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Episode14
知らない姿
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私にしたい話とはなんだろう。
ドキドキしていると野島さんが一枚の写真を見せてきた。
写真には私の後ろ姿が写っていた。
その先の空には虹がかかっていた。
「勝手に撮ってすみませんでした。実はこの写真が何年か振りに...心から撮りたいと思った写真だったんです。依子さんを呼び止めた後に撮ったんです。依子さんが、僕が呼び止めなかったら虹に気付けなかったって、言ってたから...撮りたい瞬間が分かったというか。話してもいいですか?」
「是非聞かせて下さい」
「写真ってなくてもいいものでもあると思うんです。今はすぐなんでも写真に撮るけど、それは自己表示というか、自分を見せる為。でも、そうじゃない写真を撮りたいんです。依子さんが写真を撮り始めた頃の僕を思い出させてくれました。普段気付かない、奇跡のような瞬間を撮りたいんです」
野島さんはゆっくりと言葉を選びながら話していた。
私の胸は熱くなる。
「私も。私もそんな曲を作りたいと思っています。最近気付いた事です」
しばらく沈黙が続いた。
次の言葉を探してもいたけれど、私は同じ想いを分かち合った事に喜びを感じていた。
沈黙を破ったのは野島さんだった。
「お願いがあります。この写真を沢山の人に見せたいんです。いいですか?」
「はい。嬉しいです。是非お願いします」
「ありがとうございます。あ、そうだ」
野島さんはカバンからアルバムを出し、
「これ見て下さい。路上ライブの写真です」
私にアルバムを差し出した。
港で二人組の少年がギターを弾き語っている写真や、今の私くらいの女の人が弾き語りをしている写真があった。
「あ、この人が最初だったんです」
と一枚の写真を指差した。
そこには、マイクを持ち、歌う、あの河村くんがいた。
「え?」
と驚きの声を出してしまった。
私の好きだった変わり者の河村くんだ。
「もしかして知り合いですか?」
「はい。ほとんど喋った事はないんですけど、同級生です」
「そうなんですか。彼、自分で曲作って歌っていて。本当に良い曲だったな。僕は凄く共感していました」
でも河村くんは歌が苦手だったはずだ。
「彼は恥ずかしがり屋で、演奏が終わってお辞儀をしてそそくさと帰るんです。僕がどうしても彼の事を撮りたくて、何度かお願いして承諾してくれた。色々話を聞いたら、初めは落語をしていたみたいで。おじいさんが病気で、元気づける為に色々な場所で練習して。ここで人気者になったらしいですよ」
私はふとある事を思い出した。
普段真面目に授業を受けていた河村くんが、イヤフォンで何かを聴きながら授業を受けていたのだ。
一番後ろの一番端の窓側の席で、彼は片耳にイヤフォンを入れ、何かを聞いていた。
私は気付いていたけれど、他の人は絶対に気付いていなかったはずだ。
あまりにも上手く隠しながら聞いていた。
その時私は河村くんの前の席だったので、プリントを後ろに回す時に見たのだ。
もしかしてあの時、落語を聞いていたのではないかと、確定はできないけれど思った。
「その後、マイケルジャクソンに憧れて歌を歌いたくて、自己流で曲を作るようになったらしいです。この写真にも写ってますけど、ラジカセを置いて。自分でピアノ演奏したものをテープに録音して流していました」
「ピアノ弾けたんですか?」
「弾いてはいたんですけど、ジャーンって和音を弾いてるだけでしたけど。それがしっとりとしていて良かったです。歌も上手いというよりは独特で。売れるんじゃないかと思ってました」
「彼が今どうしているか知ってますか?」
「高校卒業して...カナダだったかな?向こうの大学に行きました。日本は満喫したから違う国に行ってみたいって。やってみたい事は山ほどあるから音楽はもういいって。変わってますよね。この写真がラストライブ。いやー、本当に僕は感動しました」
「河村くんの歌、聴いてみたかったです」
すると野村さんが小さな声で歌った。
「ここは僕の世界 誰も怒らない 悲しみに泣かない それはただの理想 分かってる だけど生きる そして歌う」
この曲...
