかに囁かれていた。
血に飢えたとか悪魔とかは、恐らくアークデーモンとの戦いから帰ってきた時の血塗れの姿から発想されたのであろう。
マコトは知らないが、噂に出てくる地獄とは、周りの探索者達がクレイグの特訓を言い表したものだった。
ともあれ、その噂は街を超え国を超えて伝播し、ここ最近はその名を聞きつけて遠くから王都を訪れる輩まで現れる始末。
「君がマコトだな?…話には聞いていたが、本当に若いのだな。」
マコトの目の前には身長の高いハンサムな男が立っていた。
爽やかに笑ってはいるが、その瞳は鋭くマコトを見抜いており、よく鍛えられた身体は探索者特有の空気を纏っている。
対するマコトはやや辟易するように苦笑いし、穏やかに佇んでいる。
「はい、私がマコトです。貴方は?」
どことなく気弱そうな雰囲気、探索者らしからぬ丁寧な言葉遣い。
未熟者であればそれだけで侮ってしまいそうな程、マコトはらしくない。
しかし、その男は感じていた。
決して大柄とは言えない目の前の青年から感じる違和感。
やや細身に見える身体は、よく見れば恐ろしいほど鍛え込まれており、実質以上の重量を感じさせる。
にもかかわらず一つ一つの細やかな動きは猫科の動物のようにしなやかで無駄がない。
そしてこの青年、自分をまるで恐れていない。
自慢でも自信でもなく純然たる事実として、男は自らが一流以上の探索者だと自負している。
その身に纏う空気は、同業者をも萎縮させるほど濃いものであると理解していた。
しかしこの青年は平然と佇み、些細な警戒心さえ覗かせない。
まるで、警戒する価値もない、と言われているようであった。
実際にはマコトは「初対面の相手、しかも友好的に接してくる相手に警戒心を見せるのは良くない」という倫理観の元、それを隠しているだけなのであった。
だがそんなマコトの胸中など知る由もなく。
熟練の探索者はマコトが自分より遥かに大きな力を持った存在であると勘違いした。
事実としてはそれは間違ってはいないのだが、認識の違いという意味では間違いである。
咄嗟に言葉を紡げない男に、マコトは探るように繰り返した。
「えっと…お名前を聞いても?」
「あ、あぁすまない…私の名はクリストフ。帝国にて探索者をしている者だ。」
クリストフと名乗った男は必死に戸惑いを隠そうとする。
「クリストフさんですね。帝国の方ですか。宜しくお願いします。」
マコトは朗らかに微笑み、片手を差し出した。
帝国は王国の東に位置する大きな国だ。
以前は王国と戦争を繰り広げた事もあるが、ここ二十年程は友好的な関係を築いていた。
「宜しく頼む。」
クリストフも手を差し出し、二人は軽く握手した。
「それで、私に何か御用ですか?」
質問をしつつも、マコトはクリストフの用件に半ば気付いていた。
何故なら一ヶ月ほど前から、様々な人間から同じように話しかけられていた為だ。
「回りくどいのは互いの為にならんだろう。単刀直入に言うが、私と共に帝国に来ないか?」
クリストフは真剣な眼差しでマコトを見ている。
つまるところ、勧誘である。
この一ヶ月、噂を聞きつけた探索者や貴族等がこうしてギルドへ訪れていた。
新たな英傑を仲間、あるいは護衛として味方につけようという魂胆だ。
マコトは困ったような苦笑を返した。
「すみません。今のところ、ここを離れる予定はないんです。」
いずれは他の都市や迷宮にも行ってみたい気持ちはあるが、まずは王都の上級迷宮を踏破する事が、今のマコトの目標であった。
その上級迷宮も既に8割は探索し終えているのだが、完全に終わるにはあと一月はかかるだろうというのがマコトの考えである。
「そうか…やはり駄目か。これでも帝国では名の知れたクランの幹部なのだが。」
クランとは、ある程度実力を持った探索者達が集って作られた組織だ。
ギルドからクランとして認められるには、それ相応の実力や実績、名声が求められる。
そしてクランとして正式に認められた時、ギルドから様々な恩恵が受けられるのだ。
迷宮の情報を開示してもらえたり、報酬金が上乗せされたりする。
これはギルドが活躍を期待している探索者達への投資ともいえる。
そういった恩恵を受ける代わりに、クランはギルドの許可無しに他の街に移動したりはできないという縛りもあったりする。
「わざわざ来ていただいて申し訳ありませんが…。」
「いや、私が勝手に君に会いに来ただけだ。君が謝る必要はない。…だが、一つだけ頼みがある。」
「はい、何でしょうか?」
ここでもまた、マコトはクリストフの頼みとやらに目星がついていた。
同様の事態になるのは幾度かあった為である。
「それはーーー」
クリストフが口を開いたその瞬間、ギルドの扉が乱暴に開け放たれた。
「おい!ここにマコトとかいうガキはいるか!!」
乱雑な足取りでギルドへ入ってきて大声で怒鳴っているのは、金属の防具を身につけ背に斧を背負った探索者であった。
