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惜しい人
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「私を褒めるなんて変わってるね。クラスで浮いちゃうよ」
「浮いてみたいよ。俺は、全員に人気でいようとして疲れる。相手が望んでいそうなことしか言えないし、機嫌とってばっかり。本当に自分が嫌だ」
「私にストレス発散されてもね」
「ごめん。つい愚痴を……」
「まだ十四歳なのに、空気読んでばっかりで大変だね」
私はもっと空気を読むべき人間なのだろう。これまでの自分について考えようとしたけれど、怖くなってすぐにやめた。
「俺はまだ誕生日きてないから」と彼が言った。「まだ十三歳」
「私より年下なんだ」
「そう。俺の方が年下」
彼は楽しそうに笑っていた。知らないうちに私も笑っていた。同じ教室にいる彼が私よりあとに生まれたことを思うと、何だかとても可愛らしく思えたのだ。無意識に「可愛らしい」という表現と「可愛い」という表現の違いについて考えていると彼が言った。
「俺、ずっと好きだった」
二人共が笑顔を消す。彼は自分の意思で消し、私はどちらかと言うと消された気分だった。
「憧れに近いのかもしれないけど、好きだった。最近なんか変わった気がして、恋してるのかもって思い始めたらハラハラした。こういうことはちゃんと言おうと思って、そしたら偶然会えたから今しかない気がした。だから付き合うとか無理かな?」
告白されたのはもちろん人生で初めてだった。私は間違いなく、私よりあとに生まれた彼に好意を向けたくなってしまう。その感情は、私より先に生まれたのかあとに生まれたのか分からない、あの少年に対するものとは明らかに違った。ついさっきまで苦手だった彼のことを、彼が好意を向けてくれたからという理由で、慌てて好きになりたくなったのだ。私は私らしさが分からなくなる。何かに影響されたのだとしても、好意を向けたくなるこの気持ちこそストレートなものなのか。彼の気持ちに流されまいとする気持ちこそが私らしいストレートなものなのか——だから私は、沈黙を認めながらも妄想してみた。たとえば私が、本当の唇の色が分からないほどの赤いリップを塗っていたとして。目の前の彼にそれを見せたいと思うだろうか。それくらいの想いで彼を初恋にできるだろうか……
もしも恋をするのなら。あの少年の理想のように、もしくはそれよりもっと強い意思で求めなくてはならない気がした。私は少年の純粋に憧れていて、少年ほどに求める気持ちがない限り、初めての恋をすることができないだろうと。
「ごめん」
その三文字が想像以上に哀しく響いた。
「そっか。だよな。二人きりで話すのも今日が初めてなのに、こっちこそごめん。焦って情けないな」
「情けなくは……ないけど」
私にとって勇気のいる否定だった。傷ついてほしくないと思った。
「そういう発言が、前と違う気がするんだけど」
「前とか言ってるけど、私たちそんなに話したことないじゃん」
「クラス内で起きたことは大抵見てるし、あのストレートな物言いと比べたらさ」
その時、ラッシーがまた遠くに向かって吠えた。誰かいるのかと思ってもう一度見てみたけれど、何に向かって吠えたのか分からなかった。
「これからたくさん話してみて、付き合うか判断するのもダメ?」
彼はとても勇敢だった。諦めずにいてくれる。
「ごめん。ダメかも」
そう言いながらも、本当にダメなのか全く分かっていなかった。単に彼と向き合うことを恐れていただけかもしれない。十四歳の少女だった私は、妄想する恋と実際に行われる恋を一致させる勇気がなかったのだ。とにかく、その場から逃げ出したかった。
「散歩中断させてごめん。じゃあ、また」
彼が先に去ってくれた。
「じゃあね」
聞こえたのかは分からないけれど、私はその背中に別れを告げた。もしかすると、あの少年との別れの時より惜しかったかもしれない。だって彼は、私を恋愛対象として好きでいてくれた初めての人だったから。
「浮いてみたいよ。俺は、全員に人気でいようとして疲れる。相手が望んでいそうなことしか言えないし、機嫌とってばっかり。本当に自分が嫌だ」
「私にストレス発散されてもね」
「ごめん。つい愚痴を……」
「まだ十四歳なのに、空気読んでばっかりで大変だね」
私はもっと空気を読むべき人間なのだろう。これまでの自分について考えようとしたけれど、怖くなってすぐにやめた。
「俺はまだ誕生日きてないから」と彼が言った。「まだ十三歳」
「私より年下なんだ」
「そう。俺の方が年下」
彼は楽しそうに笑っていた。知らないうちに私も笑っていた。同じ教室にいる彼が私よりあとに生まれたことを思うと、何だかとても可愛らしく思えたのだ。無意識に「可愛らしい」という表現と「可愛い」という表現の違いについて考えていると彼が言った。
「俺、ずっと好きだった」
二人共が笑顔を消す。彼は自分の意思で消し、私はどちらかと言うと消された気分だった。
「憧れに近いのかもしれないけど、好きだった。最近なんか変わった気がして、恋してるのかもって思い始めたらハラハラした。こういうことはちゃんと言おうと思って、そしたら偶然会えたから今しかない気がした。だから付き合うとか無理かな?」
告白されたのはもちろん人生で初めてだった。私は間違いなく、私よりあとに生まれた彼に好意を向けたくなってしまう。その感情は、私より先に生まれたのかあとに生まれたのか分からない、あの少年に対するものとは明らかに違った。ついさっきまで苦手だった彼のことを、彼が好意を向けてくれたからという理由で、慌てて好きになりたくなったのだ。私は私らしさが分からなくなる。何かに影響されたのだとしても、好意を向けたくなるこの気持ちこそストレートなものなのか。彼の気持ちに流されまいとする気持ちこそが私らしいストレートなものなのか——だから私は、沈黙を認めながらも妄想してみた。たとえば私が、本当の唇の色が分からないほどの赤いリップを塗っていたとして。目の前の彼にそれを見せたいと思うだろうか。それくらいの想いで彼を初恋にできるだろうか……
もしも恋をするのなら。あの少年の理想のように、もしくはそれよりもっと強い意思で求めなくてはならない気がした。私は少年の純粋に憧れていて、少年ほどに求める気持ちがない限り、初めての恋をすることができないだろうと。
「ごめん」
その三文字が想像以上に哀しく響いた。
「そっか。だよな。二人きりで話すのも今日が初めてなのに、こっちこそごめん。焦って情けないな」
「情けなくは……ないけど」
私にとって勇気のいる否定だった。傷ついてほしくないと思った。
「そういう発言が、前と違う気がするんだけど」
「前とか言ってるけど、私たちそんなに話したことないじゃん」
「クラス内で起きたことは大抵見てるし、あのストレートな物言いと比べたらさ」
その時、ラッシーがまた遠くに向かって吠えた。誰かいるのかと思ってもう一度見てみたけれど、何に向かって吠えたのか分からなかった。
「これからたくさん話してみて、付き合うか判断するのもダメ?」
彼はとても勇敢だった。諦めずにいてくれる。
「ごめん。ダメかも」
そう言いながらも、本当にダメなのか全く分かっていなかった。単に彼と向き合うことを恐れていただけかもしれない。十四歳の少女だった私は、妄想する恋と実際に行われる恋を一致させる勇気がなかったのだ。とにかく、その場から逃げ出したかった。
「散歩中断させてごめん。じゃあ、また」
彼が先に去ってくれた。
「じゃあね」
聞こえたのかは分からないけれど、私はその背中に別れを告げた。もしかすると、あの少年との別れの時より惜しかったかもしれない。だって彼は、私を恋愛対象として好きでいてくれた初めての人だったから。
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