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色欲の王
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「………ん」
朝、目覚めた俺は、ガシガシと自分の頭を掻いた。
寝ぼけ眼で隣を見ると、シーツを胸元まで被った女が寝ていた。
俺はなんとなしに彼女の髪を触る。
触り慣れた赤茶色の髪。
あどけない表情は小柄な彼女らしいが、スタイルは意外にメリハリがついているのをよく知っている。
いつもなら髪を触ってる内に気分が乗って、起こして即座に抱くのだが、今日は何となくそんな気分にならなかった。
先程まで見ていた夢のせいだろうか。
抱かないのならわざわざ起こす必要もない、寝かせておいてやろう……と考え、ベッド横の窓から外を眺める。
見晴らしの良い景色。
真下には花が植えられた広い庭があり、遠くには人で賑わう町の様子が見えた。
ぼーっと外を眺めていると、扉が開く音が聞こえた。
振り向くと、長い黒髪の美女が入ってきて、優しく微笑んだ。
「おはようございます、アーシュさん。」
「……あぁ、おはよう、エマ。」
もう見慣れたはずのその姿に、今なお見惚れてしまう時がある。
彼女の美しさは、俺の女達の中でも一線を画していた。
「……どうかされましたか?」
俺の様子がどこかおかしいと思ったのか、エマは首を傾げた。
彼女は誰よりも俺をよく見ている。
俺の些細な変化に最初に気付くのは、いつだってエマだった。
「いや……ちょっと、懐かしい夢を見てな。」
「夢…ですか?」
「あぁ………エマと、初めて会った時期の事が、夢に出てきた。とても懐かしかったよ。」
「そうでしたか。………あれから、もう十年も経つんですね。」
「俺も今じゃ一流の冒険者だ。」
「一流という言葉ではとても足りないと思いますよ。時期冒険者ギルド総長様?」
「それは引退してからの話だろ。まだまだ先の話だし、そもそも可能性があるってだけだ。」
「アーシュさんは大陸中の全冒険者の憧れですよ。既にギルドの運営にも携わっておられますし、誰もが貴方の総長就任を望んでいます。」
「それでも今はまだ冒険者だ。」
「……相変わらず、妙なところで謙虚な方ですね。地位も名誉も全て手に入れたというのに。」
「まだまだこんなもんじゃ終われねぇよ。もっと稼ぎてぇし、もっと女が欲しい。」
「まだ増やすんですか?」
エマがジト目で見てくる。
「当たり前だろ。俺は色欲の王だぜ。とりあえず200は突破しねぇとな。」
「200って……もうすぐ達成じゃないですか。」
「最終目標は四桁だ。」
「………まぁ、アーシュさんらしいですね。」
呆れのこもった苦笑い。
そんな顔も綺麗だなぁちくしょう。
「………んぅ……もう朝ぁ…?」
エマと話していると、隣で寝ていたトアが目を擦りながら起き上がった。
「おはようトア。髪、乱れてるぞ。」
「おはよ、アーシュ君……うあ、ほんとだぁ。」
あちこち寝癖ではねてる頭を触って顔を顰めている。
「おはようございます、トアさん。」
「あ、おはよーエマさん。」
2人が微笑んで挨拶をした。
この2人は俺の女達の中でも1番の古株であり、特に仲が良い。
俺としても特に思い入れの深い2人であった。
「トアさん、今アーシュさんとお話ししてたんですけど、まだこれからも増やすおつもりだそうですよ?」
エマが悪戯っぽく笑ってそう言った。
「増やすって……そういう事?」
「はい、そういう事です。」
「ふーん…アーシュ君は相変わらずだなぁ。まだ足りないのぉ?」
トアがさっきのエマのようなジト目を向けてきた。
「まだまだ足りねぇに決まってんだろ?何人抱いても足りる事なんてねぇよ。」
「もぉ…そんな事言ってるから、一部の人からすっごい嫌われてるんだよ?」
「それ以上の敬意を集めてるから大丈夫だ。俺がこれまで冒険者としてどれだけの偉業を成してきたと思ってる。」
「それ、自分で言っちゃうの?」
「事実だからな。」
胸を張る。
溜息を零しながら、トアがしなだれかかってきた。
「はぁ……まったく、アーシュ君は……」
「ですねぇ……」
「何だよ、2人して。」
「別にぃ?」
「何でもありませんよ。」
トアはあからさまに口を尖らせて、エマはいつも通りの笑みに見えるが一言ありそうな雰囲気。
「………ふっ」
