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筋肉を見せ合う中で続く会議

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 クラウスさんとトニさんは、毒を仕込んだ人間の事は把握しているけど、さすがに他の街や地域でもいるとは知らなかったみたいだ……まぁ、あくまでヘルサルの代官だからそこは仕方ない。
 元ギルドマスターは、今はもう退職しているけどギルドとの繋がりは残っているし、今までギルドマスターをしていただけはあって、色々と頼りになると思った。
 マックスさんは獅子亭をあまり離れられないし、自由に動ける人としてヤンさんと話し合うにはちょうどいい。

「……俺やマリーも話を聞くようにしたのは、何故だ? 俺達は元冒険者だが、さすがに街の治安維持まではできないぞ?」
「マックスさんとマリーさんには、単純に注意喚起ですね。もしかしたら、お客さんの中にいるかもしれませんし、何か悪い事を企んで獅子亭に来るかもしれません。まぁ、マックスさん達だけじゃなくて、ルギネさん達もいるので、大事にはあまりならないでしょうけど」
「そうねぇ……でも、新しく働き始めた人達もいるから、その人達は冒険者でもないし……ルギネちゃん達に、頑張ってもらうしかないわね」
「まぁ、俺とマリーがいればとも思うが、最近は忙しくて目が届かない事もあるからな」
「それであれば、私も一肌脱ぎましょう……いえ、人肌どころか筋肉を晒しましょう! ルギネ達を鍛え直すのにも、張り合いが出ますな!」
「いや、さすがに筋肉は晒さなくても……」
「ふむ、俺と元ギルドマスターの筋肉、どちらが鍛えられた物かの勝負だな!」
「はぁ……こうなったらもう、あの人達の事は無視して、こちらはこちらで話しておきましょう」

 マックスさん達には、獅子亭があるから治安活動はできないだろうというのはわかっていたけど、獅子亭で暴れる人とかが出たらいけないからね。
 念のために注意喚起として話に参加してもらっていた。
 事情を知れば、マックスさんやマリーさんならそれなりに対応してくれるだろうし、働いている人達やお客さんに被害が出ないよう動いてくれるだろうから。
 でも、元ギルドマスターと盛り上がってお互いに筋肉を見せ合う展開になるとは、思わなかったけど……マリーさんが溜め息を吐いて、放っておくと決めたようなので、話を進めよう――。


「ふんっ! ふぅっ!」
「ふぬっ! ふぁっ!」
「えーと、つまりそういう事で……待ちの人達が無事に過ごせるよう。それと、何か気付いた事があれば王都に報告してもらえればと思います。連絡を取り合うのも時間がかかるでしょうけど……。俺達はエルフの集落へ行った後、一度この街に戻ってきますので、何かわかった事があればその時に」
「はい、畏まりました。王都とも連絡を取り合い、事態把握に努めます。同時に、街の治安も守り人々が安心して暮らせるよう勤めせて頂きます」
「私も了解したわ。って言っても、私達はただ獅子亭を開くだけで、やる事は多くないんだけど……それでも、目を光らせておくわね」
「はい、ありがとうございます」

 俺の後ろで、マックスさんと元ギルドマスターが、筋肉を誇示するようなポーズを決めているという、異様な空気に包まれながらも、話を進めて大まかな事を決めていく。
 とりあえず、現状でわかっている事が少ないので、クラウスさんは治安維持に努める事。
 冒険者ギルドにも依頼する事で、冒険者への仕事を確保するのと、衛兵と連携してもらって街中での怪しい人物を捜索するとも言ってくれた。
 広く多くの人達が協力してくれれば、犯罪を未然に防ぐ効果も期待できそうだし、何かの情報を得られるかもしれないから、期待だね。

 マリーさんは、時折マックスさんの方を睨みながらも、獅子亭を守る事、お客さんの中で怪しい行動や問題を起こさないよう、見てくれると約束。
 小さい事でも、ふとした時に情報を漏らす事もあるので、こちらも期待。
 というより、実は街中で衛兵さんや冒険者の人が調べるよりも、獅子亭に期待していたりもする……クラウスさん達には言えないけどね。
 人間……ツヴァイがエルフだったから、人間だけとは限らないけど、美味しい料理を食べている時に、油断をするのは生き物ならよくある事だから。

 緊張した状態の衛兵さん達の近くより、こういった食べ物屋とか酒場などの方が、油断してポロっと何かを漏らす可能性が高いとみている。
 特に、ツヴァイのいた組織関係だと、国や冒険者は警戒しているのに、なんでもない一般の人に対しては警戒が緩いような気がするから……全ての人を警戒して、全てを避ける事はできないとも思うし。
 アメリさんが偶然研究施設を見つけた時も、何かを調べようとしていたわけじゃないからね。

「トニ、これはリク様から直々の指名。優先度は高いな?」
「いえ、既に衛兵達が動いております。クラウス様は上がってくる報告と、冒険者ギルドとの折衝などをなさればよろしいので、すぐに取り掛かる事はないかと」
「……むぅ」
「あはは。まぁ、無理せずできる範囲でお願いします」

 俺からの頼み事だと、意気込んだクラウスさんがトニさんに言うが、それとなく却下されてしまう。
 まぁ、クラウスさんが直に街中を見て回るとかではなく、上に立って指揮する側なのだから、それもとうぜんだろうね。
 不満そうなクラウスさんには、他の事を疎かにしない範囲でお願いしておく事にした。
 それでも、エルフの集落から戻って来るまでには、何か情報を掴んでおくと息巻いていたけど……無理をしないかちょっと心配だ。
 ……トニさんがいてくれるから、多分大丈夫だろうけど。


「それじゃ、マックスさん、マリーさん」
「行って来るわね、父さん、母さん」
「おう。まぁ、ここ数日散々手伝わせておいてなんだが、こちらの事は任せておけ。ならず者が来たとしても、つまみ出してやるさ」
「ルギネちゃん達もいるし、何も心配いらないわよ。モニカも、リクと一緒なら何も心配する事はなさそうだけど、一応気を付けて」

 クラウスさん達との話が終わり、元ギルドマスターも含めて見送った後、俺達もエルフの集落へ行くためにマックスさん達へ挨拶だ。
 以前は街の外まで見送りに来てくれたりもしたけど、準備があるし忙しくなっているから、店の前で済ませる……まぁ、王都に戻る前に寄るからってのもあるかもね。
 俺とモニカさんがマックスさんとマリーさんに挨拶をして、続いてソフィーやフィネさん達も挨拶。
 その間に、俺はルディさんやカテリーネさん、ルギネさん達とも挨拶をしておく。

「……無事に、戻って来るんだぞ。それと、獅子亭の事は私が見ておくから、心配するな」
「素直じゃないわねぇ? でも、ルギネや私達よりも、マックスさんやマリーさん達の方が頼りになるのよねぇ。元々、私達より実力が上だし」
「くっ……」
「ルギネお姉さまがこう言っているんだから、さっさと行きなさい!」
「……エルフ、珍しいお肉があればお土産期待」
「あははは、まぁ、マックスさん達は今も現役で通用するくらいですからね。あと、珍しい肉があるかはわかりませんけど、何か見つけたら持ってきますよ」


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