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Episode13
期待
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野島さんと並び公園のベンチに座る。
ラッキーは遊び疲れ、眠っていた。
「急にお休みされたので、心配しました」
私は素直な気持ちを伝える。
「一言声を掛ければ良かったんですけど。すみません。早朝に思い立って、すぐに出掛けたんです」
どこに出掛けたのか、聞いていいのか分からなかった。
すると野島さんは遠慮気味な雰囲気で話し始めた。
「実は、写真を撮りに行っていたんです。北海道まで...」
「そうだったんですね。北海道ですか...実は、野島さんがいなくなった時に、吉岡さんに桜の写真を見せてもらいました。本当に綺麗でした。本当に好きです」
少しの沈黙。
”好き”と口にしたのはあまりにも久し振りだった。
野島さんに対しての”好き”ではなかったけれど、”好き”とういう単語を声に出した事に驚いた。
心臓の音が聞こえてきそうだった。
「ありがとうございます」
野島さんはいつもの優しい笑顔を見せる。
また沈黙。
でもラッキーがいるからなのか、気を遣うような沈黙ではない気もした。
それでも何か話したくて
「ラッキー、預かってるんですか?」
と聞いた。
「1ヶ月に一回、長めの散歩を僕が担当する事になって。あの日がきっかけで、映画館に来てくれるようになって。ラッキーのお陰なんで」
と、ラッキーの頭を撫でた。
ラッキーは目を覚まし、二人を交互に見てまた眠った。
「ギターですか?」
私の隣に置いてあったギターケースを見て言った。
「はい。少し音楽をやっていまして。と言っても趣味みたいな感じなんです。あ、野島さんは結構前からここに来てるんですか?」
「そうですね。学生の頃からここに住んでますから」
「この辺り、路上ライブをやっていたって聞いたんですけど知ってますか?」
「知ってますよ。よく聞いてました。依子さんもライブするんですか?是非、聞きたいです」
真っ直ぐな目で見られた。
「こ、今度...やってみようかなって思っています」
「是非誘って下さいね」
「はい。じゃあ、野島さんの写真も見せて下さいね」
野島さんはこっちに向き直って、真剣な顔になる。
「このあと時間ありますか?」
ある事を伝えると、
「写真、見て欲しいんです。ちょっとここで待ってて下さい。ラッキーを飼い主さんのもとに帰して、写真持ってすぐ来ます。すみません」
立ち上がり、ラッキーを起こして、走って公園を出て行った。
なんとも不思議な人だ。
静かだけど、急にタップダンスしてみたり、思い立って北海道に行ったり。
十分くらいして、野島さんが戻ってきた。
「お待たせしました」
大きなカバンを二つ持っていた。
「北海道で撮った写真、是非見て欲しくて」
と私に写真の束を渡した。
写真には北海道の広大な自然が映し出されていた。
山には雪が少し、積もっていた。
「向こうはもう本当に寒いです。これからどれだけ寒くなるんだろうって感じです」
写真を次々に見る。
どれも本当に綺麗だった。
一通り見て私は
「もっと見たいです。言葉に出来ないくらい感動してます」
と伝えた。
その通りだった。
好きな人の撮った写真だからじゃない。
それもあるのかもしれないけど、野島さんの写す世界は私の好きな世界だった。
野島さんはまた私に向き直って言った。
「依子さんにお話したい事があります」
「え?」
期待してはいけないのに、期待だけが溢れていく。
ラッキーは遊び疲れ、眠っていた。
「急にお休みされたので、心配しました」
私は素直な気持ちを伝える。
「一言声を掛ければ良かったんですけど。すみません。早朝に思い立って、すぐに出掛けたんです」
どこに出掛けたのか、聞いていいのか分からなかった。
すると野島さんは遠慮気味な雰囲気で話し始めた。
「実は、写真を撮りに行っていたんです。北海道まで...」
「そうだったんですね。北海道ですか...実は、野島さんがいなくなった時に、吉岡さんに桜の写真を見せてもらいました。本当に綺麗でした。本当に好きです」
少しの沈黙。
”好き”と口にしたのはあまりにも久し振りだった。
野島さんに対しての”好き”ではなかったけれど、”好き”とういう単語を声に出した事に驚いた。
心臓の音が聞こえてきそうだった。
「ありがとうございます」
野島さんはいつもの優しい笑顔を見せる。
また沈黙。
でもラッキーがいるからなのか、気を遣うような沈黙ではない気もした。
それでも何か話したくて
「ラッキー、預かってるんですか?」
と聞いた。
「1ヶ月に一回、長めの散歩を僕が担当する事になって。あの日がきっかけで、映画館に来てくれるようになって。ラッキーのお陰なんで」
と、ラッキーの頭を撫でた。
ラッキーは目を覚まし、二人を交互に見てまた眠った。
「ギターですか?」
私の隣に置いてあったギターケースを見て言った。
「はい。少し音楽をやっていまして。と言っても趣味みたいな感じなんです。あ、野島さんは結構前からここに来てるんですか?」
「そうですね。学生の頃からここに住んでますから」
「この辺り、路上ライブをやっていたって聞いたんですけど知ってますか?」
「知ってますよ。よく聞いてました。依子さんもライブするんですか?是非、聞きたいです」
真っ直ぐな目で見られた。
「こ、今度...やってみようかなって思っています」
「是非誘って下さいね」
「はい。じゃあ、野島さんの写真も見せて下さいね」
野島さんはこっちに向き直って、真剣な顔になる。
「このあと時間ありますか?」
ある事を伝えると、
「写真、見て欲しいんです。ちょっとここで待ってて下さい。ラッキーを飼い主さんのもとに帰して、写真持ってすぐ来ます。すみません」
立ち上がり、ラッキーを起こして、走って公園を出て行った。
なんとも不思議な人だ。
静かだけど、急にタップダンスしてみたり、思い立って北海道に行ったり。
十分くらいして、野島さんが戻ってきた。
「お待たせしました」
大きなカバンを二つ持っていた。
「北海道で撮った写真、是非見て欲しくて」
と私に写真の束を渡した。
写真には北海道の広大な自然が映し出されていた。
山には雪が少し、積もっていた。
「向こうはもう本当に寒いです。これからどれだけ寒くなるんだろうって感じです」
写真を次々に見る。
どれも本当に綺麗だった。
一通り見て私は
「もっと見たいです。言葉に出来ないくらい感動してます」
と伝えた。
その通りだった。
好きな人の撮った写真だからじゃない。
それもあるのかもしれないけど、野島さんの写す世界は私の好きな世界だった。
野島さんはまた私に向き直って言った。
「依子さんにお話したい事があります」
「え?」
期待してはいけないのに、期待だけが溢れていく。
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