鈍感なふりでもしようかと思ったが、つい笑ってしまい始める前から失敗してしまった。
「何笑ってるのぉ?」
「いやいや、大した事じゃないんだ。ただ………」
自分でいうのもなんだが、珍しく普通に微笑みながら、俺は2人を見る。
「たとえどれだけ俺の女が増えようが、これからも絶対に幸せにしてやるさ。お前達は………俺の女だからな。」
「うっ………そ、そういうのダメ!禁止!」
「き、急に言われると……照れちゃいますね……」
2人が頬を赤く染めた。
十年経っても可愛いトアと綺麗なエマ。
昔は色んな事があったし、トアは相変わらずどこかぶっ壊れてるけど………俺自身、今が幸せだと胸を張って言える。
未だに新鮮に照れてくれる2人をもっとからかいたくなるのを我慢する。
今はまだ、2人の最愛を眺めていたかった。
数分後、扉をノックする音が響いた。
『アーシュ様、朝食の準備が整いました。』
「あぁ、わかった。すぐ行く。」
メイドの声に返事をする。
この屋敷には20人程のメイドがいる。
勿論全員が俺の女だ。
「トア、エマ、行こうか。」
2人を促しつつ立ち上がる。
「うん!行こ!」
「かしこまりました。…トアさん、先に服を着て下さいね。」
「あっ!」
2人は笑顔で返事をした。
エマに指摘されたトアが置いて行かれないようにと慌てて服を着る。
そんな彼女の様子をエマが微笑んで見守っていた。
その横顔にまた見惚れる。
彼女が俺の視線に気づいてこちらを見た。
俺が誤魔化すように曖昧に笑うと、エマはいつかのように、優しく笑い返してくれた。
俺は自分が正しい人間だなんて思っちゃいない。
金にがめついし、気に入った女は何をしてでも手に入れようとするし、気に入らねぇ奴は誰であってもぶっ飛ばすし。
かつて、俺の前に現れた邪悪な神の事を、今でもたまに思い返す。
あいつのお陰で俺の人生は変わった。
俺は己の欲を理解し、罪人である事を誇りにした。
きっとこれからも罪を重ね続けるのだろう。
この世に聖なる神がいるのならば、いつの日か罰せられる時がくるのかもしれない。
それでも。
それでも今は。
この幸せを手放したくはない。
自分勝手で薄汚い欲望の上に成り立つ傲慢な幸せを。
これからも作り上げていこう。
俺は魔の神に認められた罪人であり。
色欲の王なのだから。
朝、目覚めた俺は、ガシガシと自分の頭を掻いた。
寝ぼけ眼で隣を見ると、シーツを胸元まで被った女が寝ていた。
俺はなんとなしに彼女の髪を触る。
触り慣れた赤茶色の髪。
あどけない表情は小柄な彼女らしいが、スタイルは意外にメリハリがついているのをよく知っている。
いつもなら髪を触ってる内に気分が乗って、起こして即座に抱くのだが、今日は何となくそんな気分にならなかった。
先程まで見ていた夢のせいだろうか。
抱かないのならわざわざ起こす必要もない、寝かせておいてやろう……と考え、ベッド横の窓から外を眺める。
見晴らしの良い景色。
真下には花が植えられた広い庭があり、遠くには人で賑わう町の様子が見えた。
ぼーっと外を眺めていると、扉が開く音が聞こえた。
振り向くと、長い黒髪の美女が入ってきて、優しく微笑んだ。
「おはようございます、アーシュさん。」
「……あぁ、おはよう、エマ。」
もう見慣れたはずのその姿に、今なお見惚れてしまう時がある。
彼女の美しさは、俺の女達の中でも一線を画していた。
「……どうかされましたか?」
俺の様子がどこかおかしいと思ったのか、エマは首を傾げた。
彼女は誰よりも俺をよく見ている。
俺の些細な変化に最初に気付くのは、いつだってエマだった。
「いや……ちょっと、懐かしい夢を見てな。」
「夢…ですか?」
「あぁ………エマと、初めて会った時期の事が、夢に出てきた。とても懐かしかったよ。」
「そうでしたか。………あれから、もう十年も経つんですね。」
「俺も今じゃ一流の冒険者だ。」
「一流という言葉ではとても足りないと思いますよ。時期冒険者ギルド総長様?」
「それは引退してからの話だろ。まだまだ先の話だし、そもそも可能性があるってだけだ。」
「アーシュさんは大陸中の全冒険者の憧れですよ。既にギルドの運営にも携わっておられますし、誰もが貴方の総長就任を望んでいます。」
「それでも今はまだ冒険者だ。」
「……相変わらず、妙なところで謙虚な方ですね。地位も名誉も全て手に入れたというのに。」
