先を越されたファーストキス

あおなゆみ

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涙目

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「お母さんが僕の唇を見て『具合が悪く見える色だ』って言ったのが始まりだった」

 少年の瞳が潤んだように見えたのは気のせいではないだろう。

「傷ついた?」と私がそれこそ、今にも泣き出しそうな弟をあやすように言った。でも少年は「いや、傷つかなかった」と返した。強がりではないようだった。

「自分にとっては見慣れた色だし、鏡を見ても普段通りの色だな……って感想だけ。それから少しして、母さんがリップをプレゼントしてきたんだ」

 淡々とした話し方だった。さっきの瞳は何だったのかと問いただしたくなったけれど、私はなんとなく分かってしまう。自分と全く違う少年のことなのに、違うからこそ、分かってしまったのだ。少年は母親に言われたことに泣きたくなったのではなくて、自分のことを話しているこの瞬間に泣きたくなったのだ。私は自分が思ったことをなんでも口にする分、思ったことを言えずに苦しんでいる人をすぐに見抜いた。そういう人が勇気を出して何かを話す時、必ずと言っていいほど涙目になる。その涙を私は嫌っていた。

「お母さんがきっかけだったの?」

 その涙を嫌いでも、私は少年の唇の真実を進めたかった。

「うん。でも、今みたいに目立つ赤じゃない。仄かに赤くなるくらいの、血色が良く見えるような色付きのリップクリームだった。ずっと僕を見てきたお母さんがそこまでするなら、素直に塗ろうと思ったし、気遣いだったのも分かる。母さんに言われなかったとしても、そのうちコンプレックスとして感じ始めていたと思うし不満はなかった。ただちょっと僕は唇に対して、他の男子よりも配慮が必要なだけだから」

 コンプレックスという単語から私は、隣に並んだ少年側ではない、少年からは見えない側の頬に数日前からあるニキビを意識した。十四歳の私は、その年頃に相応しくニキビに悩む少女でありながら、恐らくその年頃にしてはニキビに対して配慮が足りていない少女だった。何か対策を取ったとしても消えてくれないのがニキビだと思っていたし、実際にそういう場合も多いのだが、それにしても私は自分の肌にも配慮が足りない少女だったのだ。

「それで、素直にリップを塗って学校に通ったの?」

「うん。リップを貰ったのは中学に上がる前だった。中学からリップデビュー。つまりは、唇の色がその頃にはもうコンプレックスになり始めていた。本当にお母さんのせいじゃない。その年頃はコンプレックスをキャッチしやすいからね」

 そこで少年が中学生以上であることが確定した。自分より年上である可能性も出てきて、なぜか不安になっていた。
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