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結界の応用は慣れないと難しい

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「さすがに、エルサの背中に乗せて運ぶのは、汚れそうだしなぁ」
「絶対嫌なのだわ。私の毛が魔物の血で汚れてしまうのだわ!」

 オークは運ぶ際に、ある程度血抜きはしてあるんだけど……だからといって完全じゃない。
 エルサの背中に乗せたら確実に、毛が汚れてモフモフが損なわれてしまいそうだ。

「そういえば、以前ワイバーンを大量に運んだあの方法はどうなんだ? 結界で包んで、だったか」
「あぁ、そんな事もあったね。んー……できなくはないか。エルサ?」
「仕方ないのだわ。汚されるくらいなら、やってやるのだわ」

 結局、エルサが持ち帰る魔物達を結界で包み、空に浮かせた後移動させて持ち帰る事になった。
 俺達は、身軽な状態で歩いて帰れるからありがたい。
 ちなみに、俺も同じ事をやろうと思ったんだけど、結界に重さがかかっている状態で動かすのが難しく、エルサに全部任せる事になった。
 できなくはないんだけど、進みが遅くてセンテに着く頃には夜が明けてそうだったからね。

 これまで、結界を移動させたり色んな形にしたりはしたけど、何かを包んでその重さがかかった状態で維持と移動をやっていなかったから……。
 すっかり結界を使うのに慣れたと思っていたけど、まだまだだったらしい。
 そうして、ワイバーンやオーク、その他の魔物から切り取った部位をまとめて移動させ、センテへと向かった……素材がまとまってふよふよと宙に浮いて動く光景は、中々というかかなり異様な眺めだったけど。
 センテ東門で衛兵さん達が何事かと驚き、緊急事態発生の報せが街中に広がりそうになって、この方法で倒した魔物を運ぶ方法は使わないように決まった。

 一応、街の近くまで運んだりとかでは使うけど、あまり人目に触れさせない方が良さそうだからね。
 便利なんだけどなぁ……。


 当然街中でも結界で素材を包んだままというわけにはいかず、衛兵さん達にも手伝ってもらって冒険者ギルドに運び込み、お礼を言って別れた後、素材をギルドに買い取ってもらう。
 数が多いので、査定などに時間がかるらしく、報酬は明日になるらしいけど。
 あと、ワイバーンに関してはそのまますぐ素材として使うのではなく、調査をするので保管だけお願いしておいた。
 魔法講義の空いた時間で、フィリーナが調べてくれる事になっている。

「して、リク殿達が戦ったワイバーン……疑うわけではないが、本当にいたのか?」

 なんだかんだとやる事を済ませ、ようやく宿に戻って来て遅くなった夕食を頂くため、使用人さん達に荷物を部屋に持って行ってもらってから、食堂へ入ってすぐ、待ち構えていたシュットラウルさんの第一声。
 俺達がワイバーンだとか、街の北東へ行く事はリネルトさんからちゃんと報告されていたらしく、遅くなる俺達を夕食も食べずに待ってくれていたらしい。
 まぁ、夕食会がそのまま報告会になるから、そのためでもあるんだろう。

「間違いなくワイバーンがいました。倒したワイバーンは冒険者ギルドに持って行きましたし、センテの門を管理する衛兵さん達も見ています」
「ふむ……いやまぁ、確かめたかっただけだからな。そちらに確認を取るまでもなかろう。リク殿を信じる。だが、ワイバーンか……」
「王都に大量に向かって来て、それらと戦いましたが……ここらでワイバーンがいる場所とかってあるんですか?」

 それぞれがテーブルにつきながら、用意された料理に手を付けつつ、シュットラウルさんと話す。
 念のため、ワイバーンがセンテ付近もしくは侯爵領内にいるのかを聞いてみる。
 センテで目撃されていなくても、領内にいるのであればそれが利用されている可能性もあるからね。

「いや、少なくとも我が侯爵領内では、複数のワイバーンが留まるような……巣のようなものはないな。まぁ、アテトリア王国全土で考えるとワイバーンはいるし、領内の上空を飛んでいるのを確認された事もある……数年に一度あるかないかくらいだがな」
「そうですか……それじゃやっぱり、どこかから連れて来られたかとかなんでしょうね」

 王城に押し寄せた大量のワイバーンの事を考えれば、アテトリア王国内に巣があるのは確実だろうけど、少なくとも侯爵領内にはないようだ。
 本来いるはずのない魔物がいるというのは、考える要素の一つとして重要でもある。

「それよりもリク、ワイバーンが再生するっていうのは本当なの? そんな事、私は聞いた事がないわ……冒険者ギルドに持ち込んだ倒したワイバーンは、確かに部位の数がおかしかったし、調べるのを請け負ったけど……」
「本当だよ。だから、翼や足の数が合わないんだけど……」
「……その、再生というのはどういう事だ?」

 魔法の講義は早めに終わっていたらしいけど、俺達が宿に戻る前に冒険者ギルドに寄るだろうと考えて待っていたフィリーナとは、素材の納品時に合流。
 その時に、ワイバーンの事を話して調べるようお願いしておいたんだけど……実際にワイバーンが再生する場面を見ていないフィリーナには、あまり信じられない事だったらしい。
 もちろん、まだ宿に戻ってきたばかりなので、シュットラウルさんも再生については知らない。

「えっとですね、ワイバーンの魔力反応を見つけてから……」

 とりあえず、まとめて説明するために俺が探知魔法で、ワイバーンと思われる魔力の反応を感じたところから、順を追って伝える事にする。
 フィリーナには簡単に伝えているとはいえ、詳細も交えて教えておいた方が、話しがスムーズだろうからね。
 食事を進めながら、俺だけでなく、モニカさんやソフィーやフィネさんからも補足してもらう……ユノやエルサは、夕食に夢中だから説明の補足などはしてくれそうにないから。

「ワイバーンの翼や足を斬り取っても、再生をする……か」
「これがリク以外から聞かされていたり、実際に見た素材の数が合わない事などがなければ、信じられなかったわ」
「まぁ、実際に見た俺も、自分の目を疑ったからね……」

 ワイバーンの再生について初耳のシュットラウルさん、改めて話を聞いたフィリーナ。
 両方が信じられない……と言った表情でありつつも、真剣に聞いてくれているので、俺の話が単なる与太話として聞かれているわけじゃない事がわかる。
 まぁ、フィリーナは実際にワイバーンを見ているのも大きいけど。
 同じ食堂にいる、執事さんやメイドさん達もワイバーンの話を聞いて、驚愕している様子だ。

「リク、一つ質問なんだけど」
「なんだい、フィリーナ?」
「その再生っていうのは、本当に斬り取った部位が新しく生えてきたの?」
「うん。だから、二体のワイバーンを倒しただけなのに、翼の数や足の数が多いんだけどね」

 フィリーナからの質問……というか確認に頷く。
 斬り取ったのが足ならば、斬り取られた足はそのままにワイバーン本体の足は新しく再生する。
 それが翼でも同様だ、唯一違うのは首だったけど……それも、一瞬だけ再生しようとする風に見えた。
 見ただけの印象だと、エクスブロジオンオーガのように本来のワイバーンが持つ再生能力と言うよりは、無理矢理再生させられているようにも見えたっけ――。


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