聞き覚えがあった。
誰も...泣かない...理想...そして歌う
私が良く聞いていた曲。
大好きな母が歌っていた曲。
「依子さん?」
私は涙を堪える事が出来なかった。
「それ、河村くんの歌ですか?」
「はい。そうです」
「出来れば、もう少し歌ってくれませんか?」
野島さんは低く響く声で、優しくその歌を歌ってくれた。
ドキドキしていると野島さんが一枚の写真を見せてきた。
写真には私の後ろ姿が写っていた。
その先の空には虹がかかっていた。
「勝手に撮ってすみませんでした。実はこの写真が何年か振りに...心から撮りたいと思った写真だったんです。依子さんを呼び止めた後に撮ったんです。依子さんが、僕が呼び止めなかったら虹に気付けなかったって、言ってたから...撮りたい瞬間が分かったというか。話してもいいですか?」
「是非聞かせて下さい」
「写真ってなくてもいいものでもあると思うんです。今はすぐなんでも写真に撮るけど、それは自己表示というか、自分を見せる為。でも、そうじゃない写真を撮りたいんです。依子さんが写真を撮り始めた頃の僕を思い出させてくれました。普段気付かない、奇跡のような瞬間を撮りたいんです」
野島さんはゆっくりと言葉を選びながら話していた。
私の胸は熱くなる。
「私も。私もそんな曲を作りたいと思っています。最近気付いた事です」
しばらく沈黙が続いた。
次の言葉を探してもいたけれど、私は同じ想いを分かち合った事に喜びを感じていた。
沈黙を破ったのは野島さんだった。
「お願いがあります。この写真を沢山の人に見せたいんです。いいですか?」
「はい。嬉しいです。是非お願いします」
「ありがとうございます。あ、そうだ」
野島さんはカバンからアルバムを出し、
「これ見て下さい。路上ライブの写真です」
私にアルバムを差し出した。
港で二人組の少年がギターを弾き語っている写真や、今の私くらいの女の人が弾き語りをしている写真があった。
「あ、この人が最初だったんです」
と一枚の写真を指差した。
そこには、マイクを持ち、歌う、あの河村くんがいた。
「え?」
と驚きの声を出してしまった。
私の好きだった変わり者の河村くんだ。
「もしかして知り合いですか?」
「はい。ほとんど喋った事はないんですけど、同級生です」
「そうなんですか。彼、自分で曲作って歌っていて。本当に良い曲だったな。僕は凄く共感していました」
でも河村くんは歌が苦手だったはずだ。
「彼は恥ずかしがり屋で、演奏が終わってお辞儀をしてそそくさと帰るんです。僕がどうしても彼の事を撮りたくて、何度かお願いして承諾してくれた。色々話を聞いたら、初めは落語をしていたみたいで。おじいさんが病気で、元気づける為に色々な場所で練習して。ここで人気者になったらしいですよ」
私はふとある事を思い出した。
普段真面目に授業を受けていた河村くんが、イヤフォンで何かを聴きながら授業を受けていたのだ。
一番後ろの一番端の窓側の席で、彼は片耳にイヤフォンを入れ、何かを聞いていた。
私は気付いていたけれど、他の人は絶対に気付いていなかったはずだ。
あまりにも上手く隠しながら聞いていた。
その時私は河村くんの前の席だったので、プリントを後ろに回す時に見たのだ。
もしかしてあの時、落語を聞いていたのではないかと、確定はできないけれど思った。
「その後、マイケルジャクソンに憧れて歌を歌いたくて、自己流で曲を作るようになったらしいです。この写真にも写ってますけど、ラジカセを置いて。自分でピアノ演奏したものをテープに録音して流していました」
「ピアノ弾けたんですか?」
「弾いてはいたんですけど、ジャーンって和音を弾いてるだけでしたけど。それがしっとりとしていて良かったです。歌も上手いというよりは独特で。売れるんじゃないかと思ってました」
「彼が今どうしているか知ってますか?」
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「河村くんの歌、聴いてみたかったです」
すると野村さんが小さな声で歌った。
「ここは僕の世界 誰も怒らない 悲しみに泣かない それはただの理想 分かってる だけど生きる そして歌う」
この曲...
聞き覚えがあった。
誰も...泣かない...理想...そして歌う
私が良く聞いていた曲。
大好きな母が歌っていた曲。
「依子さん?」
私は涙を堪える事が出来なかった。
「それ、河村くんの歌ですか?」
「はい。そうです」
「出来れば、もう少し歌ってくれませんか?」
野島さんは低く響く声で、優しくその歌を歌ってくれた。
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