初めての本気

愛理

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第4話

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 有川さん以外の2人の女の子の鋭い視線に気づいた俺は少し怯んだ。
 今まで女の子に怯んだことなんてなかったけど何となくこの2人は独特のオーラを放っていて……少し俺の苦手なタイプだなと思ったから。
「あなた、長原礼央でしょ?」
 さなと呼ばれた女の子が言った。
 その女の子の名札をさり気なく見ると“上野”と書いてあった。
「そうだけど……何で俺の名前知ってんの?」
 俺は本当に疑問に思ったのですぐにこんな言葉が口から出た。
「だって有名だもん。彼女つくるくせに“誰にも本気にならない男”っていうので」
 上野さんがしれっとした顔で言った。
「それは……」
 そういえばこの間、菱川先生にもそんなこと言われたなとふと思い出した。
 あの時は俺のことそんな風に言ってる奴は誰だよって思ってたけど、今は“誰にも本気にならない”というのは確かに今までの彼女だった子に対してなら本当のことだと思った。
 勿論、付き合うからには好みの感じの子だったし一緒にいて、それなりに楽しかったりもしたけど。
 でも、心から好きだとか俺の方から会いたいとか言ったことは1度もなかった。
 そして、俺は今、それなら付き合ったりしちゃ駄目だったんだと思った。
 俺は告白されて付き合った子のことを好きになろうとかも思ったことはなかったから。
 でも、こんなことを今思うのは多分、俺が生まれて初めて人を好きになったから。
 そう、有川さんのことを好きになったから。
 そして、俺は人を好きになるということがどういうことなのかを今、やっと本当に解った気がした。
「多分、長原はさ今まで本当に好きになれるような子に出会わなかっただけなんだよ」
 山内が俺のことをフォローするようにそう言ってくれた。
 だけど、2人の表情は柔らかくはならない。
「……もしかして、長原くんは理菜のことを気に入ったの?」
 上野さんがさっきよりも低い声で言った。
「そうなんだよ。まあ、有川さんはさ純粋なタイプで……」
 と山内が言うと、
「冗談じゃないわ! 理菜は今時の子にしては珍しく純粋すぎる程、真っ白な子なんだからね! そんな女の子を泣かすようなタイプの人となんて理菜がつきあえるわけないじゃない! さっ、解ったら、もういいでしょ? 私達これからクッキーづくりするんだから、もう出ていってくれる? 勇也には後であげるから」
 上野さんがそう言い俺達は家庭科室から追い出された。
 そして、俺はこれが山内が言っていた有川さんの姉さん的存在の大きさの意味かと思って大きな溜息を吐いた。
 でも、俺は初めて好きになった有川さんのことはまだ諦めたくはなかった。 
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