10 / 14
春の変化
しおりを挟む
春になり、雪で埋もれていた公園が姿を現す。隅にはまだ雪が残っていて、その雪には土が混ざっていた。それは春が来るたび目にする光景だったのに、その年に限って妙に際立って見えた。学校ではクラス替えをして、告白してくれた彼とは離れた。離れてしまった、という表現の方が気持ち的には正しいかもしれない。
私は変わらずクラスで浮いた存在だったが、前とは違う意味で浮いていた。不満、文句、疑問などを前みたいにストレートに言葉にすることはなくなって、ただの大人しい少女になったのだ。それは自らの意思でそうしていたし、私の精神状態は全てを吐き出すように発散していた時に比べると随分落ち着いていた。言葉がちゃんと自分の中に留まっていて、自分を大切にできている気がした。そして、留めることはストレスを溜める行為ではなく、むしろ自分の大切なものを奪われない感覚にも近かった。
他にも私は、仄かに色の付くリップクリームを塗って通学するようになった。それは、私なりの少年への憧れの象徴だった。少年が初恋の人だけに本当の唇を見せようとしているみたいに、私は沢山の本音を初恋の人に取っておこうと決めていた。そんな私の唇の変化に気付いた物好きな女子から、好きな人が出来たのかとしつこく訊かれた。でも残念ながらまだ私には好きな人がいなかった。多分、告白してくれた彼は「好きな人」ではないはずだった。「好きな人」ではないということにしたかった。本当の恋って何? と検索してしまいそうなほどの迷いようではあった(実際にしなかったのは、完全に消えることのないらしい検索履歴にそのワードが残るのがどうも恥ずかしかったからだ)。
いつものように、ラッシーの散歩に行ったある日の放課後。日の短い冬とは違い、春の夕方はしばらく続きそうな余裕があった。そんな余裕にかまけながら公園に近づいた時。公園から笑い声が聞こえてきた。私は同年代の騒がしさを感じて、そのまま引き返そうとした。
でも、そのタイミングでもう一度響いた声を聞いて、その声が男女二人から発せられたものだと分かる。複数人でふざけ合っているものではなく、親密で浮ついた何かがあったのだ。 思春期だから仕方がない、なんて言い訳はおかしいのだが、私はその姿を覗き見たくてどうしようもなかった。ラッシーは人がいても吠えるような犬ではなかったし、私が気配を消して静かに覗けば問題はなかった(覗き見るという行為自体に問題はあるだろうが)。忍び足で近づき、木の影からそっと顔を出した。
私は変わらずクラスで浮いた存在だったが、前とは違う意味で浮いていた。不満、文句、疑問などを前みたいにストレートに言葉にすることはなくなって、ただの大人しい少女になったのだ。それは自らの意思でそうしていたし、私の精神状態は全てを吐き出すように発散していた時に比べると随分落ち着いていた。言葉がちゃんと自分の中に留まっていて、自分を大切にできている気がした。そして、留めることはストレスを溜める行為ではなく、むしろ自分の大切なものを奪われない感覚にも近かった。
他にも私は、仄かに色の付くリップクリームを塗って通学するようになった。それは、私なりの少年への憧れの象徴だった。少年が初恋の人だけに本当の唇を見せようとしているみたいに、私は沢山の本音を初恋の人に取っておこうと決めていた。そんな私の唇の変化に気付いた物好きな女子から、好きな人が出来たのかとしつこく訊かれた。でも残念ながらまだ私には好きな人がいなかった。多分、告白してくれた彼は「好きな人」ではないはずだった。「好きな人」ではないということにしたかった。本当の恋って何? と検索してしまいそうなほどの迷いようではあった(実際にしなかったのは、完全に消えることのないらしい検索履歴にそのワードが残るのがどうも恥ずかしかったからだ)。
いつものように、ラッシーの散歩に行ったある日の放課後。日の短い冬とは違い、春の夕方はしばらく続きそうな余裕があった。そんな余裕にかまけながら公園に近づいた時。公園から笑い声が聞こえてきた。私は同年代の騒がしさを感じて、そのまま引き返そうとした。
でも、そのタイミングでもう一度響いた声を聞いて、その声が男女二人から発せられたものだと分かる。複数人でふざけ合っているものではなく、親密で浮ついた何かがあったのだ。 思春期だから仕方がない、なんて言い訳はおかしいのだが、私はその姿を覗き見たくてどうしようもなかった。ラッシーは人がいても吠えるような犬ではなかったし、私が気配を消して静かに覗けば問題はなかった(覗き見るという行為自体に問題はあるだろうが)。忍び足で近づき、木の影からそっと顔を出した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!
山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」
夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
貴方なんて大嫌い
ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と
いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている
それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる