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クラスメイト
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その日以降も、変わらずにラッシーの散歩コースである公園に行った。そんな気はしていたが、少年が公園に現れることはなく、誰かが公園にいることもなかった。
季節は冬になり、公園は雪によって日に日に埋もれ、中に入ることもできなくなる。それでも公園の周りを通ることにより、少年との再会を期待していた。少年の純粋のことを思えば、そしてあの赤いリップを塗った唇を思えば、私は比較的穏やかでいられたのだ。
ある日の放課後。いつも通りラッシーの散歩をしていると、クラスメイトの男子に会った。それは少年との突然の出会いから続いた、特別な出来事だった。彼は私を認めると、片手を軽く上げて頭を軽く下げた。学校以外で会うのは初めてだったし、私たちにはその程度の挨拶の仕方がちょうど良かったのかもしれない。無視して通り過ぎるのも違うし、親しげに名前を呼び合う仲でもなかった。私は正直、彼のことはどちらかというと苦手で、あまり関わらないようにしていた。クラス内でいつも中心にいるタイプの彼も、私みたいな集団の輪を乱すような性格の悪い女子を苦手だと思っているはずだった。
「犬、飼ってるんだね。どっちかと言えば猫かと思った」
彼はラッシーを見下ろして、そう言った。なぜ猫かと思われたのかは謎のままだ。
「うん」
私はそれ以外に言うことがなかった。すると有り難いことに、ラッシーがさっさと先に行きたがり、それを言い訳にその場から去ろうとした。
「じゃあね」
彼の横を通り過ぎようとした時。
「あのさ」と言われ「なんか、最近変わった?」と彼は進もうとする私を止めた。すぐに立ち去れなかったことに私は少し不機嫌になった。
「変わったって何が?」
「いや、なんかさ。柔らかくなったっていうか? あんまり俺のこと、険しい目で見なくなったかなって」
「私、険しい目で見てた?」
「前は思いっきり」
険しい目で見ていたのは正しいけれど、それを本人に気づかれているとは思わなかった。
「別に変わってないよ」
そう言って一歩踏み出し、今度こそ去ろうとした。
「俺、最近ハラハラしてるんだ」
謎の発言に、止まるという選択をするしかなかった。
「どういう意味?」
「柔らかくなったかって訊いたのは、穏やかになったかって意味で。穏やかになるってことはさ……」
その時、何となく続きを言わないでほしいと思った。でも、私がそう思って言葉を遮ろうとするより先に彼は言った。
「恋でもしたのかと思って」
彼は今まで見たことのない感じの目で私を見た。頬も耳も赤くなっていた。寒さのせいにできないことは、私にも分かった。
「してないよ。穏やかにもなってないし」
少年との出会いによって穏やかになった心が、自分以外に伝わっているとは思わなかった。むしろ、伝わらないように努力していたくらいだ(特に両親の前では、急に穏やかで性格のいい娘になるのは気が引けたので、突然の変化を悟られないようにしていた)。
「本当に何もない? 心境の変化とか?」
「ないよ。性格悪いままだし。クラスでも学校でも孤立したままでしょ?」
ラッシーが、進もうとしていた方に向かって二度吠えた。何に向かって吠えたのかは分からなかった。
「性格悪くはないよ。いいとは言えないかもしれないけど……陰口ばっかり言ってる女子より相当マシだと思う」
彼はあの少年の次に私を褒めてくれた人だった。少年みたいに突然出会った人ではなく、そんなに話したことがないにしても、週に五日も顔を合わす人にそう評価されたことに驚いた。
季節は冬になり、公園は雪によって日に日に埋もれ、中に入ることもできなくなる。それでも公園の周りを通ることにより、少年との再会を期待していた。少年の純粋のことを思えば、そしてあの赤いリップを塗った唇を思えば、私は比較的穏やかでいられたのだ。
ある日の放課後。いつも通りラッシーの散歩をしていると、クラスメイトの男子に会った。それは少年との突然の出会いから続いた、特別な出来事だった。彼は私を認めると、片手を軽く上げて頭を軽く下げた。学校以外で会うのは初めてだったし、私たちにはその程度の挨拶の仕方がちょうど良かったのかもしれない。無視して通り過ぎるのも違うし、親しげに名前を呼び合う仲でもなかった。私は正直、彼のことはどちらかというと苦手で、あまり関わらないようにしていた。クラス内でいつも中心にいるタイプの彼も、私みたいな集団の輪を乱すような性格の悪い女子を苦手だと思っているはずだった。
「犬、飼ってるんだね。どっちかと言えば猫かと思った」
彼はラッシーを見下ろして、そう言った。なぜ猫かと思われたのかは謎のままだ。
「うん」
私はそれ以外に言うことがなかった。すると有り難いことに、ラッシーがさっさと先に行きたがり、それを言い訳にその場から去ろうとした。
「じゃあね」
彼の横を通り過ぎようとした時。
「あのさ」と言われ「なんか、最近変わった?」と彼は進もうとする私を止めた。すぐに立ち去れなかったことに私は少し不機嫌になった。
「変わったって何が?」
「いや、なんかさ。柔らかくなったっていうか? あんまり俺のこと、険しい目で見なくなったかなって」
「私、険しい目で見てた?」
「前は思いっきり」
険しい目で見ていたのは正しいけれど、それを本人に気づかれているとは思わなかった。
「別に変わってないよ」
そう言って一歩踏み出し、今度こそ去ろうとした。
「俺、最近ハラハラしてるんだ」
謎の発言に、止まるという選択をするしかなかった。
「どういう意味?」
「柔らかくなったかって訊いたのは、穏やかになったかって意味で。穏やかになるってことはさ……」
その時、何となく続きを言わないでほしいと思った。でも、私がそう思って言葉を遮ろうとするより先に彼は言った。
「恋でもしたのかと思って」
彼は今まで見たことのない感じの目で私を見た。頬も耳も赤くなっていた。寒さのせいにできないことは、私にも分かった。
「してないよ。穏やかにもなってないし」
少年との出会いによって穏やかになった心が、自分以外に伝わっているとは思わなかった。むしろ、伝わらないように努力していたくらいだ(特に両親の前では、急に穏やかで性格のいい娘になるのは気が引けたので、突然の変化を悟られないようにしていた)。
「本当に何もない? 心境の変化とか?」
「ないよ。性格悪いままだし。クラスでも学校でも孤立したままでしょ?」
ラッシーが、進もうとしていた方に向かって二度吠えた。何に向かって吠えたのかは分からなかった。
「性格悪くはないよ。いいとは言えないかもしれないけど……陰口ばっかり言ってる女子より相当マシだと思う」
彼はあの少年の次に私を褒めてくれた人だった。少年みたいに突然出会った人ではなく、そんなに話したことがないにしても、週に五日も顔を合わす人にそう評価されたことに驚いた。
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