「忘れられない人」

愛理

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第10話「あなたが解らない」

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「陸人?」
  私は陸人に抱きしめられて驚いてすぐに陸人の名前を呼んだ。
  すると陸人はすぐに私を離して、
「ごめん」
  そう言った。
「何で陸人がここにいるの?」
  私がそう聞くと陸人は、
「この近くに友達が住んでて、昨日泊まらせてもらったんだ。で、今日、夕方から仕事があるから、今、家に帰るところだったんだけど、歩いてて、前を見たら、亜美に似てる人がいるなって思って、近くに来たら、本当に亜美だったから声かけたんだ」
  そう言った。
  その言葉に私は、その友達はもしかしたら、写真を撮られた彼女のことなのかもしれないと思った。
「そうなんだ」
「それより、亜美、このペアリング、捨てるなら、俺に返してくれる?」
  陸人はそう言いさっき自分が履いているジーンズのポケットにしまった私が川に捨てようとしていた私が陸人から貰ったペアリングを取り出して、私に見せながらそう言った。
「え?」
「いいだろ? どうせ要らないなら」
「でも、結局、捨てるんでしょ?」
「ううん、俺もまだ持ってるから、2つ並べてとっておくんだ」
「え?」
「俺と亜美の大切な思い出だから」
「何それ……もし、それを彼女が見たら怒るよ。私だったら前の彼女に1度はあげたペアリングを彼氏が持ってるなんて嫌だもん」
   私がそう言うと陸人は何故か一瞬、酷く辛そうな表情をした。
  だから、私はその後、言葉を続けることをためらった。
  すると陸人が、
「亜美との思い出は俺にとってはどんな人との思い出よりも特別なものだから」
  そう言った。
  その言葉に私は何それとまた言うつもりだった。
  だけど、私はまた陸人に強く抱きしめれてその後、言葉は発することができなかった。
  そして、陸人は私のことを暫くの間、抱きしめた後、
「じゃ、これ返してもらうね」
  そう言い陸人は私を抱きしめていた時には右手でぎゅっと握っていた私のペアリングをまた自分のジーンズのポケットにしまって、私のところから去っていった。
  何? 一体、何なの。
  陸人、何で彼女がいるくせに私を抱きしめたりするの?
  そして、何で私との思い出は誰よりも特別だなんて言うの?
  私、あなたの言葉と行動が本当によく解らないよ。
  私は陸人が去ってからも暫くその場を動けずにいて、そんなことを思っていた。
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