逃亡姫とド一途王子

りがみ まる

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プロローグ

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最近、婚約者が冷たい。

メイドのサラが入れてくれた紅茶を一口飲んで、チラリと前を見る。

視線の先には1人の女子生徒と、彼女を取り巻きの複数の男子生徒がいる。その取り巻きの中に我が婚約者のアルフレッド皇太子殿下もいらっしゃる。

女子生徒がにこりと微笑むと、周りの男子生徒は顔を赤らめ目をうっとりとさせる。勿論、とは言いたくないが、アルフレッド様もそこに含まれる。

全く、失望したわ。

婚約者がほかの女に熱を上げてても傷つきなんてしない。ただ、未来の王があんな馬鹿な女に入れ込んでいると言う事実に失望しただけ。

だって政略結婚に愛も、恋も関係ないもの。

だから、アルフレッド様が私を愛していなくても、誰を好きでもいいのだけれど…。

どうやら近頃、市井では王子様が意地悪な婚約者、所謂悪役令嬢を断罪して真実の愛を見つける物語が流行しているらしい。

ーー困ったわね。

というのも、その物語悪役令嬢の状況が私が今置かれている状況に似ている。

婚約者がほかの女と親密になり、自分には冷たくなる。そしてそれに嫉妬した悪役令嬢が犯罪紛いの嫌がらせを仕掛けて、最後には良くて国外追放、最悪の場合処刑される。

まぁ、私は嫉妬なんてしていないから勿論嫌がらせなんてものもしていないのだけれど。

でも、このままいくとアルフレッド様が愛しているひとと一緒になりたいがために私に冤罪をかけて断罪する、なんてことが起こらないとは言いきれない。

未来の王がそんな馬鹿な真似をするとは思いたくないけれど、あんな馬鹿な女に入れ込んでいる時点でその可能性は排除しきれないわね。

恋は盲目とも言うし、もしかしたらあの女にあることないこと吹き込まれているかもしれない。

でも私だって冤罪で処刑される未来なんてごめんだわ。

そんな不穏な未来が少しでも顔を見せているのなら……この場所に、この国にいてやる義理なんてもう無いわね。

それに、この国の王妃教育は厳しいのよ。

それでも今まで必死に頑張ってきたのに。アルフレッド様と一緒にこの国を統べるために頑張ってきたのに。

馬鹿女に引っかかる男を支えるためにあんな辛くて厳しい王妃教育を受け続ける気も全くないわ。

残りの紅茶をグッと一口で飲み切ってカップをソーサーに戻す。そしてクルリと右斜め後ろに振り返り、サラの目を真っ直ぐに見つめ息を吸った。

「ねぇ、サラ」

「どう致しましたか、セレーネお嬢様」

「私、家出するわ」

「…………………はい?」






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