深い青を愛してる

あおなゆみ

文字の大きさ
17 / 23

最初への結末

しおりを挟む
「どうしてここが分かったの?」

図書館で僕に声を掛けてきた元恋人に、僕は問いかける。

「一旦出よう。ゆっくり話したい」

元恋人はそう言うと、僕の手を掴んだ。

 その瞬間、すぐに彼女を思い出す。
具合の悪くなった僕の手を引いた彼女。
僕はこの図書館に通い続けているが、彼女は姿を見せなくなった。
最後の日の予感が当たってしまった。
もう一年経つだろうか。


 あの日彼女と座った図書館の外のベンチに、今は元恋人と座っている。

「それで、どうしてここが分かったの?」

怒っているつもりはなかったけれど、若干不機嫌になっているのは確かだ。
思いがけず秘密がバレた気分だったから。

「本棚には並ばない本。すぐに手の届く机の上だったり、ベッドの横のサイドテーブルに置いてあった本」

僕は黙っていた。
僕にとっての秘密は秘密ではなかった。
元恋人は僕の愛読書を知っていた。

「ごめん。日記じゃないし、読んでも良いと思って読んだの。でも多分、日記と同じくらいプライベートな部分だったんだね」

何も悪くないのに謝る元恋人が、僕の心を切なくさせた。

「プライベートって。付き合ってたんだから、プライベートな部分を知るのは当たり前じゃん」

空元気かもしれないが、暗い雰囲気にしたくなくて明るく言った。
そんな僕を、少し安心したような表情で見ながら、

「確かに、そうだけど...」

まだ申し訳なさそうにしている元恋人を見て、僕は思い出した。
こういう所を好きになったんだった、と。
思いやりがあり、優しい所。
でも逆に言うと、空気を読むのに必死で、人の機嫌に敏感なのだ。
よく怒ってた姿も思い出すけれど、その表現さえも、僕を気遣うが故のものだったと今なら分かる。
怒れるくらいなら平気って訳じゃない。
僕に怒ることで隠せる弱さがあった。
隠せる人ほど、脆い事もある。
 そして、もう一つ思い出す。
そういった周りの気持ちを気にし過ぎる様子が、あまりにも理解できて、自分を見ているようだったから、似た者同士寄り添い合いたいと思った事。
一緒に変わりたいと願ったのが始まりだったのだと。

「こんな事聞くのは変だけど...別れようって言われた時、本当はどう思った?」

思いがけない僕の質問に、少し顔が赤くなるのが分かる。
答えに困っているようだ。

「何にも囚われずに、本音で言って欲しい。多分、ある程度の事なら分かるくらい一緒にいたはずだよ。そして別れた後の時間でもっと、分かるようになった事もある」

スラスラと言葉の出る自分に驚く。
最近まともな会話をしていなくて、会話が恋しかったのか。
話さない事で、心で整理できた言葉が溜まっていたのだろうか。

「安心したの...」

小さな声で元恋人はそう言った。
本音はいつも小さな声だった。
そう気付く。

「ああ。こんな事言おうと思って来た訳じゃなかったのに...別れようって言われて、ホッとしたの、私。もう、好きなのかも分からなくなってたから」

「僕ら、少しはマシになったかな。本音を言う方法を知れたからさ」

「うん。マシになったと思うよ」

二人で笑い合った。
長く残っていた傷跡が本格的に薄くなったような気分だった。

「探してくれたのも、あっさり別れを受け入れた自分が気にかかったから?」

そんな僕の問いかけに、次は素早く答えが返ってきた。

「うん。よく分かったね。でも、自分のせいだと思いたくなくて、自分を楽にする為に会いに来たの」

堂々と言う姿は、どう考えても出会った頃の姿とは違った。
僕は、一緒に変わりたいと願った最初に、結末をつける事が出来そうだ。


「あともう一つ言おうと思ってた事があって。多分、知らないまま過ごしてると思ったから」

元恋人の次の発言は、僕をまた良い方に導いてくれるものだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...