「まだまだこんなもんじゃ終われねぇよ。もっと稼ぎてぇし、もっと女が欲しい。」
「まだ増やすんですか?」
エマがジト目で見てくる。
「当たり前だろ。俺は色欲の王だぜ。とりあえず200は突破しねぇとな。」
「200って……もうすぐ達成じゃないですか。」
「最終目標は四桁だ。」
「………まぁ、アーシュさんらしいですね。」
呆れのこもった苦笑い。
そんな顔も綺麗だなぁちくしょう。
「………んぅ……もう朝ぁ…?」
エマと話していると、隣で寝ていたトアが目を擦りながら起き上がった。
「おはようトア。髪、乱れてるぞ。」
「おはよ、アーシュ君……うあ、ほんとだぁ。」
あちこち寝癖ではねてる頭を触って顔を顰めている。
「おはようございます、トアさん。」
「あ、おはよーエマさん。」
2人が微笑んで挨拶をした。
この2人は俺の女達の中でも1番の古株であり、特に仲が良い。
俺としても特に思い入れの深い2人であった。
「トアさん、今アーシュさんとお話ししてたんですけど、まだこれからも増やすおつもりだそうですよ?」
エマが悪戯っぽく笑ってそう言った。
「増やすって……そういう事?」
「はい、そういう事です。」
「ふーん…アーシュ君は相変わらずだなぁ。まだ足りないのぉ?」
トアがさっきのエマのようなジト目を向けてきた。
「まだまだ足りねぇに決まってんだろ?何人抱いても足りる事なんてねぇよ。」
「もぉ…そんな事言ってるから、一部の人からすっごい嫌われてるんだよ?」
「それ以上の敬意を集めてるから大丈夫だ。俺がこれまで冒険者としてどれだけの偉業を成してきたと思ってる。」
「それ、自分で言っちゃうの?」
「事実だからな。」
胸を張る。
溜息を零しながら、トアがしなだれかかってきた。
「はぁ……まったく、アーシュ君は……」
「ですねぇ……」
「何だよ、2人して。」
「別にぃ?」
「何でもありませんよ。」
トアはあからさまに口を尖らせて、エマはいつも通りの笑みに見えるが一言ありそうな雰囲気。
「………ふっ」
鈍感なふりでもしようかと思ったが、つい笑ってしまい始める前から失敗してしまった。
「何笑ってるのぉ?」
「いやいや、大した事じゃないんだ。ただ………」
自分でいうのもなんだが、珍しく普通に微笑みながら、俺は2人を見る。
「たとえどれだけ俺の女が増えようが、これからも絶対に幸せにしてやるさ。お前達は………俺の女だからな。」
「うっ………そ、そういうのダメ!禁止!」
「き、急に言われると……照れちゃいますね……」
2人が頬を赤く染めた。
十年経っても可愛いトアと綺麗なエマ。
昔は色んな事があったし、トアは相変わらずどこかぶっ壊れてるけど………俺自身、今が幸せだと胸を張って言える。
未だに新鮮に照れてくれる2人をもっとからかいたくなるのを我慢する。
今はまだ、2人の最愛を眺めていたかった。
数分後、扉をノックする音が響いた。
『アーシュ様、朝食の準備が整いました。』
「あぁ、わかった。すぐ行く。」
メイドの声に返事をする。
この屋敷には20人程のメイドがいる。
勿論全員が俺の女だ。
「トア、エマ、行こうか。」
2人を促しつつ立ち上がる。
「うん!行こ!」
「かしこまりました。…トアさん、先に服を着て下さいね。」
「あっ!」
2人は笑顔で返事をした。
エマに指摘されたトアが置いて行かれないようにと慌てて服を着る。
そんな彼女の様子をエマが微笑んで見守っていた。
その横顔にまた見惚れる。
彼女が俺の視線に気づいてこちらを見た。
俺が誤魔化すように曖昧に笑うと、エマはいつかのように、優しく笑い返してくれた。
俺は自分が正しい人間だなんて思っちゃいない。
金にがめついし、気に入った女は何をしてでも手に入れようとするし、気に入らねぇ奴は誰であってもぶっ飛ばすし。
かつて、俺の前に現れた邪悪な神の事を、今でもたまに思い返す。
あいつのお陰で俺の人生は変わった。
俺は己の欲を理解し、罪人である事を誇りにした。
きっとこれからも罪を重ね続けるのだろう。
この世に聖なる神がいるのならば、いつの日か罰せられる時がくるのかもしれない。
それでも。
それでも今は。
この幸せを手放したくはない。
自分勝手で薄汚い欲望の上に成り立つ傲慢な幸せを。
これからも作り上げていこう。
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