ギルド内にいた者達が不快そうに顔を顰める。
それに気付く様子もなく、男はキョロキョロと辺りを見渡している。
そしてマコトと話していたクリストフを見ると、ニヤリと笑って近寄った。
「お前がマコトとかいう野郎か?」
「だとしたら何だ?」
クリストフは冷たい眼差しを向けている。
それでも腰が引けた様子がないのは、度胸があるのか気付かないほど馬鹿なのか。
「へっ、こんな優男が化け物並みに強いだって?馬鹿馬鹿しい、そんな噂を間に受けてるんじゃ、王都の奴らも大した事ねぇな!!」
嘲るような言葉に周りの探索者達は激昂ーーーしない。
むしろ無知な男を蔑むように冷笑を浮かべている。
そして一際冷たい笑みを浮かべたクリストフが口を開いた。
「ここは君ごときが来るような所ではない。大人しく田舎へ帰り、農作業でもしていたまえ。」
クリストフの冷言を呆けて聞いていた男だが、徐々にその言葉を理解し、顔を怒りに赤く染めた。
「て、てめぇ!この俺様が誰だかわかってんのか!!俺様はガイル、豪腕の斧手と言われた英傑だぞ!!」
「知らんよ。悪いが動物には詳しくない。野猿と山猿の区別はつかんのだ。許せ。」
「この野郎、ぶっ殺してやる!!」
チンピラ丸出しの恫喝を上げて掴みかかろうとするが、それより早くクリストフが男の顔を鷲掴みにした。
「ショックウェーブ」
冷静に魔法を唱えると、男の身体が痙攣したように震え、次の瞬間には地に沈んでいた。
周りから小さな歓声が上がる。
ショックウェーブとは衝撃を波のように放って攻撃する魔法らしい。
言葉にするのは簡単だが、かなり強力な魔法だ。
鋼鉄の鎧を着ていても、それを無視して肉体に衝撃を放つ事ができる。
魔倣眼によって会得したマコトは、これは使えそうだとほくそ笑んだ。
そうとも知らずクリストフはマコトに振り返って口を開く。
「さて、これで邪魔者はいなくなった。改めて言おう。マコト、私と戦ってはくれまいか。」
ーーーあぁ、やっぱり。
それがマコトの、率直な感想であった。
決着は一瞬であった。
ギルドに併設されている訓練場にて、探索者達に囲まれてクリストフと対峙する。
審判を買って出たクレイグの掛け声で試合開始。
次の瞬間、クリストフの目の前にはマコトの姿があった。
歴戦の強者であるクリストフはすぐに対応しようとするが、あるかないかの一瞬の隙。
マコトはそれを見逃さない。
素早くパラライズとサンダーアローを放つ。
しかし特殊な魔道具を身につけているのか、パラライズは不発する。
更にサンダーアローをショックウェーブで迎撃する。
緻密な攻防であるが、全てはマコトの想定通りであった。
マコトが魔法に重ねるように剣を振るい、クリストフが咄嗟に下がろうとするが、それは不可能であった。
クリストフの足は、いつの間にか発動されていたクレイシャックルという魔法によって拘束されていたのだ。
それに気付いた時は既に手遅れであった。
「そこまで!この立ち会い、マコトの勝ちだ!」
マコトの剣はクリストフの首に添えられ、クレイグが判定を下した。
クリストフは悔しそうに、しかしどこか清々しい様子で肩を竦めた。
「……文句のしようもない。完敗だな。」
「いえ、これはただの作戦勝ちです。次があればどうなるかはわかりません。」
それはマコトの本心であったが、他ならぬクリストフが己の敗北を悟ってしまった。
ーーー次があったところで、果たしてまともに戦えるだろうか。
偽らざるクリストフの本音であった。
結果的にはマコトの圧勝ではあるが、目を見張る攻防が繰り広げられたのは見ている全員が理解していた。
再度握手を交わす両者に、誰ともなく万雷の拍手と歓声を送ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
エレンディア王国記
火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、
「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。
導かれるように辿り着いたのは、
魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。
王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り――
だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。
「なんとかなるさ。生きてればな」
手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。
教師として、王子として、そして何者かとして。
これは、“教える者”が世界を変えていく物語。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる