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1.誘い
しおりを挟む「ふぁ~あ、ねみ~」
「うわ、でっかいあくび。お兄また夜更かししてたんでしょ~。全く、早く寝なよね~」
「いーや昨日はたまたま起きてただけだって。ソシャゲのイベントが昨日までだったんだよ。いやー昨日はたぎったねぇ」
「毎回毎回それだよね~。毎回って言ってる時点でたまたまとは言わないんですよ~。知ってましたか~?・・・・・・ふぁ~ぁ。あ、お兄のあくびがうつった」
今日も今日とて俺への文句を垂れる妹。通学路を歩く猫、ゴミ出しをする人、いつも通りの他愛のない話をしながら、変わり映えしない景色を歩いていく。
まぁ、強いて変わったことをいうなら最近肌寒くなってきたから制服を長袖に変えたくらい。
これからどんどん冷え込んでいくだろうと思うと今から寒気がしてくる。
はぁ、布団の暖かさが恋しい。3時間睡眠のthe・寝不足な俺にこの肌寒さは厳しいよ…。
それに、こんなぼけぼけの頭なら1限は子守唄にしかきこえないんだろうな…。
パッと赤信号が青に変わり、それまで止まっていた人達が一斉に動き出す。俺もその波に倣うように流れに沿って歩き出した。朝の街ゆく人々は誰も彼もが忙しそうにしている。
—————『やっと会えた』
突然ぞわり、と背中が粟立った。
次の瞬間、手首が強く後ろに引かれる。いきなり手を引かれたものだから少しバランスを崩し、よろけてしまう。
(うわっあぶねっ。こけるところだった。)
いきなり何事かと後ろを振り返ってみると真夜中の色をそのまま染み込ませたような黒いマントを着た謎の人物が俺の手をしっかりと掴んでいた。その手はどこが、温度がなく、まるで人形のようでとても不気味に思えた。
この時なんとなく、周囲のざわめきが遠のいた気がした。
『迎えにきたぞ、私の愛し子』
「は・・・?何?イトシゴ・・・?」
え、なんだ急に。••••••イトシゴ??何それ?っていうか誰だよこいつ。おんなやつ俺の知り合いにいたか?
顔はマントが邪魔で全然見えないし、誰か全く判断できない。私って言ってるけど女の子・・・ではないよな。声はどっちとでも取れるけど・・・。173㎝ある俺よりも背高いし、力も結構強いから男か?けど、背の高い女の子も居なくはないからな。
「えっと、もしかして俺の知り合い?それだったらごめんちょっと覚えてないんだけど・・・。っ・・・手痛いんで一旦手放してもらいたいんだけど」
『・・・そうか、お前は私のことを覚えてはいないのか・・・。まぁいいさ。覚えていなくとも、お前は私の元へ来る運命だなのだから』
「・・・あんたの元へ行く??まじで何言ってん——」
「お兄なにやってんの危ない!!!!!」
「え—————」
俺はこの時まで気づいていなかった。
さっきまで青だった信号が、いつの間にか赤に変わっていたことなど。
———夏海の叫びが聞こえた直後、身体中に激痛が走った。
そうして先程までどこか浮き立っていた意識が一気に引き戻される。
・・・・・・あれ、空が見える。しかもさっきまであんなに青々してたのに今は真っ赤だ。体も重いし・・・・・・指の一本すらぴくりとも動かせない。ジクジク体が痛んで肌がピリつく。
状況を整理しようにも頭の中がぐちゃぐちゃでしていて思考が上手く繋がらない。
その混乱の端に止まったトラックと、そこから慌てて降りてくる男の姿が見えた。
「おい!!あんた大丈夫か!なんで信号赤なのに歩道の真ん中に1人で突っ立ってんだ!!!危ねぇだろ!!」
俺の顔を覗き込こみ、顔を強張らせ焦った顔しているおっさん。
あ、もしかして俺・・・轢かれた、のか?
なんでって、そりゃ俺が歩道を渡ってる最中に変な黒マントのやつに手を掴まれたからであって・・・。誰だって呼び止められればその場で立ち止まるだろ。
それになんでか黒マントのやつから目が離せなくて・・・・・・だから車が来てるなんて気が付かなかったんだよ。
そうして状況整理と共に言い訳を心の中で述べていた俺は一つ、引っ掛かりを見つけた。
・・・・・・てかちょっと待て。今おっさん、俺が"1人で突っ立ってた"って言わなかったか・・・俺は1人じゃなかった。おっさん、あの黒マントのこと見えてなかったのか?
「お兄!!しっかりして!さっき救急車呼んだからすぐに来てくれるって!!」
「な・・・つ、み」
「何度も呼んでたのになんで道路のど真ん中でぼーっと立ってたのよ!!いくら寝不足だからって、危ないじゃん!」
夏海まで・・・・・・そんなわけないだろ。俺、黒マントのやつと話してたじゃんか。夏海は俺の隣を歩いてたんだから話してたことくらい分かるだろ?
俺と周りの記憶のズレに更に糸はもつれていく。
ふと、しゃがみ込んでいる夏海とおっさんの上から影が一つ現れる。
あ、黒マントのやつ。相変わらずマントのせいで顔が見えない。あんたのせいで俺、トラックに轢かれたんだぞ。普通ならもっと慌てるはずだろ、なんでそんなそぶりすらしてねぇんだよ。
至って平然とした態度で俺のことを見下ろしている黒マント野郎へのむかつきが止まらない。
俺は、あいつが引き留めたせいだと示すために鉛のように重い手を持ちあげ、奴を指差した。
「・・・・・・?お兄、何を指さしてるの・・・?そこに何かあるの・・・?」
——おいおい嘘だろ。夏海にはこいつが見えてない・・・・・・?というか隣のおっさんも不可解そうな顔をして俺の指さす先を見ている。こんなにすぐ近くにいるのに見えていないなんていよいよおかしい。
それに、今重大なことに気付いてしまった。俺が轢かれたということはつまり、その直前に俺の手を掴んでいたこいつも一緒に轢かれているのが普通であって。俺のように大怪我を負っているはずだ。
なのに、こいつは無傷どころかピンピンしてやがる。おかしい。おかしすぎる。こいつ、何者なんだ。
ズキズキ、グラグラする頭とこのあり得ない状況に全然理解が追いつかない。
そんな中、黒マントが不意に俺の方へ手を伸ばしてきた。
『ふふ。準備は整ったようだ。さぁ、私の元へおいで。今度はずっと私の側にいるんだ』
だから、こいつは側にいるだのおいでだのと何を言ってんだ。俺はお前なんか知らない。お前は誰なんだよ。
そんな問いを投げかけたところで声は形を成さないため、返答は返ってくるはずもなく。伸びてきた黒マントの手が触れるか触れないかと言う間際で俺の視界はぐにゃりと歪み、そのまま意識は暗闇の中へと沈んでいった——————
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