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アマリーラさんが照れた理由は別だった

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「リ、リク様があんな事を言うから……」
「え?」
「私の事を、可愛らしいなんて……昨日も今日も、これだけの強さを目の当たりにして、あんなことを言われたら、どう反応していいかわかりません……」
「うぇ!?」

 尻尾と耳をピンと伸ばしたまま、アマリーラさんが話してくれた内容、照れていた理由は二刀流さんの心の叫びではなく、俺が言った事に対してだったらしい。
 確かに可愛らしいと言ったし、本心でもあるけど……まさかそこに照れていたとは。

「い、いやでも、さっきの二刀りゅ……じゃなかった、兵士さんの叫びとかは? あれだけ熱烈に、近くにいた俺に敵意を剥きだすくらい、必死だったんですけど?」
「え? あれくらい、兵士と拘わっていればよくある事です。まったく、身の程をわきまえずリク様に挑むだけでなく、あろう事か敵意を向けるとは……飛ばされるだけでは生温いです。そういえば、兵士としてではなく以前にどこかで会ったような気もしますが……まぁ、些末な事でしょう」
「あー、えーっと……」

 兵士さんの事はどう思っているのか、アマリーラさんに聞いてみると、キョトンと目を丸くされてしまった……なんというか……二刀流さん、脈ありじゃなかったようです……色々と辛い事が多いかもしれませんが、強く生きて下さい……。
 アマリーラさんの言い方に、何もフォローする事ができず、周囲にいる兵士さん達と一緒に苦笑いしかできなかった。
 二刀流さんはちょっと離れた場所に飛んで行ったため、アマリーラさんの声は聞こえてなさそうだったのが、唯一の救いかもしれない。
 ……後日、酒場でお酒をかっくらいながら大泣きする、二本の剣を腰に下げた兵士さんの姿が目撃されたとかなんとか――。


 それから、次々と小隊長さん達との模擬戦をこなし、再び残っていた兵士さん達を弾き飛ばす作業になる。
 小隊長さん達は、経験豊富なだけあって多種多様な戦い方だったけど、それでも疲れた様子を見せない俺に対し、兵士さんは後半絶望した表情をしていた。
 疲れていないわけでもないんだけど、兵士さん達のほとんどは直線的な動きだったり、最初から諦めていたりもしたからなぁ……諦めていた兵士さんには、アマリーラさんからきつい檄が飛んでいたけども。

 一応、小隊長さん達以外にも、それなりに工夫しようと見られる戦い方の人はいたけど、後が詰まっていたからじっくりやり合うのは時間がかかり過ぎるかなって、さっさと終わらせていたのは、訓練という事を考えると微妙だったかもしれない。
 数が多いから、時間配分まで上手く考えられなかったなぁ。

「……こちらの方が、面白そうな状況だったみたいだな」
「シュットラウルさん」
「侯爵閣下に敬礼!」
「構わん。今は訓練で疲れている……というのとは少し違うようだが、気にするな」
「はっ!」

 兵士さん達全員の相手が終わった頃、ユノの方を見物していたシュットラウルさんがきた。
 声を掛けられて気付いた俺とは別に、積み重なったり座り込んでいた兵士さん達が立ち上がり、小隊長さんの一人が号令をして敬礼。
 ……積み重なっている人は、一部腕や足が絡まったようで、立てない人もいたようだけど。

 そんな兵士さん達に手を振りながら苦笑し、敬礼を解かせるシュットラウルさん。
 苦笑は、絡まって抜け出せなくなっている兵士さん達を見てのようだ。

「皆、リク殿にこっぴどくやられたようだな。人が飛ぶ姿は、端の方から見ていても壮観だったぞ?」
「見せるために飛ばしたわけではないんですけど……ははは……」

 何をどうしているか、まではシュットラウルさんからは見えなかったようだけど、俺が兵士さんを弾き飛ばして円の外へ放り出すのは、よく見えていたらしい。
 まぁ、数メートルくらい飛んでいたから、兵士さん達に囲まれている外側からでも見られるよね。
 鎧が硬かったおかげで、それくらい吹っ飛んでもほとんど軽傷で済んでいるけど……一番痛みとかを与えたのが、俺の打ち付けた木剣というのは、もう少しやり方を考えた方がいいのかもしれない。

「こちらの方を見物していた方が、もしかしたら楽しかったのかもしれんな。アマリーラ、どうだった?」
「はっ、リク様が次々と兵士を木剣で弾き飛ばす姿は見事でした。ですが……一部の小隊長格との模擬戦以外、ほぼ同じ流れでしたのでシュットラウル様が楽しめるかどうかは、わかりかねます」
「遠くからも見ていたからそうなのだと考えていたが、鎧を着た者を木剣で弾き飛ばすという時点で、普通ではないな……」
「木剣の交換はしましたが、折る事なく兵士達が身に着けている鎧の全てが変形しております。それを数百回……さすがリク様としか言いようがありません」
「うむ。まぁ、兵士達はリク殿が戦った魔物の気持ちがよくわかっただろう。……模擬戦開始前に、木剣の提案を受けて良かったと思うな」
「もしあれが、刃のある武器で為されていたと考えると……今頃兵士達全員の命はなかったかと」

 俺を余所に、アマリーラさんと話すシュットラウルさん。
 確かに木剣で金属の鎧をへこませる……変形させ続けていたけど……ほら、多分シュットラウルさんとかアマリーラさんとか、それこそヴェンツェルさんとかでもできると思いますよ?
 数百人の兵士さん達全てにと考えたら、できるかわからないですけど……。
 もし俺が木剣じゃなかったらと、シュットラウルさんとアマリーラさんの話を聞いていた兵士さん達が、一瞬で顔面蒼白になった……いやいや、訓練だから多少の怪我はまだしも、命までは取りませんからね? だから木剣を使う事にしたんだし。

「そ、そういえば、ユノの方はどうでしたか? シュットラウルさんの言い方だと、あっちはあまり楽しくなかったようですけど」
「うん? そうだな……」

 このままこの話を続けていると、兵士さん達の俺への印象がどうなるか不安だったので、慌てて話を変える。
 ユノがちゃんと教えられているかも、確認しないといけないからね。

「次善の一手だったか。あれは素晴らしい技だな。私も多少試してみたが……」
「参加したんですか……」
「訓練すれば誰にでも使えて、強くなれると聞かされれば、興味が出るのは当然だな。まぁ、私はとりあえず試しただけで、自己鍛錬をしなければならないが……それでも、想像した以上の成果だったな。だが……まぁ訓練としては地味でな」
「やり方を教えた後は、ひたすら反復しながら練習ですから、地味でしょうね」

 魔力を武器に這わせる次善の一手だけど、傍から見ている限りでは、集中して剣を振っている練習くらいにしか見えない。
 打ち合ったりしなければ、素振りとほとんど変わらないからね。
 使用法を教えられたり、興味があって自分も試したりしているうちは物珍しい感じもあるだろうけど、反復練習になったら面白さなんてないも同然。
 それなら、こっちの模擬戦を見ていた方が、シュットラウルさんが言う通り楽しく思えたかもしれない……二刀流さんには悪いけど、アマリーラさんを巻き込んだ、ちょっとした事もあったからね――。

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