735 / 1,798
エルサに乗っての追跡
しおりを挟む「リクさん、下にヴェンツェルさんが!」
しばらく空を移動していると、地上では馬を走らせる一団……先頭にひと際目立つ、鎧が窮屈に感じるくらいの大柄な人物が見えるから、モニカさんの言う通り、ヴェンツェルさんで間違いないだろう。
その後ろには、二十人程の騎兵がいる。
「そうみたいだね……うーん、何か言っておいた方がいいかもしれないけど……」
「向こうもこちらを発見したみたいね。馬で走りながら、剣を振り上げて合図しているわ」
「何を言っているのかはわからないけど、気にせず先に行け……と伝えたい、のかな?」
「どうするのだわ?」
「時間がもったいないから、このまま先を急ごう。ヴェンツェルさんも、後で来てくれるだろうから!」
「わかったのだわー」
ヴェンツェルさん達より少し前を飛ぶようにしながら、一度離しておくか迷っていると、地上で大きな剣を振り上げて合図を送っているのが見えた。
打ち合わせも何もしていないから、何が言いたいのかわからないけど、なんとなく剣で先を指しているように見えるので、先に行けと言っているんだと解釈。
エルサに指示して、ヴェンツェルさん達を置いて逃げた相手を追う事にした。
詳しい話は、捕まえてから合流した後で大丈夫だろうからね。
「うーん……随分来たはずだけど……いないなぁ」
「そうね……逃げてから時間が経っていると言っても、馬だからそろそろ追いついてもいいはずよね」
「エルサ、周囲に誰か隠れてたりしないか?」
「さすがにわからないのだわー。飛んでいる時用の結界に隙間を開けるから、リクが調べるのだわー」
「わかった」
ヴェンツェルさんを追い越して、さらにしばらく移動……基本的に平野だから、馬に乗っていても邪魔さずに走れるから、それなりの距離を移動しているんだろうけど、それでも街道のように整備すらされていないから、速度は出ないだろうし……。
それに、さっき川を横切ったから、それを渡るのにも時間がかかるはずだ……見逃したりしないように、エルサの速度は遅めで飛んでもらってはいるんだけど、それでもそろそろ追いついていい頃だと思うんだけどなぁ。
飛んでいるエルサには、さすがに地上の人を探すのは難しいようなので、開けてもらった結界の隙間から魔力を使って探知魔法を使う事にした。
「うーん……魔物なら、多少いるけど……人間は……あ、いた!」
「見つけたのね?」
「うん……でも、逃げたのは一人って聞いていたのに、二人いるんだ。それぞれ馬で移動しているみたい」
「二人? もしかしたら別人かもしれないわね……」
「とにかく、近くに行って聞いてみよう。もし違っても、誰かがこの辺を通っていたかわかるかもしれないから。エルサ、あの木が幾つかある方向だ!」
「わかったのだわー」
移動しながらの探知魔法は、少し難しかった……というより、移動の速度に魔力反応が追いついていない部分もあって、後ろの方はよくわからない。
広げた魔力は素早く広げられるんだけど、戻って来るのに時間がかかるみたいだね……範囲が広がったせいもあるかもしれない。
ただ、その分進行方向や左右からの反応はちゃんと返って来るし、全方位の情報じゃない分遠い所まで調べられるみたいだ。
全方位に広げるんじゃなくて、調べたい方向を集中すれば、情報を制限できて遠くまで調べられるの字か……という探知魔法の使い方は後で考えるとして、移動していた方向とは別の方角で、二人の馬に乗って移動している人間の反応を見つけた。
逃げたのは一人だから、別人の可能性が高いけど、とりあえず誰かこちらの方向へ来ていないか聞くのも手だと思って、そちらの方向へエルサを誘導。
すぐに方向転換をしたエルサが、走っている馬を見つけて追い越した。
「……っ! ……っ!」
「何か言っているように見えるけど、どうしたんだろう?」
「エルサちゃんを見て、驚いているんでしょうね」
「どうするのだわ?」
「ちょっと荒いやり方かもしれないけど、馬の行く手を塞ぐようにして、降りて……おや?」
「~!」
「魔法……? 攻撃してきたわ!」
街道のない道を走る馬を追い抜き、少し行った所で方向を変えて振り向くエルサ。
二頭の馬にそれぞれ乗っている人達のうち片方が、こちらを指さして何かを叫んでいる様子に見えて首を傾げる。
モニカさんがエルサを見てと言っているけど、確かに巨大なドラゴンが急に現れたら驚くのも無理はないか……というより、追い越すだけじゃなくて方向まで変えて完全に自分達を補足しているように見えるんだから、焦るのも当然だろうね。
こちらは攻撃する意思はないし、話を聞きたいだけですから大丈夫ですよーと考えるだけで、言葉にはしないのは、距離が離れているし結界があるから向こうには聞こえないだろうから……実際に向こうが叫んでいる様子はわかっても、声はこちらに聞こえてないから。
とりあえず、話を聞くために地上に降りてもらうよう、エルサに頼んでいる途中で、叫んでいたのとは別の人がこちらへ手をかざして何やら魔法を使った。
モニカさんが叫んだ瞬間、エルサが張っていた結界に当たる攻撃魔法……光る矢のようなものが、結界に阻まれてこちらに届く前に、跡形もなく消えた。
まぁ、あれくらいならエルサの結界を貫くなんてできないだろうから、大丈夫かな。
「……あの二人が逃げたっていう」
「うーん……確かに片方は鎧を着ているけど、どうだろう? 逃げたのは一人って言ってたし……エルサを見て驚いたから、思わず攻撃をして来たのかもしれない。攻撃してないもう一人は、魔力がツヴァイに近いくらいあるようだから、一応注意しておこう」
「そうね。無関係だとしても、一応油断はしないようにしておくわ」
「降りるのだわー」
「あぁ、お願いするよ、エルサ」
「~! ~!」
探知魔法を使ったからわかるんだけど、片方の馬に乗った人間……鎧を着ている方は、可視化されてはいないけど魔力がツヴァイに近いくらい多く持っているように感じられた。
もう片方の、魔法を放って来た方は特にそういう事はないんだけど……遠目からは、軽装に見えるけど旅慣れている服装で、単なる旅人のようにも見えるくらいかな……多分、両方男性だ。
モニカさんと相談して、無関係でも警戒している相手だからこちらも注意する事にして、エルサに地上へと降りてもらう。
その間にも、続けて魔法が放たれては結界に阻まれて消える、というのを繰り返していた。
……魔力量の多い人が魔法を使った方が、効果的だと思うんだけど、どうして使わないんだろう?
いや、結界を越えて攻撃して欲しいとか、そういう事じゃないんだけど……大体攻撃する際には、魔力が大きい人が強い魔法を使った方が効果的だと思うんだけどなぁ。
なんて考えつつ、視界の端で結界に阻まれる魔法を見ながら、モニカさんと一緒にエルサから降りる。
「な、なんなのだお前達は!」
「お、お前はっ!?」
「えっと……ちょっと話を聞きたいんですけど……?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,112
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる