眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

文字の大きさ
44 / 166

護衛任務 ③

しおりを挟む
翌日は、昼までにv☆girlsのスタジオ兼マンションに到着できるように午前中から行動を開始した。

まずは、一人でヴァンパイアポリスに行き、遮光車両を借りる。それからアヤメを迎えに刑部家へ向かった。アヤメは日の当たらないガレージで準備を済ませ俺を待っていた。
俺を待っていたアヤメは、眠そうだ。しかも機嫌が悪い。

「なんだ。お前も護衛任務が気になって眠れなかったのか?」

「お前もって何よ!私は一宇と違って、たかがガキんちょのお守りに緊張なんかしないわよ。夕べは、お兄様から借りた「鬼島犯罪帳」を見てたからちょっと寝不足なだけ。」
そう言ってあくびをする。

緊張してやや寝不足気味の俺にまであくびが移る。

自動運転のお陰で、約束の時間より少し早くマンションに到着できた。地下の駐車場では女性のスタッフが俺とアヤメの到着を待っていた。

「ヴァンパイアポリスの護衛の方ですね。」
そう言って彼女はにこやかに俺たちを地下のスタジオに案内する。

スタジオでは、v☆girlsのメンバーがリーサルをしていた。
俺は昨日予習したメンバーの顔と名前を思い出しながら、一人一人を確認する。Tシャツのカラーがイメージカラーと同じだったので混乱することく、メンバーを頭の中ですり合わせることが出来た。

赤、青、ピンク、緑、紫。あれ?黄色がいない。黄色は、、、ユイだっけ?スタジオの中を確認したが黄色の彼女の姿はどこにもない。

スタジオの隅でリハーサルの様子を眺めていた、髭の男が俺たちと女性スタッフを見つけて近寄って来る。

「ヴァンパイアポリスの方ですね。初めまして、事務所社長の横山です。今日はよろしくお願いします。この子たちにとって、まさに今が正念場なんです。あんな脅迫状が来て、本来なら今回のイベントは中止にするべきなんですが、この子たちもこのイベントだけは絶対に成功させたいって。私も同じ気持ちです。ですが、心配なんです。」

これは、彼の本心だろう。アイドルの危険を顧みない儲け主義の社長と言うのは間違っていたのかもしれない。彼は本心から彼女たちを心配している善良な人物に見える。

「それより、護衛対象者は6人と伺ってたんですけど、ここには5人しかいませんが。」
アヤメも同じことに気づいていたようだ。

「そうなんです。ユイと言うダンスサーが昨日の練習でひどい捻挫をしてしまって。今日のイベントは欠席、、、。」
会話が途中で止まる。止まったまま、社長はアヤメの顔を見つめている。

「あの、なにか?」
アヤメが怪訝な顔をする。

「君、名前は?」

「刑部アヤメですけど。」

「いいね~。いいよ!アヤメさん。君、ダンスは踊れる?」

「はぁ?」

「今日のイベントに参加してみない?」

「私は、ヴァンパイアポリスで、今日私は、がきんちょの子守に来たんですけど!」

「こらっ。すみません。本日は、v☆girlsさんの警護に来たんだと言っています。」
俺が通訳する。

「ああ。それなら」
彼は何か思いついたらしく、手の平をポンと叩く。

「それなら、今日は舞台上の最前線でv☆girlsの警護してもらうというのはいかがでしょう?今日は、ユイがいないので彼女の衣装が余っていますから。」
そう言って女性スタッフに新曲の衣装を持ってこさせる。

「これが、今回のライブでファンの皆様にお披露目予定の衣装です。今回の新曲、MA・SA・MU・NEは春に公開の映画「斬!伊達政宗 押して参る」の主題歌に決まっています。ですから、このような戦国の武将の甲冑をイメージしたデザインなんですよ。」

甲冑デザイン?にしては露出が多いよな、、。

ん?アヤ、、メさん?なんだ。その目は!

アヤメの目がキラキラしている。

まさか、お前衣装に心が動たか?お前が好きなのは。平安泰平の江戸時代の時代劇だろ??

「たしかに、警護するなら対象者の近くにいた方がいいわよね。」

「アヤメ、舞台で警護はいいけど、お前ダンスなんかできるのか?」

昨日、ネットで見たv☆girlsのプロモーション映像で、彼女たちは動きの激しい速いテンポのダンスを披露していた。アヤメが戦闘の時のスピードに長けていることは認めるけど、ダンスにはリズム感やセンスも必要と思われ、、、。

「ちょっと、あなたたち。踊って見せてよ。」
アヤメが言う。

「じゃ、新曲のダンス。通しで見せてあげて。悪いけどレイはユイのパートで踊ってくれる?」
社長の一声で、彼女たちの顔が本気モードになる。

音楽が流れると、俺がプロモ映像で見たよりさらに激しいダンスが披露される、、、。

ダメだこりゃ。

曲が終わる。

「いかがですか?今回は曲に合わせてちょっとダンスが少し激しいんですよね。でも、振付師に頼んで簡単に変更することも可能です。」

この社長は、自分がどんな無理難題を言っているのか理解しているんだろうか?
本番が1週間後なら、もしかすることもあるかもしれない。でも、本番は今夜だぞ。絶対に無理。

「いいえ、もう結構です。」
そう言ってアヤメは彼女たちの中に入って行く。

社長はスタッフにもう一度、曲をかけるように指示する。

曲が始まる。

完コピ。できてる。アヤメはほかのメンバーに遅れることも、ダンスの輪を乱すこともなく、踊りをこなしている。
いや、へたするとダンサーの子よりうまい、かも。

曲が終わる、メンバーは口々に歓声をあげながらアヤメに近寄って行った。
モチロン横山社長も、その中にいてアヤメを笑顔で絶賛していた。

「それじゃ、イベントでは舞台の上から警護をしていただくということで。見たところ、あなたとユイは体形も同じくらいなので、衣装はそのまま着用できるでしょう。」

「アヤメってダンス踊れたんだ。」

「初めてよ。でも1回見たら、誰でも踊れるでしょ。」

いや、踊れないと思うぞ。俺自身は100回見ても無理だ。

「それじゃ、衣装に着替えてもう一度。あわせてみましょうか。」
彼女たちは衣装に着替えるために更衣室に向かう。もちろんアヤメも一緒だ。

俺は大事なことを思い出した。警護の打ち合わせのために早めにここに来たんじゃなかったっけ?

「あの、今日の警護の打ち合わせは?」

「いや、アヤメさんが彼女たちの中に入って、彼女たちを守ってくれるんですから、これでもう安心ですよ。」

そんなものなのか?俺は不安になる。むしろ逆じゃないないのか?
もし、本番中に何か起こった場合、彼女たちの安全に目を配り守るのは俺一人、、、。

よし、俺が彼女たちを守る!、、、、、、ムリだ。

ヴァンパイアポリスに連絡して応援を頼むべきか。
俺が悶々と己の非力を嘆いているうちに、彼女たちは着替えを終えて戻ってくる。

うわっ。目のやり場が、、。

実際に着用した甲冑風の衣装は俺の想像を軽く超えてセクシーだった。草摺くさずり風のスカートは短く胸板も通常の半分で切れていて、かろうじて胸が隠れている感じ。腕の三日月の飾りは政宗の兜のシンボルを模しているのだろうが、体を線を隠す役には全く立っていない。

まずい。俺はスマホを出し、半沢班長に電話を掛けた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

処理中です...