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初恋に備えて
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散歩を終えて帰ったあと、今度はラッシーを置いて一人で家を出た。そして、家や学校から近い場所ではなく、少し離れたところにあるドラッグストアに向かった。そのドラッグストアでは、こっそり生理用のナプキンを買ったことがあったけれど、今回はこっそり買わなくてもいいものをこっそり買おうとしていた。店に着くと、ニキビ用塗り薬を初めて選んでみた。そして化粧品が売られているコーナーに行き、目的のものを探す。一箇所にまとめられているのかと思いきや、ブランド別になっていたりしてすぐには決められなかった。
私は、少年と同じ色の赤いリップを求めていたのだ。その行為が、どんな心境から来たものなのか自分でも理解できていない。でも、クラスメイトの男子に告白されたことにより、何かが変わったのは確かだった。いつかの初恋へ挑む姿勢とでも言うのだろうか。少年の純粋を私も感じてみたくなった。ニキビのない綺麗な肌になり、女の子らしくリップを塗り、準備万端で、心に余裕のある状態で初恋を迎えたかった。
私にとって(思ったことを口に出してしまう性格の悪い少女のくせに、実は妙に羞恥の気持ちが強い十四歳の多感な少女として)、リップを熟考するのは恥ずかしいことだった。それはまるでナプキンを買うことみたいに、誰からも関心を抱かれたくないことだった。とにかく構わないでほしかった。大人への階段を登っている過程を察されるのが嫌だった。気遣ってあげましょうね、というような気遣いも迷惑だった。できるだけ早くそのコーナーから去りたかったのだが、少年のような赤色、できれば同じ赤色を見つけるのにはそれなりの時間を要した。焦ると余計にうまく選べないのに、はやる気持ちは抑えようがない──そんな焦燥感の中で汗をかきながら、ついに私は赤色のリップを選んだのだった。
家に帰り自分の部屋に入ると、すぐにそのリップを塗ってみる。そして残念ながら、鏡の中の自分には違和感しかなかった。少年の方が余程、似合っている気がした。少年のリップにはちゃんとした意思と意味があるのに、私が塗ったリップは模倣でしかない。ただの真似事は、非常につまらないものだった。あの少年になる為のごっこ遊びでもしてしまったような、痛々しい気持ちにまでなってしまう。人生で初めてされたせっかくの告白の余韻は、どこかへ消えて取り戻せそうにもなかった。告白された出来事が夢のようだ──とさえ思えず、赤いリップを塗った意味不明な自分が部屋の中にいるだけだった。懸命に耐えて、一分も経たないうちにティッシュで拭いて本来の唇に戻す。落ち着くいつもの私を見つめる。普段通りに戻った見た目で、頬にあるニキビに薬を塗った。優しく、願いを込めるように塗り込む。唇は赤くなくて、代わりにニキビが赤かった。それでもその時の私には、ニキビよりも唇が目立って見えた。唇という存在だけを見つめてみた。
私はいつか、誰かとキスをするのだろうか……
飛躍した発想でそんなことまで考えてしまった。初恋への妄想は、その日の夜から多くの時間を占めるようになった。
私は、少年と同じ色の赤いリップを求めていたのだ。その行為が、どんな心境から来たものなのか自分でも理解できていない。でも、クラスメイトの男子に告白されたことにより、何かが変わったのは確かだった。いつかの初恋へ挑む姿勢とでも言うのだろうか。少年の純粋を私も感じてみたくなった。ニキビのない綺麗な肌になり、女の子らしくリップを塗り、準備万端で、心に余裕のある状態で初恋を迎えたかった。
私にとって(思ったことを口に出してしまう性格の悪い少女のくせに、実は妙に羞恥の気持ちが強い十四歳の多感な少女として)、リップを熟考するのは恥ずかしいことだった。それはまるでナプキンを買うことみたいに、誰からも関心を抱かれたくないことだった。とにかく構わないでほしかった。大人への階段を登っている過程を察されるのが嫌だった。気遣ってあげましょうね、というような気遣いも迷惑だった。できるだけ早くそのコーナーから去りたかったのだが、少年のような赤色、できれば同じ赤色を見つけるのにはそれなりの時間を要した。焦ると余計にうまく選べないのに、はやる気持ちは抑えようがない──そんな焦燥感の中で汗をかきながら、ついに私は赤色のリップを選んだのだった。
家に帰り自分の部屋に入ると、すぐにそのリップを塗ってみる。そして残念ながら、鏡の中の自分には違和感しかなかった。少年の方が余程、似合っている気がした。少年のリップにはちゃんとした意思と意味があるのに、私が塗ったリップは模倣でしかない。ただの真似事は、非常につまらないものだった。あの少年になる為のごっこ遊びでもしてしまったような、痛々しい気持ちにまでなってしまう。人生で初めてされたせっかくの告白の余韻は、どこかへ消えて取り戻せそうにもなかった。告白された出来事が夢のようだ──とさえ思えず、赤いリップを塗った意味不明な自分が部屋の中にいるだけだった。懸命に耐えて、一分も経たないうちにティッシュで拭いて本来の唇に戻す。落ち着くいつもの私を見つめる。普段通りに戻った見た目で、頬にあるニキビに薬を塗った。優しく、願いを込めるように塗り込む。唇は赤くなくて、代わりにニキビが赤かった。それでもその時の私には、ニキビよりも唇が目立って見えた。唇という存在だけを見つめてみた。
私はいつか、誰かとキスをするのだろうか……
飛躍した発想でそんなことまで考えてしまった。初恋への妄想は、その日の夜から多くの時間を占めるようになった。
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