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キューの農地確保のために
しおりを挟む「リクさん、エルサちゃんに乗って行けば、大丈夫じゃない? クラウスさんと話をするにしても、何日もかかるものじゃないし……獅子亭でゆっくりしていられる時間も、あると思うわよ?」
「んー、そうかな?」
「そうね。明日出発するとして、エルサちゃんなら一日かからないでしょ? 到着した翌日話しをすればいいわ。そこからゆっくりしても……五日後、いえ、四日後までに帰ればいいんだから、余裕はあるわね」
確かに、その日程で考えると余裕はあるか……。
詰めれば、移動した日にクラウスさんと話しをする事もできるだろうし。
向こうの予定次第な部分もあるから、確定ではないけど。
獅子亭で、マックスさんやマリーさん達と話す余裕もありそうだし……うん、大丈夫そうだ。
「そうだね……わかった。一度ヘルサルに行って、クラウスさんと話をしてみるよ」
「ありがとう、助かるわ。……そうね、それなら、ハーロルトを行かせるのがいいかもしれないわね。何度かヘルサルにも行っているし、クラウスとも面識があるでしょう」
承諾して、頷いて見せると、姉さんはハーロルトさんを一緒に向かわせる事を思いついたようだ。
けど、ハーロルトさん……忙しそうなのに大丈夫なのかな?
「ハーロルトさん、大丈夫? 元々、農業関係の話だから、管轄違いっぽいし……忙しそうなのに……」
「ハーロルトは仕事をし過ぎなのよ。休暇代わりに丁度良いわ。それに、ハーロルトがいると、ヴェンツェルが書類仕事をしなくなるしね……」
「そうなんだ……」
ヴェンツェルさん、確かに書類仕事は苦手そうだし、実際そう言っていたような気もする。
ハーロルトさんに書類関係を押し付けて、自分は体を鍛えたり、兵士を鍛えたりしてるんだろう。
鍛えることはいい事だけど、この機会にヴェンツェルさんに書類仕事をさせようと、姉さんは考えてるらしい。
というか、ハーロルトさん……休暇代わりにヘルサルまでお遣いって、休めるのか少し心配だ。
「それじゃ、リク達はヘルサルへ行く事に決まりね。エフライムはその間に、私と一緒に文官達との会議よ。キューを重点的に増産する事を、説き伏せないといけないわ」
「はい、微力を尽くします!」
「頭の固い文官達だから、頑張らないとね。まぁ、これもいい経験か」
「そうですね。祖父からは、王都で色々な物を見聞きし、経験を積んで来いと言われておりますので」
「……多分それ、会議とかに参加という意味じゃないと思うけど……まぁいいわ。よろしくね」
俺達はヘルサルへ、姉さんとエフライムは会議でキューの増産の計画を考える事に、改めて決まった。
エフライムは、城での会議に参加という事で、若干顔が引き攣ってるような気もするけど、やる気は十分なようだ。
姉さんの言うように、クレメン子爵の言っていた経験と言うのは、会議とは違うと俺も思うけど、これもいい経験になるのは間違いないだろうね。
「さて、そろそろ夕食の準備も整った頃かしら? リクの部屋に移動ね」
「そうだね、エルサやユノがお腹を空かせてそうだし。それはいいけど、今日も陛下はこっちで食べるの?」
「何よ、いいじゃない。私の心休まる唯一の空間なんだから。リクがヘルサルに行くと、また心労を重ねる日々よ?」
「それは、言い過ぎなんじゃないかな……?」
姉さんが椅子から立ち上がり、皆で執務室を出ようとする。
俺がいる時は、毎日夕食を姉さんと一緒だけど、それでいいのか少し心配。
まぁ、姉さんやヒルダさんがそれでいいと言うのなら、いいのかな?
「……陛下とリクは、凄く親しいのだな。今まで見て来て……なんというか、女王陛下と英雄というよりも、姉弟のようにも見える……」
「あははは、そ、そうですね……」
俺と姉さんが執務室を先に出て、後ろを歩くエフライムとモニカさんが、何やら話しているのが聞こえた。
普通だったら、女王陛下とこんなに気安く会話しないか。
というかエフライム、鋭いね……俺と姉さんの会話を聞いて、姉弟のようだと感じるとは。
呼び方は気を付けてるけど、お互いの話し方が、以前の感覚に近いからかもね。
実際に姉弟だったしなぁ……。
「美味しいのだわ……けど……だわぁ」
部屋に戻り、夕食を頂いてるけど、何やらエルサはいつもより元気がない。
昨日までと同じように、キューを積んであるお皿に向かって、両手に持ちながら齧ってるんだけど……。
「どうした、エルサ? いつもより食べる勢いがないじゃないか。食べすぎて飽きたのか?」
「キューに飽きるなんて、世界が終わってもあり得ないのだわ。でも、キューが……キューがなくなってしまうかもしれないのだわ」
「いや、なくなったりはしないんだけど……」
後ろ足で立ち、前足(手?)でキューを持ちながらだが、俺の方へ顔を向けながら、キューがなくなると嘆いている。
心なしか、眼も潤んでいるような気がしないでもない。
「ちょっとりっくん……やり過ぎたのかもしれないわよ?」
「……そうだね。何の情報も与えないようにして、暴走を防いでたつもりだけど……ここまで落ち込むなんて」
「エルサちゃんは、キューが不足し始めて、このままじゃ食べられる量が少なくなるとまでしか、言ってないんでしょ?」
「うん。考え過ぎて、キューそのものがなくなるとまで考えてるみたいだ……」
元気のない様子を見せるエルサに、心配した姉さんが俺にこっそり耳打ちして来た。
昨日のように、急に大きくなろうとしたりさせないために、キューに関する事をエルサには知られないようにしてたけど……ちょっと失敗したかな?
他の皆はコソコソ話してるのはわかっても、内容は聞こえないような声量で話してる俺と姉さん。
だけど、いつものエルサだったら、それでもしっかり聞き届けて反応するはずなのに……よっぽどキューの事が気がかりで、そっちに意識が向かないんだな……。
「仕方ない、食後に話そうと思ってたけど、今のうちに話しておくか」
「そうね。もったいぶる事でもないし、今のうちに話して元気になってもらわないとね」
姉さんと視線を交わし、頷きあう。
食後の落ち着いた頃に、皆に話して明日ヘルサルへ向かう事を伝えようと考えてたけど、今のうちに伝える事に決めた。
元気のないエルサは、見てて心配になるからね。
「えっと、皆……それとエルサ?」
「なんだ、リク?」
「どうしたの?」
「どうしたのですか、リク様?」
「……なんなのだわ? 今はキューの事が大事なのだわ……」
「そのキューに関する事なんだけどな?」
「キューがついになくなってしまうのだわ!?」
「いやいや、そんな事はないから、落ち着けエルサ」
俺が食事をする手を止めて、皆に話し掛けると、ソフィーやフィリーナ、レナが声を出し、他の皆は視線だけを向けて来た。
モニカさんとエフライムは、さっきまで相談して内容を知ってるから、特に大きな反応はない。
問題はエルサだな……キューの事で頭がいっぱいで、しかも悲観的な思考になってるから、キューがなくなるとか、そういう話だと勘違いしてる。
俺は、キューがなくなったりはしないと、エルサを落ち着かせつつ、話を始めた。
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