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カイツさんはとんでもない方向音痴

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 頷いて、カイツさんの泊まっている宿を調べてくれるらしい、シュットラウルさん。
 フィリーナが言うように捕まえるというのは、ちょっと物騒だけど、エルフは人の目を引くから泊まっている宿を探すのは難しくなさそうだ。
 朝出立前のカイツさんに頼んで、俺とフィリーナは農地へ……冒険者ギルドへの説明は、モニカさん達が請け負ってくれた。
 フィリーナが調査する、という予定になっていたのに別のエルフが行ったら、説明しないと混乱しそうだからね。


 翌日、早めに朝食を頂いて宿を出る。
 モニカさん達は冒険者ギルドに向かい、俺とフィリーナはカイツさんの泊まっている宿へ。
 シュットラウルさんは、先に東門へ向かって行ってもらっている……カイツさんの説得に成功したら、俺達もそちらへ向かう予定だから。
 エルサは俺の頭にくっ付いたまま、満腹感に任せて寝ている。

「それにしても、カイツは本当にもう……」

 カイツさんがいるらしい宿へ向かいながら、溜め息を吐くように言うフィリーナ。
 宿に関しては、カイツさんが特にエルフである事を隠していなかったので、すぐにわかったようだ。
 まぁ、耳を隠しても美形だから目立つし、隠すのは難しいのかもしれないけど。

「カイツさんって、そんなに方向音痴なの? まぁ、ヘルサルから王都に行こうとして、センテに来ている時点でそうなんだろうけど」

 東西の方角を間違えているわけだからなぁ……入り組んだ道で迷子になるのとはわけが違う。
 というか、途中で気付きそうなものだけど。
 ……エルフの村って、結構無秩序に家を建てられている影響で、迷路みたいになっているから方向音痴だと生活に支障が出そうでもある。

「相当よ。方向感覚というものがないと言ってもいいわ。道を右に曲がると教えたそばから、左に曲がる事もあったわね」
「……左右を間違えるとか?」

 ちゃんと考えればわかるんだけど、咄嗟に左右がわからない人っていうのはいるもんだ。
 東西も捉え方によっては左右と言えなくもないし……そういう間違いをしているのかな?

「そんなちゃちなものじゃないわね。そもそも左右ってなんだ? なんて言い出すくらいよ。教えても、すぐに忘れるわ。酷い時なんか、少し大きめの家の中ですら迷うのよね……多分、私達が今泊まっている宿に来たら、確実に迷う事請け合いね」
「そんな事を保証する必要はないけど……そうなんだね」

 それはもう、方向感覚というより空間把握能力に問題があるんじゃないだろうか?
 右や左を教えても、左右と言う事そもそもに疑問を持つのは、わからないとかではなくて研究者らしい哲学的な考え方をしているような気もするけど。
 哲学とか、俺にはよくわからないけど。

「とにかく、カイツが村の外に出る時は必ず誰かが案内役をやって、手を引いて連れて行くのが恒例になっているのよ。そもそもほとんど外には出ないけどね」
「村の中は、大丈夫なの? 今の話だと、エルフの村の中でも迷いそうだけど」
「迷いそう、ではなくて迷うわね。まぁ、その時は他のエルフが見つけてカイツを引っ張って、家まで連れて行く事になっているわ」

 完全に、迷子の扱いだなぁカイツさん。

「それなのに一人で村を出てくるなんて……放っておいたら、国外に出ているとかもあり得るわ」
「いや、さすがにそれは……言い過ぎなんじゃない?」
「カイツを甘く見過ぎよ、リク」

 いくら何でも、国外にまでは行けないんじゃないかなぁ? 俺も行った事はないけど、街にはいる時よりも厳しく審査されるし、身分証とか許可証なんかも必要らしいから。
 冒険者は、ある程度自由が利くらしいけど……目立つエルフだと、通してくれなさそうだ。

「そう言われても、国境には関所があるから」
「関所を通ろうとすればね……」
「関所を通らないと、さすがに国外には……」

 いけないはず……いけないよね?

「でも、エルフなのが逆に良かったのかしら。今回みたいに目立って目撃情報が出るから、早々に見つけ得られて良かったわ」
「リネルトさんが偶然声をかけたからだけど、まぁ同じ街にいれば探すのも苦労はしないかな? っと、ここだね。懐かしいなぁ……」
「あら、リクはここにきた事があるの?」
「うん、まぁね」

 話しているうちに、カイツさんが泊まっているらしい宿に到着。
 そこは、エルサと出会う前、獅子亭のお使いでセンテに来た時泊まった宿だ。
 併設されている食堂の料理も美味しいし、宿の設備は高級宿を経験した今では値段相応だと思うけど、あの頃は上等な宿だと考えていたからね。
 その時の事を簡単に話しつつ、フィリーナと一緒に宿に入り、カイツさんの事を尋ねた――。


「ぬかったわ! カイツの行動がこんなに早いなんて!」
「カイツさん、朝は早い方なんだね」

 尋ねた宿を出て、走りながら叫ぶフィリーナ。
 俺の顔を覚えてくれていた、宿屋の人に聞いた話によると、カイツさんは俺達が来る少し前に宿を出て旅立っていたらしい。
 アルネを見ていると、研究者だから遅くまで起きていて朝は遅いってイメージだったんだけど……カイツさんは別だったみたいだ。
 まぁ、旅先だからかもしれないけど。

「それでリク、そのホルザラって人の店は!?」
「えーっと……あぁ、あそこだ」
「あそこね!」

 走るフィリーナが探しているのは、ホルザラさんのお店。
 野菜類の問屋さんで、先程の宿屋と同じく獅子亭の仕入れのために尋ねたお店だ……というか、ホルザラさんのお店に行くために、センテに来たわけだね。
 何故そこへ向かっているのかと言うと、センテの野菜にいたく感動したらしいカイツさんは、宿の人に聞いてそこに向かうと言っていたかららしい。
 卸と問屋だから、小売りはしていなさそうなんだけど……大量に買いたいとも言っていたとか。

 もしかして、エルフの村に卸して欲しいとか頼むつもりなんだろうか? さすがに、単身の旅で大量の野菜を買い込むとは考えられないけど……まさかね。
 そんな事を考えながら、前を走るフィリーナに指でホルザラさんのお店を示す。
 すぐさまそこへ向かって駆け込むフィリーナ……ホルザラさんに迷惑がかからなければいいんだけど。

「失礼するわ! カイツという奇妙なエルフが来ませんでしたか!?」
「奇妙なって……」
「いらっしゃい……って、エルフ? と、リク様!?」

 お店に入って、大きな声で問いかけるフィリーナに、苦笑する俺。
 簡素な作りのお店に、相変わらず大量の野菜が詰まれていたり、野菜の詰まった木箱が乱雑に置かれている。
 そのお店の奥、カウンターの向こう側に中学生くらいにしか見えない、こど……いや、女性がいた。
 その女性、ホルザラさんが俺達を迎え、フィリーナを見て驚き、さらに俺を見て驚いて声を上げる……俺の事、覚えていてくれみたいだ。
 まぁ、様を付けているから、最近の噂だなんだを知っているんだと思うけど。

「お久しぶりです、ホルザラさん。すみません、いきなり……」

 突然の質問は失礼だと思い、挨拶をしながらフィリーナの後にお店に入りながら、代わりに謝った――。


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